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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2016/05/01 (Sun) Comment(0)
だいぶ前になのですが、そばゆさん(@sobayorisomen)にエディットお題をホワろまでお願いした時に↓を拝見して大変鼻息荒くなった気持ちを気持ちをウチノコでしたためてみました。

【お題:ホワろま】桜にさらわれそうな
「なあに?」 

*『春の花と手紙の話』の面々。CP はホワイトブレザー×大正浪漫と、こっそりスミレ× ローレライ。
*下の登場人物紹介がすでに本のネタバレ。そのほかは本の内容は特に関わりないです。
* 時代はなんちゃって。妖達もなんちゃって。本名は本性を縛るから呼び合わないとかなんとかかんとか。

# 妖町 http://shindanmaker.com/279875 を参照しつつ

メイコ=大正浪漫
水虎(すいこ)。地蔵の辻に住んでいる学生。独楽を大事にしています。ホワブレは婚約者。

カイト=ホワイトブレザー
欅の木霊(こだま)。桜小路に住んでいる郵便配達人。花の形の痣を大事にしています。浪漫さんの婚約者。本性である欅の樹はとある淵のある川の近くの村の傍に。

************
ローレライ
人魚。
地蔵の辻に住んでいる学生の世話役。昔はとある淵に封じられていた。更に昔には人の子。

スミレ
雨師(うし)。地蔵の辻(学生さんちのはす向かい)に住んでいる機織り。鈴を大事にしています。かつては人の子。その頃にとある淵で人魚に出会い、別れ、再会を誓い、この街でそれを果たした。









