A5オフセット、34ページ
カイト×メイコ『カンタレラ』パラレル
サイト連載をしていた「カンタレラ」におけるメイコの親の話。
親もメイコとカイト。
そしてメイコとカイトが姉弟の近親相姦ものです。
ご注意ください。
表紙
ですが、赤い紙に黒印刷をお願いしたので予定的にはこう。
~前略~
夏の日にしては肌寒い。カイトは窓辺に寄り考えた。
だが思考は肌の内側で頭蓋を絞めるようにきりきりと苛む。
最近は暇があれば逃げ込むようにこの館に来ていた。ふらふら屋敷の中を歩いて、メイコに会いでもすればどんな顔をして良いかわからない。自室にいればまた彼女が訪ねてくるのではと思えて怖ろしかった。
拳を作り、ぐ、と窓に押し付ける。なぜあの時堪えられなかったと、悔い、自分を責める。
だが同時に思い出してしまうのだ。目の前に晒された無防備な細い首が。鎖骨が覗き、そこから視線を下げればふっくらと夜着を押し上げた胸元に行き着いただろう。かぶりを振る。
自分が醜悪に思えてならない。血の繋がる姉に思慕以上の感情を抱いたばかりでなく、欲情してそれを抑えられないなんて。鏡面のように輝いた窓が、カイトの姿を反射して映していた。
薄く笑っているようでさえある。
自分を醜く思う。だが、その自分の醜い一面を否定できないのだ。この気持ちがどこで芽吹き、根を張り、いつ育ってしまっていたものなのか、カイトにはもうわからない。すべてを腐す毒の花だとわかっていても、それでもこの気持ちを偽れないのだ。他のすべてを偽っても、この心を捨てられない。
メイコが愛しかった。ただ一人の女性として。
この腕の中で生涯愛しんでいられたら、と思う。思ってしまう。できもしないことであるのに。
カイトは窓に映る自分を見た。薄く笑って問いかけてくるようだ。
「できもしない。それ以上に彼女が望みやしないだろう?」
その通りだ。カイトは答えず肯く。
未遂とて思わずソファに組み敷いてしまったあの夜以来、メイコとは必要のあったいくつかを遣り取りしただけだ。カイトの言葉に、メイコは声を詰まらせるような返事を返しただけだった。彼女にしてみたら、男とも感じていなかった人物に襲われた、ただ苦い記憶としてあるだけだろう。その男にまた歩み寄りたいなどと思うはずがない。
メイコはもう、カイトには微笑まない。弟として、彼女を幸福にする特権さえ失ったのだ。
カイトは窓辺を離れた。歩み寄っていってベッドに腰かける。あの夜、メイコが置き忘れていった毛織の上着が、無造作に放り出されていた。手にとって触れるやわさは、まるで彼女自身のようだ。僅かばかり触れた、薄い夜着越しの肌の温もりが思い出される。
口付け、鼻先を埋めて息を吸い込むと、まだかすかに甘い匂いがした。本当に。
「醜悪だ……」
自分を嘲って笑い、カイトはそのままベッドに倒れ込んだ。どうして良いかわからない。幸せになってもらいたかったのに。
今もそう思うのに、もう一方でどうしてもメイコが欲しい。触れたくて堪らない。
手放すことが最良だと思うのに、それができない。したくない。腕を目の上にかぶせ、視界を覆った。
できないのではない、したくないのだ。醜悪なエゴでしかない。
いっそ止まってしまえと思う呼気を、吐き出した時だった。
かちゃりと音がして、ドアノブが廻る。飛び起き、振り向いたカイトの視線の先で、ゆっくりとドアが開いた。
メイコが立っていた。カイトは愕然とした。
どうして来たのだ。苦く歪めた表情に臆したか、メイコはドアを開いた姿勢のまま立ち止まる。戸惑うような、哀しげな表情を見せたが、無理矢理に微笑んだ。
「離れに来ている、って聞いて。ここだと思ったの」
幼かった頃。まだ両親が生きていた頃、この部屋は二人の気に入りの遊び場だった。カイトはまた、悔いた。これではまるで、隠れ鬼をしても早く見付けてもらいたくて、服の裾を見せたまま灌木の影にしゃがんだ幼い時そのままだ。
「姉さん」
自分の愚かしさを棚に上げ、責める口調でカイトは呼んだ。
「僕の気持ちはわかっているよね? それ以上入ってくるなら、やめられない」
姉弟なのだ。思い出して、留まりたかった。
メイコはさすがに怯んだようだった。動かない。けれど。
「で、も……私は、いやなの。こんな風にカイトと、離れるような……カイトと背を向けあってしまうのは、私は嫌なの」
榛色の眸がカイトを見る。真剣な眼差しにはそれでもまだ、自分の醜悪さが見えていないのではないだろうかと思えた。
メイコの意図は、本当は違っていたのではないだろうか。思わなかったわけではないが、自分をどうしても止められなかった。
カイトはふらり、ベッドを立ち上がった。
~後略~