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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/07/10 (Tue) Comment(0)
初めから → 赤い人魚と青い人形の話 1


女の子を守る男の子は、いつだってヒーローです。








夜に歌声を聞いた者が多いと言う。だからわざわざ灯火もない夜の川べりに出かけ、足を滑らせた者が多いのだ。リンはそう読んでいた。
おそらくは昼間にも彼女はいるし、歌に惹かれて水に落ちることもない。祖母の物語は夜に現れるものとは言っていないし、守り部であることを考えれば水に引くはずもないのだ。
男が提案した淵を渡る橋から臨むと言うのは良い考えに思えた。目標は歌声ででもローレライの存在を確認して、無事に帰ること。リン自身があの淵に住むと言うそれに害のないことの証拠になるのだ。
できればその存在と向かい合って確かめたいが、危険を冒すわけにはいかない。リンの不注意の怪我でも、嘘の噂を流す連中にかかればきっと、ローレライのせいにされてしまうに違いない。
レンは心配するけれど、リンだってそのくらいのことは考えている。それにも憤りながら、橋へと向かい村の子なりに親しんだ道を、どんどんと進んでいった。
その後ろに続きながら、レンはちらりちらりと後ろを帰り見、カイトを窺っていた。リンが危険な雪の残る川辺から遠ざかってくれたのは喜ばしいが、見ず知らずの妖しい男が同道では安心できなかい。レンにとってカイトは妖しく、不穏で、リンには近付けられない不審者だった。
カイトは二人の子供を後ろから追う。追いかけているのではない。追い詰めているのだった。ついて歩くのは、決して逃げられないようにするためだ。
やがて鳴り渡る川音を聞き、リンは息を詰めた。耳を澄まし、歌声を拾おうとする。だが歌は、それどころか生身のものが発するらしき音は一つも聞こえなかった。
ただ水の流れる音がする。肩を落としながら橋のたもとにまで歩きつき、リンは開けた視界を見渡した。古い吊り橋だ。風に揺られて軋む。
もう一度川音に耳を澄まし、リンは改めて決意した。ぐ、と一歩を踏み出す。
リン、とレンは名を呼んだ。僅かに不安が湧いたのだ。だがレン自身も急流が轟かせる川音と、古ぼけた吊り橋の組み合わせに当然の不信が不安を呼んだのだ、と思っていた。
だから強くは留めなかった。振り返って、気を変えてレンと共に帰途をたどってくれたら良い、とあえない期待をかけただけだった。
リンはやはり。
「怖いんだったら、帰っていいわよ!」
半身で返り見、レンを睨んで苛立ちを隠さない声を上げた。おおよそで予測をしていたレンは、苛立ちを返すことをせず深く息をつくに留めた。
リンは向き直る。橋の中ほどまで歩いて行けば、淵が川下側に見渡せるのだ。
レンはリンを追う。古い橋だが子供二人の重さくらいではびくともしない。後ろからさらに男がついてくるようならば留める心積もりもあったが、さすがに来ないようだ。橋の入口辺りで足を止めている。
橋口に佇んで、カイトは笑んだ。少女と少年が橋を半ばに渡るのを見守る。もちろんただ見守るつもりはない。それは、彼女の役目だ。
淵にまつわる人を守るのが彼女の役目だ。それがある限り、彼女の存在が失われることはない。
人が、集まりさえすれば良い。侮って近づけば足元を掬われるのは必定。水に落ちれば、彼女がきっと救うだろう。
揺れる橋の上、リンが足元の川を覗き見た。レンもリンに注意を払いつつ、それとなく川面に視線を巡らせていた。
水面に光る細波の下、メイコの泳ぐ影がゆったりと揺らいでいた。


 

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