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2015/02/22 (Sun) Comment(0)
*スカーレットさんとクラシックさん姉弟。
*テールちゃんとネコサイバーきょうだい。
*ローレライさんとギルティくんは姉弟でアレな関係だけど今回はその話題は具体的にはない。
*テールちゃんとネコサイバーはファンタジックないきもの。

大丈夫でしたら[読んでみる]からどうぞ。




*******



こっそりと扉が押し開かれた時。
スカーレットは俯いて白い紙片にインクを落としていた。机の端の向こうにくねりと揺れる長い尾にも視線は振れず、ペン先を走らせる。淀みなく、留まらない。文面に迷う素振りもないから視線が上がることもなく、侵入者がそのすぐ背後に来てもまだ、紅染めの色の眼差しは紙面に当てられていた。
白い手袋に包まれて、痕跡の秘匿を狙うかのような指先がスカーレットの背に迫る。長い腕が伸びて今まさに、剥き出しの肩に巡らせられようとしていた。あわや。
ペン先が紙を離れたのと、しなやかに伸びた腕がぴくりと震えたのがほぼ同時。書き終えてインク壺にペンを立てるその動作が、気付いたか、と侵入者に思わせたのだった。しかし素早く引かれた腕は、スカーレットの視界の外。窺いながら覗いた耳の緊張が、ほっと安堵に解かれた。顧みない、スカーレットは書き終えた手紙を除けて、もう一通を手に取った。返して、差出人を見る。溜息が漏れた。
その手紙が彼女から送られたものであることは勿論、受け取った時に確かめていた。思い返される。長い前髪の奥、辰砂色の眸が少し憂鬱に、億劫そうに投げかけてくる眼差しに、つい、吐息も落ちてしまうのだ。
気を落とすようなため息に、再び伸びかかっていた腕は躊躇した。背に触れようかというところまで迫った指先は怯んで退き、揺らめく尾の先は項垂れるように高度を下げる。スカーレットが手紙の封を開けるためにナイフを取るのを後ろから、茜色の眸が見ていた。
開いた口から、黒手袋に包まれた指先が薄い紙面を取り出す。縁にかかることもなく取り出して、広げる文面は他愛もない近況だ。皮肉と自嘲をはらんで綴られる文字は、それなのに丁寧で読みやすい。総じて言えば変わりなくやっているという内容を読み終えて、スカーレットはそっと紙面を撫でた。スカーレットへ、と宛てられた名の綴りを。
肩にのしりと重みがかかったのはその時だった。巡らせられた腕の細さと、視界の端に揺れる栗色の髪に、ふっと口角が上がる。
「テールの方か。珍しいな」
いつも溌剌とした猫の娘らしからぬ。眉尻を下げていた。
「どうした。ネコと庭で遊んでいたんじゃなかったか」
さらり、前髪を梳いて撫でると、茜色の眸は細められる。くるくると喉を鳴らして、黒い尾っぽの猫はスカーレットの首筋に頬を寄せて甘えてきた。
「ギルティが来てる、ってレンに聞いたの。だからネコは主のところ」
肩にかかる、重みが少し増す。首筋を指の背で撫でて、スカーレットは笑った。
「テールは、あいつが嫌いか」
ぴんぴんと、三角の耳の先が震える。テールはゆっくりと首を横に振った。跳ねた毛先が頬に触れ、くすぐったい。
「ギルティのことは好き。テルテルボーズ教えてくれたから。でも、いつも雨の匂いがする」
白い手袋の指先が伸ばされて、ひたとスカーレットの手元を指した。
「その紙と、おなじ」
滑らかな筆致の向こうから覗く重たげな視線と、同じほどに思い返されるおっとりと微笑んだ幼い日の彼女の、頭上は今日のように晴れていた。明るく光射す。スカーレット、と呼ぶ声さえも耳朶に返る。
微笑んで、スカーレットは手紙を閉じた。雨の匂いは、わからない。
「お前たちがいれば、気付いてやれたんだろうか……」
