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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2016/04/29 (Fri) Comment(0)
サイズ:A5 48ページ
発行:2014 10/12 COMIC CITY SPARK9
CP:カイメイ、ぽルカ
イベント頒布価格:300円

主役はリンレンなのにカップリングがカイメイ、ぽルカ。
マイゴッドPの『御饌津の祭』を聞きながら書きました。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4410565 に中略されていない2節までのサンプルがあります。






山と原と沼に囲まれ、里はあった。
辺り一帯は『尾登ノ森(おとのもり)』と呼ばれていて、山に湧いた清水は斜面を下り、原を通って、沼とその向こうへ流れ出ていく。梢には鳥が、繁みには獣たちが、そして里の人々はその森の縁に触れぬところで、田や畑を耕しながら暮らしていた。
この里にリンとレンという双子の姉弟がいた。おとうとおかあ、じい様とばあ様たちと一緒に森の縁にほど近い、茅葺きの古い家に住んでいた。実りの季節の稲穂のように明るい髪の色と、高い空のように澄んだ青い眸のよく似た姉弟だった。
リンとレンが七つになる頃、米の取れない年が続いた。里の人々は粟や稗に頼り、しかしいつしかそれも少なくなっていった。


 ✾
(中略)
 ✾


蕗の薹が雪を割り、梅の紅白が春の先を触れる。雪代が流れだし、豊作を祈念して里のものたちが野良に出ていくようになった。土を起こして田植えのための支度をするのだ。リンも、レンも、鋤やら鍬やらを担いでふっくらと色の濃い土を踏み、今年こそたくさんの米が取れるのだと胸を弾ませた。
土を掻き、土を掻き。時折腰を伸ばしては森へ耳を欹てた。狐が鳴いてる。うん、狐が嫁入りの支度をしてるんだ。目配せし合い、二人だけで笑いあう。
あの日から度々、リンとレンは狐の会合の場所を探した。ひどく心配をかけてしまったから、そうそう頻繁にも、日暮れを見るほど遅くまでも探せなかったが、森に入って迷った道筋をもう一度見つけ出そうとした。
けれど見つからなかった。何度たどっても、ここだという場所に出ない。おとうとおかあには馬鹿を言うなと叱られた。ばあ様は夢だったんだよと慰めるように二人を撫でる。リンとレンの記憶には、満天の星と月鏡、揺らぐ狐火。しかし実際にはあの日は二十三夜で、帰り着いたのは残照の微かに灯るうちだったから、確かにおかしいのだけれど夢ではない。
田に水を張って苗を植える頃、リンとレンはまた森へと分け入った。芝刈りの山道から脇へ、栗原に向かって繁みを分ける。緑は勢い付いて、青い匂いに噎せ返るようだ。
空は晴天。日の光は輝いて眩しかったが、緑陰は涼やかだ。途中、レンが枯枝を拾い、下草を打ち払いながら先んじた。リンは時折振り返り、道のなくしていないのを確かめる。
いや、もしかしたら。リンもレンも考えないではなかった。道をなくしたときにこそ狐の会合は目の前に現れるのでは、と。
そしてリンもレンも、心の片隅に願いをかけてしまっていた。今一度きり、ほんのわずか覗き見る間だけ、里への道を閉じ狐の森へ道が開かれやしないかと。
二度目なら、疑うことなく信じられると思ったからだ。誰に否定されようとも、きっと二人で信じられる。だから。
その願いは通じたろうか。繁みの奥に、声がした。
レンが振り返り、リンを見る。リンは頷き、レンを見つめる。獣の声ではない。里で聞いた狐の鳴く声でもない。人の言葉で話し合う声だ。足を忍ばせ、声の方へと二人、歩み寄っていった。しかし、リンとレンの見たものは、あの夜とはまるきり違うものだった。
山躑躅の灌木の陰に身を伏せ、隙間からそっと覗く。青葉の折り重なる間に見えたのは数多の狐ではなく、ひと組の年若い男女だった。だが里のものではない。人でもないだろう。ほとんど人の姿をしながら、彼らは耳と尾に狐の影を残していた。
