カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
意義によって在る人ならぬものは、その意義を失えば存在も失ってしまう。この淵の航行の守り部としてのメイコの意義は、失われて久しい。
眼下、岸壁から川の流れを見下ろす。メイコの泳影が霞んで見えた。
単に水の底近くを泳いでいるだけかもしれない。けれどカイトにはそれが彼女の行く末を示唆するかのように思えた。
耳朶に記憶を空音と聞く。私はここで命を落とす人がいなくなるよう立てられた柱だもの。
そっと踵を転じた。
彼女自身が構わないと笑っても、カイトには我慢がならなかった。
雪の深い季節を過ぎ、水の事故が増えた。
落ちてくる者がある度、メイコは水面へと引き上げ、あるいは押し上げてやっていたが、時に手が回らなくなっている。川上の方で水を飲んだらしい体が流れてきた時もあれば、川下で流された話も聞いた。メイコは困惑していた。
春はまだ浅い。雪解けで水量が増し、流れは急になり、確かに危険な時期だ。だが昨今では人が近付く季節ではなく、これほどの数が川を訪ねる理由がわからない。
近隣の村、あるいはその先の集落で何かあったのだろうかと考える。異常でなくとも何かの流行りものでもあって、川への興味が一時的に高まっているのかもしれない。
川の淵を大きく離れられないメイコは、人の身の回りに及び得る鳥や獣たちにどうにか様子を窺ってもらっていたが、要領は得なかった。人の行為は大概に、動物たちの理解を超えるのだ。
いくつかばかり、重なる単語が思考に残る。
見たと言う。
わからない。
人魚。
歌を聞いたらしい。
誰かが。
ローレライ。
夜半。気は休まらず、メイコは水底を揺蕩っていた。今は夜にもやってくる人間さえいる。
怖かった。
この淵で人が死ぬのが怖い。成り立ちをたどれば当然のことだが、メイコは本能的な恐怖として、それを忌避していた。
身体を丸め、魚の半身となり果てた膝を抱く。恐怖は強く圧し掛かってくる。だがその恐怖を上塗りするように不安があった。
彼が姿を現さないのだ。
心変わりであるのかもしれない。自由を得たのかもしれない。それならば喜ばしいことだ。
だが何か、見知らぬ出来事が起こっているような不安が消えない。寄る辺のない焦燥感と寂寥に、心が削がれていく。
眦に浮いた涙は、川に溶けて流された。
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