桜を見に行きませんか、と誘いをかけてきたのは彼の方からだった。
あやかしたちが、人の子を真似て造った街の端を、川が流れている。川に沿って土を盛って土手を築き、護岸に木を植える。植える樹木は春を彩る薄紅の花の色。開いて満ちれば、人の子を真似て故か生来か、宵の空にも昼日にも集って酒杯を傾ける。
その桜を見にゆこう、と。
カイトが誘いかけてきたのは春の口。小彼岸の気の早いのが一割花をつけた頃。いつものように通学前、郵便を届けに来た彼を出迎えたメイコに、封書を手渡しながら聞いてきたのだ。
「メイコさん。桜を、見に行きませんか」
欅の木霊は勿忘草色の双眸をにこりと細め、もし先約がなければ二人で、と言い添えた。差し出された封書を受け取りながら、メイコは少し口籠る。これはどうやら謎かけだ、とそう思えた。
ただ花見ならば既に二組ほど、友達と、それから家人の人魚とも言い交わしはしている。故郷を離れて暮らすメイコの世話役を担う人魚は、元をたどれば彼の樹を祀る村の人の子、既知の間柄だ。メイコの誘いかけに、重を詰めますから白樹様もお誘いください、と彼女は言った。本当は、今日、メイコの方から彼を誘うつもりだったのだ。日取り良い頃には四人で花見をしませんか、と。
けれど先を越された。
「二人……で?」
答えは微笑みで。
風貌はにこやかで、温厚で、けれど見たままを信じるには淡麗に整いすぎている。彼が心から砕けて笑う時を、知っている。
警戒しながら少し、考えて、メイコは頷いた。
「また今度、ローレライたちとも一緒に行ってくれるなら」
その返しが意外であったようで、ぷはっと息を吐くように笑い、勿論、と答えた。ああ今度は、嘘がない。
「太白が開いて次の、晴れた朝に迎えに来るよ」
承知して、その日は分かれた。
結果、先に交わした約束を先に果たすことになった。家人の人魚と彼女に誘わせた隣人と、彼とで行った真昼の花見は吉野の盛り。お重と花とちょっとの酒杯を楽しんでその帰り際、次は二人で、と密やかに念を押された。
秘した方が良いのだろうかとなんとなく家人には伝えられず、日の過ぎ花を待つ。目安の桜は、並木の中では上流の一隅に三つ並んで梢を揺らすが、通学の行き来には少しだけ遠回りになるから、時間のある日には見に行った。名に恥じぬ白色の大輪が蕾を結ぶと、気を付けて早く起きるようにした。
そしてその日は良く晴れて、頬を撫でる風があった。まだ黎明。けれどメイコは手早く寝巻を替えた。春の花、東雲の空の色を染め付けた袖に手を通し、裾を上げる半幅は菜の花の黄色。臙脂のスカートの上から薄紅の花の刺繍の飾り帯を締め、背筋を伸ばして襟を整えた。
「……うん、よし」
おかしなところは、ないはずだ。
襖戸を開いて何となく、廊下を見回す。家人はまだ、床に就いているだろうか、二人きりの家の中はしんとしていた。誰にか、何にか頷いて、足音を忍ばせて玄関に向かった。
上がりに腰を下ろして、履き慣れた靴に足を挿し入れる。膝までの編み上げを整えながら結っていると後ろから、きしり、床板の鳴る音がした。
「お早いですね」
首を竦めて返り見る。きまり悪く見上げると、人魚はいかにも微笑ましいといった表情で、朝の挨拶を寄越してきた。それを返す、メイコのすぐ後ろに膝をつく。赤と黒を縞にした鰭のような裾が床板に広がって、伸べられた白い指が襟足に跳ねた後ろ髪を撫で梳いた。別に隠すつもりじゃなかったの、と言うと、別に隠されているとも思っていませんでした、と返される。
「空と花と。毎日、確認し(み)てらしたでしょう」
はい整いましたよ、と指が離れていくのを、送る襟足は真っ赤になっていた。笑声を零さない淑やかな人魚の表情に、自分がどんな顔をしているかが想像つく。
立ち上がると急に、身長差が逆転する。見上げくる飴色の双眸が細められ、言伝まで頼まれてしまって、先に話してしまっていた方がよほど良かったと悔いた。とんとんとたたきに爪先を打つ。
「行ってきます……」
引き戸の玄関を開けて出ていく背を、行ってらっしゃいませ、と柔らかな声で送られた。
空はまだ夜の色濃い。東に明星が輝いている。袖の色と揃うまで、まだ少し間があった。庭木の新しい緑はまだ若い。
門を出るとそこにはすでに、白い洋装の青年姿がある。やあお早う、とカイトは言い、お早うございます、とメイコは答えた。
「どうぞよろしく、って」
ローレライが。
言うと、欅の古木の青年姿は、低く喉を鳴らした。門の中、今は閉じられた戸の奥、メイコを微笑ましげに見送った古い伝承を持つ人魚に、微笑ましげな眼差しを送る。彼らの歴史が思われて、メイコは隠すように小さく唇を結んだ。羨む言葉が口をついてしまいそうだったから。
言ったって、仕方がないのに。
勿忘草色の双眸が、ふ、とメイコに返り来て、見詰めた。細められる。
「行こうか」
歩き出す背を、追った。
カイトの青年姿は白い洋装だ。藤色の縁のダブルボタン。黒いリボンタイで彩りも締めるけれど、二歩後ろの背中からは見られない。大樹の姿は二度。出会った冬と、夏に訪ねた時。根本から見上げると、梢は空を覆い隠すように葉を茂らせて、風に揺れる度その合間にきらきらと陽光が輝いた。
思い出しながら追い歩いていたら、カイトが立ち止り、振り返った。左手が差し伸べられる。彼は婚約者で、宵っ張りの妖たちの街はまだ眠りの中にある。一つ、深呼吸をした。
そっと、右手を乗せる。白い面差しの中、勿忘草の花の色の眸が綻ぶのを、見て思わず伏せる。手の軽く包まれるのを、握り返すこともできない。街の端の川までの道はいつまでも続くかと感じられ、けれど思い返せば雲を踏むよう。景色も何も思い出せない。流れる音、水の匂いがしてようやく顔を上げた。
風が吹いた。慣れ親しむ水のそれに、花と青い芽の香りが乗る。彼岸たちはすでに過ぎ去り際、吉野も衣通姫も袖を散らし始めている。風花だった。
「わあ……!」
両手を広げて花の中に立つ。空は中天に東雲色、東は藤色に染まり始め、金色の陽が昇る。返り見て、メイコはカイトに向けて破顔した。
「誘ってくれてありがとう。すごい! 綺麗!」
ああ、うん。と、答えたカイトはどこか複雑そうに、眉根を寄せて笑顔は確かに作る。敵わないな、と聞こえた呟きを問い詰めるには、明けていく空の移ろいが鮮やかで、今はこの景色を一緒に見ていたかった。
陽の昇りきるのと歩みを揃えるように、風はやんだ。花はまだ落ちながら、春を終わらせていく。帰り道、差し出されたカイトの手を、メイコは、握り返した。

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