娘は赤毛。小作りな輪郭の丸い顔立ちで、青年に向けて見上げた眸は櫟(くぬぎ)の実ような赤茶色。弱り切ったように眉尻を下げている。
青年は青毛。細身のどちらかと言えば優男で、しかし憤懣遣る方ないと言うように口を結び眉間を寄せていた。険しい眸は蛇の髭の実のような青藍だ。ふたりとも野良着を着て、接ぎこそないがところどころにほつれが見えた。
娘が青年を、カイト、と呼んだ。
「ききわけて。お願いだから」
言い募る、声にしかし青年は首を振る。
「嫌だ。約束も何もかも、俺の方が先だった!」
娘と青年の関係が、大人の男女のそれであることは容易に知れた。リンはレンを、レンはリンをちらりと見遣る。このまま聞き耳を立てていて良いものか。
青年の叩きつける、声は駄々を捏ねる童のように頑なで、赤毛の娘の眉はますます八の字になっていく。渋面に根気良く問いかけ、諭しているようだった。
「嫁入りがまつり事なのはわかってるでしょ? 森の皆に関わることなのに、私だけの都合で疎かになんてできない」
赤狐の耳も項垂れて、ほとんど横に寝てしまっている。青年の方は耳を後ろに向かって寝かせ、尾の毛まで逆立てるようだ。誰も、目の前の赤毛の娘の他は聞いていないと思うからだろう。声は次第に荒げられ大きくなっていく。
「でも! メイコでなくちゃならない決まりはないんだ。歳ばかりで言うならルカだって……」
「カイト!」
人身御供を他者になすりつけるような言い様を、娘は責めた。青年もはっとして、気まずくは思ったようだ。一度、言葉に詰まる。しかし遣る方ないには変わりない。
「メイコは……」
低めた声は、すぐに堪えきれなくなったようだ。
「メイコは! 俺じゃなくて印田沼の若殿様に嫁ぎたいの?」
刹那、娘の頬が上気した。乾いた音が鳴る。平手が振り抜かれていて、櫟の実色の眸には涙が浮いていた。青年は明後日を向かせられ、はたかれた頬には薄赤く跡を残してしまっている。弱り切って下がってばかりだった娘狐の眉尻が、きりきりと吊り上がっていった。
「ばかっ……!」
暫し二匹(ふたり)、そのまま押し黙った。
青年ははたかれたそのままに項垂れて、かかる青毛は横顔を隠す。激昂に振れていた青藍の眸は今は伺えない。娘は打ち付けた掌を握り、下ろした。火の点いたかと思った櫟の実の赤茶色は、今は濡れて揺れている。しかめっ面、唇を噛む。
二匹の後ろに姫空木の花がはらはらと揺れていた。新緑に小さな白い花はまるで雪を乗せる様。青年は身動ぎ、娘に背を向けた。
「ごめん……」
落とした肩が小さく、その背は寄る辺ない。娘は唇を結んでその背を見つめ、リンとレンは息を呑んで二匹を見つめていた。
青葉若草の匂いを乗せて、森に風が吹く。姫空木の白い花もささらと揺れた。薫風は、背を向けた青年と、頑なに強張る背を見詰めた娘の合間も、吹いていく。
小さな草鞋の足がその背に一歩と歩み寄り、娘は振り向かない青年に額を押し付けた。
「私こそ、ごめんなさい」
目をつむり、背の服地を握って今度は彼女の肩が、振れたろうか。声が精いっぱいに明るくなる。
「カイトの事、好きよ。きっと一緒になるんだ、って思ってた」
でもね、呟いて娘は青年の着物の背を強く握る。リンにも、レンにも、今度は娘の表情も見ることはできなかった。すんなりとした赤毛が白い頬に揺れる。
「でも朱月の狐の任された責を投げて、他の皆の幸せを投げて、私だけ幸せになんてなれない」
青年の身が翻った。くるり振り返って娘の小さな肩を抱き締める。その表情は悔いていた。歯噛み、眉根を険しく寄せて、しかし眉尻は下がり先ほどまでのように怒らせてはいない。娘はすっかり腕の中にくるまれて、肩を震わせるも頬を涙に濡らすも、リンとレンには見て取れない。彼女が泣いていたかなんて、判じられやしなかった。
緑の中に姫空木の白い花が揺れていた。

(後略)


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