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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/06/10 (Sun) Comment(0)
※亜種注意

メイトとメイコの話!のつもりが…
CPはメトカコ、カイメイ。

初めから→私とキミと素敵な彼女 1






暇を持て余すように、テーブルに置かれた新聞の一面を捲った。情報を集める、と言う点でのみ言うならば、紙媒体は既に旧式だ。それでもメイコは、この動作を好んでいる。印字された文字を追い、ページを捲る。
自身はどうかと聞かれれば、否。すぐに結論を得たいメイトは、デジタルデータを貰う方が処理がしやすいし、楽だと思う。
興味もなく、ぺらぺらと紙面を捲っていると、目の前にコーヒーカップが置かれた。礼がてら視線を上げると、やや不機嫌そうな表情に行き当たる。ソーサーとカップがふれあい、軽やかに鳴った。
「来るのはいいけど……所在は確認してよね」
私がいなかったらどうするの、と呟きながらメイコは隣に腰を下ろす。有り難く、とメイトはカップに手を伸ばした。
「居るのは知ってたんだよ。カイトのやつが言ってた」
新聞の横に置かれたカップへと、伸ばされた手がぴくりと跳ねて止まる。紅茶色の眸が同じ色のメイトの眸を見、そして逸らされた。
メイコはゆっくりと留めた動作の続きを繋ぐ。少しの沈黙。こういう時に、メイコは思っているそのことを話さない。カップの端に唇を触れさせる横顔は、自分の内側を見据えている。
メイトはそれを横目に見、自分も記憶をたどりながらコーヒーを飲んだ。香り高い液体は、程よく苦い。
カイトは今日、研究所に行っている。研究員の先生方に呼ばれて実験の手伝いだ。メイトはそこで暮らしているから、ちょうど行き会った。そんな顛末はわかりきっているから話す必要はない。メイトはカップをソーサーに戻した。
「メイコが休みで家にいるから早く帰るんだー、って喚いてるのを聞いただけだぜ」
その様子が容易に想像できたのか、コーヒーを一口含んだ口許が柔らかく緩んだ。
「そ」
そしてまた、目許が綻ぶ。それを見て今ここにはないのほほんとした顔が浮かび、なんとなくぶん殴りたくなった。
「それで?」
メイコはカップを置き、新聞を取り上げる。客が来たのだから、と言うことだろう。折り目の通りに丁寧にたたむ。
「あんたがうちに来るなんて珍しいじゃない。何かあった?」
新聞をマガジンラックに入れて、改めてメイトに向く。紅茶色の眸はメイトと同じ、いや、メイトが彼女と同じように創られた。
「別に」
もう一度カップを持ち上げる指先に施された赤い色も彼女に由来するものだ。
「何が、ってわけでもねえよ」
彼女がいなければ自分はなくて、それは確かで、だからこその不思議もある。
「何もなければあんた、うちに来ないじゃない」
細められて笑う紅茶色の眸にはきっと、言い当てられてむくれた顔が映っている。彼女の微笑みは妹たちや弟にするのと同じ顔だ。いや。
言い当ててからかうような色合いは少し、違うかもしれない。
「で、何?」
好奇心と、それを含んだからかい。それから気遣いも込めて覗き込んでくる。同じ色の眸に観念して、メイトは口を開いた。
「リントとレンカが花を持って来たんだよ。アサイチに」
おめでとう、と言って差し出してきた。意味がわからない、と思った。何の記念日か、メイト自身がまるで思い当らない。
眉間に皺寄せ首を捻ると、リントが憤慨する様子を見せた。メイ兄ノリが悪い、と頬を膨らませたのだ。
「知るかよ!語呂合わせじゃねぇか!」
語呂合わせの記念日を知ってて当然と糾弾されてはおさまりが悪い。メイトとしては共感を求めたかったが、隣でメイコは、ぷ、と噴き出した。
「知らなかったにしたって、いいじゃない。乗ってあげれば」
くすくすと笑うメイコに、メイトは渋面を向けた。ああ、まったく。全面的に同意が得られるとは思っていなかったが、こうも笑われるなんて踏んだり蹴ったりだ。
「だから乗ったんだよ。ちゃんと受け取った!カーネーション!」
メイコの軽やかな笑声が、はた、と止まる。カーネーション、と尋ねるように反復されて、メイトは頷いた。
「『めー兄なら赤い花だろうって思って!』ってあいつら、差し出してきたんだぜ」
時節柄、店先には多かっただろう。確かに。
「俺はオカアサンか、つーの」
ふーっと息吐きソファに背を沈ませ、コーヒーの苦みを舌に含む。隣からメイコが、微笑ましげに覗き込んでくる。
「あら、オトウサンが良かった?」
あからさまにからかってくるから、わかりやすく眉をひそめて睨み返した。
「冗談じゃないね」
返答に、メイコは肩を揺らして笑う。その肩は幅も厚みも丸みも、メイトとはまるで違って華奢なのだ。
「でしょうね」
それでも、その声はメイトと同じ声なのだ。不思議と。
紅茶色の眸は同じ色の眸を見詰め、笑う。
「あんたはね、オニイチャン。あの子たちの、お兄ちゃん、よ」
同じ色、同じ声。彼女がいたから、自分が創られた。
「お前が、お姉ちゃん、だから?」
言ってしまって、失敗だったかと少し思った。けれど一度出た言葉を引っ込められはしないし、あからさまに悔やむのもその方が却ってメイコの気にかけてしまうと思って、平然を通した。
