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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2024/11/23 (Sat)
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2016/04/22 (Fri) Comment(0)
『風邪を引いてしまった相手にりんごを剥いてあげる』『いぬ式ニンろま』を描きor書きましょう。
#kawaiiCP
https://t.co/3xILS2Rf8z

【登場人物】
カイト=VFニンジャ
メイコ=大正浪漫

リン=鏡音リン 浴衣スタイル
ルカ=巡音ルカ 浴衣スタイル

*『スノードームの朝』の面々。ホワブレ君が婿に来るしばらく前の話。
*本の内容には触れてないです。








雪は折り重なって降り下りる。白い野を行く人の肩にも背にも降り下りて続く。立ち止まり、ほうと吐く息は大きな面隠しの中でくぐもった。肩に食い込む背負子の紐を、背負い直して動かす。行く手を見上げ、細められた双眸は濃い青色。夏の空の色だと、仰ぎ笑み評した人もいる。青い眼差しの先、なだらかな丘の上には務め住まう大きな屋敷が、こんもりと墨色の影になっていた。白い雪があの屋の柱を折る前には、下ろさなければならない。カイトはまた、歩き出した。
雪を踏んで歩く、この道も人の足がなくなればすぐに、白原野に埋もれてしまう。日頃ならばカイトは、道の残るよう意図して踏み固め歩いていたが今日の歩は短く、少なくなるよう踏んでいた。急いでいたのだった。屋の形が影でなく、その色が墨でなく、目に明らかとなってカイトは、ますます歩を速めた。
裏手の木戸をくぐって勝手に入る。土間の勝手は屋内から見れば野外の延長だったが、帰り来れば確かに家の中。隔てられた安堵感に息が漏れる。背負子を下ろして雪を払っていると、奥から重さを感じさせない足音が駆けてきた。
「おかえりなさい!」
短いおさげ髪が揺れる。橙を基調とした着物の少女の、ぴんと跳ねる毛先に輝く金色は今は咲かない夏の花の色だ。格子窓から差し込む薄明かりにも眩く、カイトは一つ瞬いて、それから一つ頷いた。
「……浪漫様は」
控えについていたリンがここに駆けてきているのだから、落ち着いてはいるのだろう。応じて答える声も陰りは薄い。
「お医者様がお薬を出してくれて、さっき帰ったところ」
診立ては彼女の自己申告と同じ。感冒だろう、とのことだった。ただ異なっていたのは、近頃の疲れが出ているからよく休んだ方が良い、という注意のついたことだった。カイトは深く息を吐いた。わかりきっていたことだ。
カイトは背負子の前に片膝をつき、負ってきた荷物を解く。リンが寄り来て覗き込んだ。
「珍しいものが手に入った」
荷の上の方に乗せていた包みを一つ取り上げ、流しに歩み寄る。盥に水を張り、包みを開くとリンの眸が輝いた。
「りんご! すごい! どうしたの?」
手に入ったんだ、とカイトは答えた。少し人脈は使ったけれど、法に触れたわけではない。後ろ暗いところなどないのだが説明には煩雑で、だからカイトは無口と知られる利を活かした。
一つ取って手渡す。受け取るとリンは、日にかざすように両手で頭上に持ち上げて、角度を変えながら見詰めた。晴れ渡る空の色に映る艶やかな紅い実。すごいすごいとはしゃぐリンに一つ預けたまま、取り出したもう一つをゆっくりと水に沈めた。
雪は降り続く。しんしんと降る雪の零れ入る窓辺に流しはあり、そこで水を扱う手は、皮膚を硬くしていた。カイトは水から上げたりんごを拭ってふと、手を止める。手の中に、リンゴの実は光るように紅い。
俎板に包丁と道具を整えて、皮の付いたまま六つに分ける。切ったそれらを手にとって、一つずつ刃を入れていく。細工をしていると後ろから、下駄をつっかけリンが紅い実一つを両手で抱え持ったまま覗き込んできた。
「かわいい。うさぎ?」
否定も肯定もせず、カイトは面覆いを指先を掛けて引き下げた。うさぎから除いた種のついた端の先を一つ、齧る。口の中に広がる清涼な甘みに、黒尾の猫の、珍しく嘘のない言葉を確かめる。あ、ズルい、とリンが呟いた。
「そっちは持って行って分けろ」
カイトは背を向け、背負子に手を掛けながら言った。リンは振り返り、小首を傾げる。希少品、ましてこの屋の主が不調の今に、使用人に廻ってくると思えなかったのだろう。カイトは返り見ず、答えた。
「そんなことはできない。そういう方だ」
そっけなく、色のない声の答えを聞き、リンが破顔した。彼女に、に仕えていることを誇らしげに、敬愛と喜びをもって相好を崩す。リンの無邪気を感じながら、カイトは隠した面のその奥で押し黙り、荷ほどきを続けた。
背ではリンが、鼻歌まじり、膳に深皿を置いて整えている。カイトは後を任せ、ほどき終えた荷の、納戸に仕舞う分を持って立ち去った。



