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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2024/05/21 (Tue)
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2012/05/30 (Wed) Comment(0)
願いをかけた者の前に白い姿で現れる。彼あるいは彼女がカンタレラだ。
けれどそれは まじない であり のろいではない。
最後の決断はいつも、私たちの手に委ねられている。






ついさっき友人を迎えていた部屋にメイコを迎え入れる。来客のために用意された椅子は壁際に下げられていたが、構わない。侍従たちを下がらせる。メイコも侍女を顧みて頷き、下がらせた。
窓の向こう、二羽の鳥が欄干に留り、互いに鳴き交わしていた。小鳥は室内の人影に気付き、黒い丸い眸で見詰めた後に飛び立っていた。戯れるように前になり後ろになり、やがて空の青さに溶けていく。
「開けていい?」
窓辺に立って尋ねるメイコに応えながら、カイトはそのすぐ傍の揺り椅子に腰かける。深く背を預けると、揺り椅子は揺れて軋んだ。
白い手袋に包まれたメイコの手に掛け金が外され、開かれた窓辺にふわりと風が薫った。初夏の青青しい薫りではなく、実りの色濃い秋のそれだ。
返り見る。逆光がメイコの輪郭を白金に縁取っていた。
両腕を広げて招くと、メイコは歩み寄ってきた。膝に乗り上がるメイコを抱き寄せると、抵抗なく体を預けてくる。日中から、こんな猫のように甘えてくれるのは珍しい、と感心さえ湧いた。
「ルカとはうまくやっているようだよ」
言うと、胸元で笑声が零れた。含むような、少し性質のよろしくない笑い方だ。
「みたいね。彼の話が出たら顔を真っ赤にして、知っていたけれど本当に可愛らしかった」
くすくすとカイトの胸元で細い肩が揺れる。呆れて息をついた。
「そりゃあメイコは良いかもしれないよ。けれどこちらは冗談じゃ済まなかったんだ」
見上げてくる榛色の眸に、思い切り渋面を作る。本当に辟易したのだ。
「最近の様子を聞くつもりだったのに、全部がルカ嬢の話なんだよ?」
幾許か、必要なことはこちらの近況も伝えたが、あちらの様相はほとんどわからなかった。大凡は手紙の遣り取りから把握しているが、口頭でしか伝わらないこともあるだろう。
それなのに。
「『ルカ殿の物言いのはっきりしているのが良い。女性ながら意見の確りとしているのは好感を持つ』なんて言って、俺はあいつのあんな締まらない顔を初めて見た」
容姿から内面から、逢瀬の際の些細な仕草など一通り褒め称え、何でもリンやレンも行き来をして、彼の妹たちと交友を広げているらしい。カイトには変わらず懐かず、時折舌を出すように悪戯を仕掛けてくるのに。
伯爵の頃よりも追われる政務は多いが余暇を見付けてするつもりだった屋敷の案内も、彼女にしてもらうと言い出したのだ。彼女は住まっていたわけではない、客としては多く来ていたがそれほど勝手を知るわけではないと忠告したのだが、それでも構わないとまで言い出した。
「全く。何も構わなくないだろうに。揚句、もしわからなければ改めて俺に案内してもらうなんて冗句にする。堪ったものじゃない」
メイコがくすくすと笑い続けるのを、カイトはむっとして見遣った。そもそもはメイコのせいでもあるのだ。メイコがぜひルカを、などと言うから。
「案内のことは、大丈夫よ。手紙を持たせたから」
成り行きと希望で案内を受けたはいいが、カイトの言う通りにルカのこれまででは心許ない。だからメイコの侍女長宛の手紙を持たせたのだ。
知らぬところの遣り取りに、カイトが口をへの字に結ぶと、メイコが懐でもそりと身動いだ。片膝をカイトの膝の間に、片足で立ち、両手を肩について覗き込んでくる。頬に胡桃色の髪がさらりと落ちた。
「カイト? 妬いてるの?」