メイコは僅かに目を伏せ、考える様子だった。
「さあ……どうかしら?」
答えが見当たらないという風でも、答えを隠すようでもない。
「なんだよ、はっきりしねぇな」
それでもメイコは口許を和らげる。道標のない道には慣れっこだろう彼女の、しなやかな強かさを窺い見る。
眼差しのやわらかさでメイコは微笑んだ。
「私がどうであれ、あんたはお兄ちゃんでいいのよ。あの子たち、可愛いんでしょ?」
リントとレンカが持ってきた赤いカーネーションは、今はメイトの私室に活けられている。花瓶なんてものは持ち合わせがなかったから、研究員に頼んで譲ってもらった。わけを話している最中に見つかって、はしゃがれたのはこそばゆく、腹立たしかったが。
むつかしい顔で押し黙ったメイトに、メイコはくすくすと笑声を零す。
「何よ、はっきりしないわねえ」
メイトと同じようにソファに背を沈め、頬にかかる髪を掻き揚げた。さらさらと揺れる胡桃色の髪。視界の端に揺れる前髪はやっぱり同じ色で、何気なし、メイトはそれを掻き揚げた。
メイコの視線は隣のメイトではなく、窓ガラスの向こうへと向けられている。
「私だって、最初から姉だったわけじゃないわよ。ミクが来て、それから」
この家の年少組がはしゃいでいることも多い、明るい陽の当たる庭。今は誰もいない。少し細められた眸は、多分少し昔を見ている。
「それから、よ」
メイコが、ひとり、であった時間と、二人、でいた時間。それらをメイトは知るわけではない。
けれど知らないそれらにどこか共感するのは、彼女がいなければありえない存在だからだろうかと思う。
「知ってるよ」
メイコが返り見、眉尻を下げて微笑んだ。
陽脚はもう充分に長く、鮮やかに青い空に向かいハナミズキが薄紅の花を開いていた。ふと。
メイコとメイトは見合わせた眸を綻ばせる。玄関の開く音を同じくして、聞いていた。ばたばたと廊下を走る二つの足音がして、振り返る二対の紅茶色の視線の先、リビングのドアが勢い良く開いた。
「「うわぁああああん!」」
高音と、低音と。同じ声が鳴る。メイコは苦笑し、メイトは深く息をついた。
青いかたまりが突進してくる。
「めーくん!」
「めーちゃん!」
飛びついてくるカイトとカイコを、メイコははたき落とし、メイトは額を掴んで抑え留める。涙目で床と膝に落ち、青い二人は変わらずきれいに声を重ねた。
「「なんで!?ひどいよっ!」」
メイトの膝の上にあごとグーの両手を置き、犬みたいな上目遣いでカイコが見上げてくる。シーブルーの眸を涙目にして見上げられると、再び深く深く息をつかざるを得ない。カイトはメイコの足元に沈んでいる。
「つーか、そもそもお前が出てけっつったんだろが」
メイコの言う通りだ。弟妹に花を贈られて気恥しい程度で、わざわざこの家を訪ねる必要はない。部屋に飾られた花を見、カイコが泣きながら叫んだのだ。
めーくんの浮気者、と。
弁解をする間もなく枕を投げつけられ、出てけーと叫ばれては自室とは言え退散する他はない。メイコがカイトにするように力づくというわけにもそうそういかないから、メイトは研究所そのものを出た。
「だって……だってっ!」
カイコは頬を膨らませながら口を尖らせる。膝を離れる気はないらしくしがみついている。
「私も贈るもん……めーくんに花贈るもん……」
そのカイコが羨ましいのか、同じように膝に上ろうとしたカイトを、メイコはさっと払いのけた。
「カイコは今日の語呂合わせ知らなかったの?」
こくりと頷く。カイトと同じく、ここのところ実験の手伝いで忙しかったらしい。
「私だって、知ってたらちゃんと用意したのに……」
赤い花。もそもそと落ちる呟きに、メイトはうんざりと声を上げた。
「カーネーションは本当にやめろ……」
メイコがくすりと笑い、立ち上がった。
転がるカイトを避けてキッチンへと向かう。キャビネット開けて少し眺めた後、並ぶ酒瓶から一本を取り出した。未開封のものだ。
戻ってくると、ソファの背からメイトの膝の上、カイコの目の前に瓶を下ろす。
「私と、カイコから。おめでとう」
はっとして見上げた青い眸に、後払いね、と口許が動く。紅茶色の眸が細められ、カイコが俯き頬を染めた。まったく。
「タラシかよ」
こつんと耳の上を叩かれた。
カイコはメイコの提案をありがたく受けることにしたらしい。酒瓶をきゅっと両手で支えると、パッと顔を上げた。
「めーくん!おめでとう!」
何がおめでとうか、とも思った。ただの語呂合わせじゃないか。
けれど。
「ん、サンキュ」
メイトを見上げる青い眸が輝く。リントや、レンカもだ。意味がわからないと言いながらも受け取れば、嬉しそうにはしゃいでいた。そういうのは、悪くない。
一向に、悪くないのだ。
「じゃあ、俺からも!」
いつの間に移動したのか、這い蹲っていたはずのカイトがメイコの横に立っている。それだけではなく、冷凍庫から取り出したらしいアイスを差し出してきた。
メイトは、ありがたく断った。
「要らね」
にべもない一言に、真上から落胆が漏れる。
「期間限定だよ?俺のとっておきだよ!?」
膝の上の青い眸は釘付けになっている。メイコは呆れた顔で隣に立つ男を見ていた。


---続

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