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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/08/10 (Fri) Comment(0)
初めから → 赤い人魚と青い人形の話 1






斜陽のアトリエで、カイトは人形の頬を撫でた。造作は自分に似せた。青年期。その方が釣り合いも取れるだろうと考えてのことだ。
病状を知り、死の際に立たされて心にかかったのは、かけた誓いを果たせていないということ。それ一つきりだった。
見る者はなく、カイトは青の眸を細める。
「愛しい人。会いにゆくよ」
人の道を、理を外れるとも、再び見える日を望む。そのために造り上げた、これは器だ。
目の前のヒトガタを見詰めながら、遠い空の下のひとに微笑んだ。
「ねえ、メイコ」
 
 



 
薄く目を開くと白い光が眩しかった。
景色はなく、辺りは白い光だけに包まれていた。ここは彼方側の岸だろうかとぼんやり、思う。
誰かの泣く声が聞こえた。
「カイト……カイト」
泣く声は呼んでいた。それを認めてカイトは判じた。泣き声はメイコのものだ。
カイトは意気を振り絞る。メイコが泣いているのだ。カイトにはたったひとり大切な人で、愛しいひと。
眼前、実際にはカイトの顔の上に覗きこむ輪郭が、おぼろげなものから少しずつはっきりとしてくる。白い光に包まれて影がさしていたが、それは確かにメイコで、泣いていた。カイトの頬に、唇に、ぽたぽたと涙が落ちてくる。
「メ、イコ……」
声は掠れた。せっかく彼女の名を呼ぶために声帯を苦心したのに。
カイトはようよう手を持ち上げた。重い。メイコの助けになるよう、人並ならぬ膂力を出すよう作ったのに。
メイコはふらり持ちあがった手を取り、自分の頬へと導いた。その手を伝い、また涙が落ちていく。メイコが美しい面差しを歪めた泣き顔に、カイトは胸苦しさと共に充足感を覚えていた。
「泣かないで……」
けれど同時に思う。僕のためだけに泣いて。
人形師として得た技術のすべてを尽して作り上げた機構も組織も、崩れ始めている。水に飲まれたのは大きい。多少ならばともかくも、濁流にあっては人の手になるものが応じ切れるものではない。
だがそれ以上に、カイト自身が満足しかけていた。
誓いは果たした。その上でメイコの記憶に傷跡のように深く思い出を残していけるのなら、充分に満たされる。思い残すことは何もない。
カイトは微笑んだ。
「泣かないでよ……メイコ……」
けれどメイコは泣いている。ぽたぽたと涙が落ちてくる。
「ゆくの? カイト」
初めて見る表情だった。
「また、私をおいていってしまうの?」
僅かに、カイトの胸に悔いが湧いた。
メイコの存在を周知させる功は成したはずだ。彼女はまた口伝えの中に語られる。人がいて、伝承がある限りは存える。
けれどまた、永遠にも等しい時間を孤独に過ごすことになる。幼少の頃から延々、孤独のつらさはカイトも理解している。それを癒してくれる人の愛しさも、その人を失う更なる孤独も。
カイトは白い頬に触れた手の、少しだけ動く親指で濡れる目許を撫ぜた。
「いかない……よ」
嘘だった。
「ずっといる。メイコとずっと……一緒にいるよ」
そんなことは不可能だとわかっていた。外れた道にも理はある。年月を経て成ったつくもの霊位ではなく、思念を込め、人間の手が作り上げただけの器はもう限界を迎えていた。
けれど、そのわかりきった嘘にもメイコは涙ながら、微笑んだ。
嬉しそうに。とても嬉しそうに。
「本当? ほんとう、ね? カイト」
メイコはそっと身をかがませると、カイトの唇にキスをした。
 

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