ギルティ、と今は呼ばれる彼女の弟にしてもそうだ。子供の頃はおとなしやかで、いつも姉のスカートの裾を握って陰に隠れているような少年だった。少年らしい明瞭さで活発だったクラシックの方が彼を振り回し、泣かせて、だからスカーレットはいつも弟に拳固を落とし、代わって謝らなければならなかった。
済まん、と頭を下げれば応えはいつも同じで、困ったような微笑。そして小さな白い掌が、二人の少年の頭を撫でる。いいのよ。……ね?言葉の始まりはスカーレットの弟に向けて、終わりは彼女の弟に向けて、向けられた弟はいつも頷きながら泣き止まず、大抵は彼女の背に負われて帰って行った。彼女が姉であったら良かったと、クラシックは度々こぼしていた。あんな穏やかな女性が姉であったら、と。勿論、拳固を増やした。
「詮無いな」
返らぬ、遠い日。
茜色の虹彩が明るさに細められる。きょとんと首を傾げたじゃれつく猫の前髪に、指を差し入れてくしゃくしゃと撫でた。だめだよ、マスター。くしゃりと眉を寄せてスカーレットの背から身を引くと、テールは乱れた髪を懸命に撫でつけた。その仕草が愛らしく、笑声も零れ落ちる。
「悪かった。ほら」
椅子を引き、猫の立つ方へ体を開くと右手を差し伸べる。テールははたはたと眸を瞬かせていたがやがて、おいで、の意味と気が付いて破顔した。
豊かなフリルに埋まるようにふわりと腰を下ろす。スカーレットの膝を挟むように座って体を捩り、満面の笑みを見せてきた。
乱してしまった前髪を撫で梳いて、尋ねた。
「テールは、雨は嫌いか?」
耳と尾と、素直な眉尻は項垂れ下がる。だって、と呟いた。
「雨、冷たくて寒くて、悲しいんだもん……」
出会った日は、雨だった。小さな猫のきょうだいは身を寄せ合って震え、見下ろしたスカーレットをひたり、見上げてきた。泣き零したように眦に筋を描いて雨は滴り落ち、けれどきょうだいは、悲嘆も諦観もなく見上げてきたのだ。その眼差しに、スカーレットは手を伸べた。
あの日を、きっと思い出しているだろう。先の白い黒い尾っぽがゆらり、揺らめいた。でもね。
「……ネコはね、雨の日は好きだよ、って言うの」
まだ、心には落ちていない。それでもとても大切な言葉のように、テールは言った。
「マスターに会った日だから、雨は好きだよ、って」
抱き上げた時にはふたりいっぺんに手の中に収まる大きさだった。衰弱していたし、氷雨に随分やられていて、助かるかどうかとわからないな、と思ったのを覚えている。
「そうか」
自分がその心境になれないことを申し訳なさそうに、茜色の眸は上目遣いに見つめてくる。へたり、横に寝かせられてしまった耳を擽り、スカーレットは笑った。
私も、と言いかけた声を遮って部屋の扉が大音声、開かれる。
「マスター!」
青毛の、大柄なネコだ。後ろから慌てて駆けてきた少年の侍従が血相を変え、弁えろ、と嗜める。猫に効く言葉でもないが。
「ギルティが今日泊まるって! 部屋貸してやってよ、マスター!」
きょうだい猫の立てた音の大きさに、膝の上のテールの耳も尾も直立し、尾は毛が逆立ってふた周りは太くなってしまっていた。
「やめてよ、ネコ! すごくビックリする!」
「あーっ! テールずるい! おれもマスターの膝、乗りたい!」
一年と少し前、手の中で震えていた仔猫たちが大騒ぎだ。ネコ、とスカーレットが呼んだ。青い虹彩は閃く。
「私も、雨の日は好きだよ」
暗く冷たく悲しい思いが、雨の中にないわけではない。それでも、温かな思い出も確かにあるのだ。
ネコは小首を傾げ、しかしやがて口の端を釣り上げた。
「おれ、雨の日は好きだ!」
いつか、もう二人の姉弟にも優しい雨が降ると良い。スカーレットは窓外を見遣る。
秋の空は青く高く澄んでいた。

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