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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/11/05 (Mon) Comment(0)
フォロワーのあおいさんに大変感化されたネタとなっております。

注意
※一応モジュネタ 忍者×大正浪漫
※メイコがカイト以外と結婚する話です
※メイコのお相手は入り婿(本文に入らなかった裏設定)




 




雪が降っていた。
永訣のような朝だった。
 
青い眸が返る。障子戸一枚隔てた台所がにわかに騒がしい。女中たちが声を押さえながらもそわついていた。
若奥様のお姿が。
奥様はどちらへ。
誰も知らない、わからないと声が交わし合う。一つ男の声が被さり、彼女に何か不都合あったのか、と不安げに問い尋ねた。カイト、は息を吐いた。
青い目を細める。覆い隠した表情のうち、一点、彼の感情を知らせる場所だと喜んだのは遠い日のあの人だった。足音なく、歩を返す。そっと離れるカイトの鼓膜を、泣き出しそうな若い男の声が振るった。
軒下を下りて回り、カイトは裏の庭で少しかがんだ。雪は庭を染めている。その後に人の歩いたあとは見当たらない。見当たらないように見えた。指先を、触れるか触れぬかの程だけ、雪面にすべらせた。雪は指の腹に触れぬとも冷ややかだ。カイトは再び立ち上がると、歩き出した。
行く先は定まっている。しかしカイトの歩みはゆっくりと、ひたすらに雪の中に目を凝らして進められた。青の眸は雪の下に埋もれたものを捜すかのように地面に向けられていた。
やがて。
雪に覆われた褪せた色彩の中に落ちた、ひときわ鮮やかな春を拾い上げた。舞い散るような薄紅、夜の群青を残しながら空けていくような東雲色。まだその色であったことに、青い眸は揺らぐ。氷の張った湖面の下の、眠る水底のように。
カイトはゆっくりとその言葉を紡いだ。
「奥様」
目の前の女性は、雪の中に仰向けて寝転がっている。目はつむっているが、眠ってはいないだろう。匂い立つ啓蟄の土のようなぬくい茶色は髪と、今は閉ざされた眸の色だ。呼ばれ、その色が覗くに間はない。
「まだ、違うわ」
驚かない声だ。彼女だけ、カイトの音のない足音を拾う。気付いていただろう。ひとひら、ふたひら。袖に染められた桜の花に雪が舞い散る。
春の濡れたような土の色の眸がカイトに向けられ、貴方が、と呟いた。
「やっぱり貴方が迎えにきてしまったのね」
雪は降っている。触れれば温もるような茶色の髪にも、花の色、空の色の着物にも降り散り、降り積もる。
カイトはそっと手を差し伸べた。
「旦那様がお探しです。お戻り下さい」
虹彩の奥の瞳孔が、その指先に宛てられたのをカイトは見た。半身を起こし、それから白い手がカイトのそれに重ねられる。雪のように冷たくなった掌をそっと握り、助け起こし、ひとひら。
雪が降る。白い雪。あと如何ばかり、彼女は今日この同じ色をまとってゆく。
少し強く握り返され、凍えた皮膚の奥の血の通う温もりを覚えた気がした。少し色をなくした小さな丹花が押し殺した息をはくのが、凍えて曇って目に見えた。
交わされる。青い色の眸の眼差しと、茶色の眸の色の眼差し。カイトは握らぬ方の手で口許の覆いを外し、面を晒して見せて言った。
「めいこ様」
白く凝る息をはいた唇は結ばれる。咽喉、あるいは舌の上にはあったかも知れない言葉は飲み込まれた。
「お傍に在ります。永久に」
茶色の眸は一つ瞬き、カイトの手を握っていた手は徐々に緩んで、離れていった。
メイコは微笑んだ。
「うん。約束よ、かいと」
幼い頃、明かしてしまった名前だ。もう、これが最後になるだろう。この音は永久に紡がれない。
背を向けて歩く。その背を追う。
裏の庭を抜ける頃、メイコはふと立ち止まり振り返った。カイトの更に後ろ、雪の降りゆくのを見詰める。
その視線の先を追えば、雪が二人の足跡の上に降り積もり覆い被さっていた。やがて幾許もせず、二人歩いた痕は消えるだろう。茶色の眸が翻ってカイトを見上げ、白い頬に揃えられた髪の先が揺れた。
メイコは最後に、二度と触れられぬ笑みをカイトに向けた。
回廊を表へ廻る、背を見送る。カイトはもう一度雪に消えた足跡を顧み、裏手へと廻った。
 
静かに。静かに雪が降っていた。
白い朝だった。
 
まるで永訣のような朝だった。

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