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2015/08/19 (Wed) Comment(0)
濡れた浴衣姿で誘惑しているいぬ式オンザロレライを妄想してみよう。
http://shindanmaker.com/124702

と出ましたので妄想したのですが、浴衣を着せ損ねた上に誘惑しているつもりはローレライさんにはまるでありませんでした。







営業を終えた店内は無人。ピアノ弾きは窓辺に立つ。鍵盤をたたく長い指を窓に這わせ、目を細めた。
青い眸に映る旧い街並みはその機能を止めたまま雪に埋もれ、空はその雪を降らせる雪雲を敷き詰めている。触れる無色透明は指先に冷たいが、外と内との寒暖は全く隔てて曇りない。ガラスは特別製。その向こう広がる白色に覆われた世界を、額縁に嵌められた絵画か、液晶に映し出される映像かのように見せるためだ。ピアノ弾きはやがて背を向け、窓を離れた。
店には客を通すための正面口のほかに勿論、従業人の出入りする裏口がある。統括を兼ねるピアノ弾きは正面から出入りする権利を持つが、彼が開けたドアは、裏を階下に向かう装飾のない階段へとつながっていた。一歩下るたび、革の靴底がひやりとしたコンクリートに靴音を響かせる。
反響を聞きながらくだりくだり、もう一度開けたドアは最下層近く。契約の名のもとに飾り物たちが居住を与えられる、小部屋の並ぶフロアだ。階層を変わらなければ出歩くのは自由とされているが、自分の部屋を出たところであるのは長く続く薄暗い廊下と、他人の部屋だけ。飾りものとしての勤めを果たす以外には、部屋から出ない者がほとんどだった。
だから、ピアノ弾きがある部屋の戸を叩こうとした時に内側から、急に開かれたのは驚愕に値する出来事だったのだ。本来は。
怒声とも悲鳴ともつかない雄ネコの声と共に押し開かれるドアをあやうく避けて、飛び出した青い塊の走り去るのを見送る。光跡を残してくねる長い尾を、掴むことはできたかもしれないが敢えて成そうと言う気は起きなかった。ネコは禁を犯して、ピアノ弾きが今しがた出てきたばかりの階段へと入っていったが、見過ごす。行く先は知れていた。彼にはそれよりも、室内が気掛かりだった。
半ばまで開いたドアを引き見渡すと、彼女の姿がない。そして水音がしていた。フロアスタンド一つの暗がりの部屋へと入り、後ろ手にドアを閉める。大柄のネコは、そこらにある物を撥ねながら走り去ったようだ。数少ないインテリアである猫足の椅子が、ひっくり返って倒れていた。それを起こしながら、裸電球を吊ったばかりの廊下よりも暗い部屋の奥へと向かう。シャワールームを開けると、やはりそこに目当ての人物がいた。湯けむりの上がる床に尻をつけたまま、緋色の眸が昏く、見上げてくる。
「大丈夫ですか」
ピアノ弾きは手を伸ばし、蛇口をひねる。シャワーを止め、流水に打たれ続ける惨禍から遠ざけた。座り込んでしまって立てず動けず、苦心していたらしい唇から、ほっと一つ息が漏れるのが見えた。
「ごめんなさい……」
ネコにどうにか湯を使わせようとしたのだと言う。好かないのはわかるが、身綺麗にするように、と。
流れていたのは温水。平生、青褪めて見えるほど白い頬は上気している。彼女の輪郭に合わせて設えられた黒いドレスはいつもよりもぴたりと沿って、その括れと丸みを浮き上がらせている。身振り手振りに揺らぐはずの魚の鰭のような、袖は上半身を支える細い腕に、裾は投げ出された足の白い肌を這っていた。頤に張り付いて乱れた毛先から滴が落ちて、鎖骨にぽたりと撥ねた。
こくりと一つ、飲みくだす。その喉の音を聞いたかもしれない。ローレライが見上げて小首を傾げた。オンザロックは柔らかく微笑した。
「濡れたままの服では障りますよ」
棚から取り上げたタオルを濡れた肩に掛け、背の結紐に指を伸ばす。薄い皮膚に浮かぶ脊椎がぴくりと震えた気がしたけれど、鍵盤をたたく長い指は構わず絡めとって紐をほどいた。

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