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2015/02/22 (Sun) Comment(0)
*スカーレットさんとクラシックさん姉弟。
*テールちゃんとネコサイバーきょうだい。
*テールちゃんとネコサイバーはファンタジックな生き物。

大丈夫でしたら[読んでみる]からどうぞ。




*******



記憶は氷のように冷たい雨の日から始まっている。腕の中のきょうだいの温もりと拍動が、次第に小さくなっていくのを必死で繋ぎとめようとしていた。
昼夜の継ぎ目もわからない。降り続く雨を仰ぐことすらすでに苦心で、懸命に手足を丸め、尾を丸め、きょうだいを抱いて俯いていた。
ふと、夏の強い陽射しが影に遮られるように雨滴の頬を打ち付けるのが弱まった。天の気まぐれ、と人のように叙情的な思考を獣の脳が持ったとは考え難い。しかし一過性のものとの予測は立てたはずだ。ネコ自身はそう、振り返る。
だから、彼女を見上げたに意図はない。偶然だ。
身動ぎも億劫になっていたその時の自分自身が、なぜ、その動作をしたかはわからない。だがネコは見上げ、そして出会った。紅の硬質な眼差し。氷雨に打たれ震える小さな生き物に、まるで情愛も憐憫もなく投げかけられるそれは、白刃の問いのようだった。
見上げた青い双眸に、誘われたか腕の中できょうだい猫は身動ぎ、彼女もまた、降り下りる問いに応えた。答えた、のだろうとネコは今は考えている。
この時はまだ、知らない。だがきっと、正答を得たのだ。彼の体躯の成長して、身長では見下ろすようになっても唯一の主と仰ぐスカーレットは、澄んだ玉鋼の眼光を緩めて二匹に手を伸べた。雨に打たれる赤茶色の髪の先から雫が滴り落ちる。黒い手袋が包んだ指先が猫の仔を、二つ塊、摘み上げて抱いた。指先にそっと額を撫でられて、ネコは目を細めた。きょうだい猫は、まだ震えていた。
馬車から従者が、慌てて降りて来て傘を差し掲げる。顧み、スカーレットは要求した。拭くものはあるか。そして自分の肩からケープを剥いで、二匹の濡れた塊をくるりと包んだのだ。ふかふかと体をつつんだ柔らかな布地の向こうに、雨滴の打つ白い肩を見たのをネコは忘れない。
記憶の始まりは氷雨の中、抱かれた温もりから。あの温もりを思い出すから、ネコは今でも雨の日を好いていた。
ネコが。そう、彼のそのおざなりとも感じられる名にも来歴はある。彼の愛する主が一番最初に、彼をそう呼んだのだった。
「きょうだいを懐に庇っていたか。感心なネコだな」
ネコはそれを理解した。フリルで膨らむスカートの上に、ケープに包まれて乗せられ、揺れる。あれはすでに馬車の中で、揺れながら屋敷へ向かっていたのだと、やはり今ならわかる。だがその時には窓の外に景色の流れ行くのなどは一切も気にかからず、ただ、紅色の眼差しがまだ小さな勇姿を讃えるように注がれるのに、途方もない胸の高鳴りを覚えていた。
のちにブラックテールと名付けられ、テールと略されて呼ばれることになるきょうだいは、その時はもうその名の黒い尾を巻いて眠りに落ちていた。安心していたのだろう。疲労も、空腹もあっただろう。けれどもう、テールは安心しきって寝息を立てていた。
「お前も、お眠り」
黒絹の指先が頬を撫で、こめかみの汚れを拭う。囁きは温かく、じんわりと内側に響くようだった。急に覆いかぶさるような眠気がやって来て、ネコは穏やかな紅い眸を見上げた。スカーレットは膝の上の小さな生き物が、何か物問いたげに見上げてくるのに微笑を向けた。微笑をしばし見上げていたが、ネコは、やがてすぐそばにきょうだいの規則正しい寝息のあるのを確かめ、そこに添うように体を丸めたのだった。
スカーレットは膝の上の二匹がすやすやと寝息を揃えたのを認め、窓外に視線を向けた。並木は葉を落として鋭い樹梢を晒している。空は雨雲に覆われて灰色に暗く、車輪が時折、轍に溜まる泥水をはねた。馬車は揺れたが、膝の上の二匹は屋敷に着いてスカーレットが揺り起こすまで、目を覚まさなかった。
スカーレットは本当は二匹のきょうだい猫をただ、猫、と呼んでいただけだった。オスの凍傷ひどく、その手当のために引き離して弟に預けている間に、メスには弟の案により名がついていた。オスにも良い名をつけてやろうと考え込んだのだが、彼自身がネコと呼ばれることにすっかり慣れてしまったようで、呼ぶ度に喜々として応えるのでもうこのままで構わないことにした。名誉の負傷から得た耳と尾のために、いっときは侍女の一人であるリンが、サイバー、とも呼んでいたが結局は定着しなかった。
「ネコ」
スカーレットがそう呼ぶ時、青い目を細め、燐光の残影を描き耳と尾を揺らして、一番の笑みで答えるのだ。
「マスター! 呼んだ?」
明るい日のさす庭で、薔薇のアーチをくぐりきょうだいと遊んでいたネコは、今日も顔を上げた。同じく彼女の弟に名を呼ばれたテールが、顔を上げて二階の窓へ手を振る。
こうなれば、あの窓辺にどちらが早く着くか、競争だ。
ネコとテールは庭土を蹴り上げて、駆け出した。

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