濃く浮き出た木目を踏んで、歩く。静かな部屋に響く、室外の音に耳を澄ます。しとやかな歩の歩みは女中、その中でも年嵩のルカのものだろう。メイコは起き上がろうと、体を捻った。
襖戸の外から声がかかり、応じれば、開く。そこにいたのはやはりルカで、メイコの様子を碧水色の眸に留めて、柳眉の根を寄せた。浪漫様、と呼ぶ声が咎めている。膳を持って入室してきたルカは、枕辺にそれを置くと、メイコの支えに手を伸べた。
助け起こされて布団に座り、メイコは謝辞を両方、口にする。ルカがかぶりを振ると、片栗の花の色の毛先が揺れた。雪が降り止まなくなる以前には、野山に咲いた春の花。ご無理をなさらないように、と諫められ苦笑する。
「でも、もう丸一日も寝てしまっているし……」
疲れているのは皆同じ、自分だけ寝付いているわけにはいかないからと言うと、寒色の双眸がますます端然と光を帯びる。真摯に見詰められてきまり悪く、ごめんね、とメイコは言った。
ルカが深く深く、息をつく。
「ご自愛いただきたいと、それだけです」
諫める、よりは聞かぬ子を叱る口振りで言い切って、ふ、とその舌鋒を緩めた。合わせて声も表も和らげる。起きてもらえたのならば丁度良い、と背もたれに布団を置き、持ってきた膳をメイコの手の届くところに据え直した。そこに目が留まり、軽く、瞠る。乗せられていたのは、近頃は希少の品となった果物だ。どうしたの、と思わず問う。
「見かけてつい、買ってしまったそうですよ。影が」
思い浮かぶ、寡黙な立ち姿。双眸の鮮やかな青色は、見上げる度にいつも、夏の雲一つない空を思い出す。かいとが、と喉の奥に湧き上がり、メイコはそっと呑み込んだ。
手渡された皿を布団を掛けた膝の上に置いて、つい頬が緩む。
「剥いてくれたのも、影でしょう?」
是の応答と一緒に、どうしてわかったのかと問いが返る。メイコはりんごのうさぎを一羽、指先でつまみ上げた。目の前にまで持ち上げて、話しかけるように首を傾ける。春のふくよかな土の色の髪の先が、白い頬をすべり撫でる。
「昔ね、私が彼に頼んだの」
同じように風邪を引いて寝込んだ夜に。
今より幼かったメイコは、同じように今よりもずっと幼かったカイトに我が侭を言ったのだ。体が弱って心細いのに、父も祖父も祖母もついていてくれはしない。彼らにできぬ我が侭を、傍に居てくれるカイトに言ったのは、つまりは八つ当たりであったろう。けれどカイトは懸命に応えてくれた。
思い返せば笑みの零れる、不格好な六羽のうさぎ。一つ譲って、二人で食べた。
手の届かない、遠い日。振り切るようにメイコは、ルカへと視線を返す。
「私はこの子だけでいいわ。だから……」
後はみんなで、と言いかけるとルカが、苦笑混りにかぶりを振った。遠慮をしているのだろうと、一人で食べることはできないからと言い募るメイコに、ルカはそれでも花の色の毛先を揺らして答える。
「きっとそうおっしゃると、影に言われて」
きちんといただいています、と。
答えられてメイコは驚き、瞬き、そして膝の上のうさぎたちに視線を落とした。手の中のうさぎと、寸分変わらないうさぎたち。そう、と呟き答えた。
「じゃあ、いただきます」
口に含むと、さわやかに甘い。歯ごたえを楽しんで飲み下すと、熱を持った喉を甘く刺激して落ちていく。
おいしい、と呟いて、メイコは小さな少年の、喜ぶようなほっとしたような顔を思い出していた。今は時たまにも見せてはくれないけれど。
ただ、眸の夏空の色だけは、今も。


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