宥めるような眸の前で大きく瞠る。そんなはずがない、彼は友人だ、恋人にするように悋気を起こすなどあるはずがない。知らぬところでルカがメイコに巧く遣り交わしていたのを知らなかったと思っただけで、これは悋気なんかでは決してない。勇んで断ろうとしたら、ふわりと前髪が混ざって額を合わせられた。間近に榛の優しい色合いが笑う。
「良いじゃない。そういうものでしょ、人って」
人は変わる。身近な人がそうである時、まるで自分から離れていくようで寂しくなる。
「カイトだって随分変わったわ。私はもう要らないんだ、って寂しくなった」
そっと離れ行くメイコを、カイトは慌てて抱き留めた。じたばたと二人で縺れて、揺り椅子が揺れる。メイコが叱りつける顔で振り返ったが、カイトは遮った。
「俺にはどうしたってメイコが必要だ」
ずっと、ただ一人。何に代えても。
青い眸が見詰める先で、メイコは笑み零した。僅かに苦く、けれども甘く。
「大丈夫。もう、やめたから」
私は貴方の傍にいる。違うことのない誓約として、それはなぜだかカイトの心に沁み入った。
メイコが開けた窓から風が入って来た。纏められたカーテンの端が僅かにそよぐ。
「カイトに私は必要ないなんて思うの、やめたの」
そんなことを考えていたことにも、考えさせていたことにも愕然とする。カイトは肩を落とし、緩みかけた腕をけれどもう一度強く廻らせた。
細いあえかな体。その内に宿る輝きと魂の強さで忘れがちになる。やわくて儚い、人にすぎない。
「ごめん」
悔いた声音を聞き、メイコは手袋を脱いで捨てるとそっと片腕を廻した。後ろ頭の髪を撫でる。青い少し癖のある髪が不揃いの指に遊ばれる。
「ばかね」
メイコは言う。少し悔やむように。
「カイトが謝らなきゃならないのは、私じゃないでしょ」
長く問わずに来たことだった。カイトも口を噤んできた。敢えて問うには身の回りはあまりに落ち着かなかったし、メイコにも躊躇いがあった。言い分はある。メイコのために、彼女自身が望んだことではないとは言え、カイトはただ只管にメイコを想ってしでかしたことだった。
怯むカイトの前、メイコは断じる。
「ルカは今頃もう、話してるわ」
赦されると思うかと問われ、ルカは否定した。だがメイコ自身は赦してしまっているはずだ。でなければ実の弟妹に血の繋がる者だからとて、妹と呼ぶはずがない。
カイトは釈然としないものを覚えているが、誰よりも赦さないのはルカ自身なのだろう。きっと一生を悔いて過ぐ。それを見たから、メイコは赦したのだ。
ごめん、とカイトはもう一度言った。共に荊の道を踏ませると、決心しての言葉だった。メイコは金の籠に銀の鎖で繋ぐ愛玩動物ではない。
手を取り合って進むなら、この告白は必要だった。カイトは苦渋を呑み、けれど口を開く。聞いて、メイコは押し黙った。
口を結び、少し俯く。怒っているようにも、泣いているようにも見えた。
やがて視線を上げた榛色の眸は煌いた。
「貴方はこの国を守るの。生涯。それが贖罪。その代り」
暁の光射すように、笑う。
「カイトのことは、私が守るわ」
カイトも思わず笑み零す。
「敵わないな」
抱き寄せればおとなしく膝に抱かれ、メイコは廻した腕でカイトの髪をさらさらと撫でる。敵わない。それで良いと思った。メイコを出し抜く必要はなく、これからはもうずっと、一生を共に並び歩き続けるのだから。
風と光が吹き込んでくる。繁茂の季節は過ぎ、実りが、そしてやがては枯れて雪が降るだろう。けれど手を取り、やがて花の季節にも並び歩く。今確かめた。
メイコはカイトの手を引きながら膝を降りた。立ち上がるよう促しながら下がる。悪戯に、笑う。
「ね、もう一度練習」
晩餐会で披露するダンスを、だ。勿論カイトは得手ではない。技師が何の気紛れか残してくれた義足の技術は素晴らしく、王宮仕えの医師でさえ舌を巻いた。神の業のようだという表現は、皮肉なものがあったが。
だが王宮仕えの医師、技師も並ではない。カイトの義足を見分し、変わらぬものを作る技術を編み出した。お陰で、彼なくともカイトは今も多少ならば踊ることができる。
「本当に、やるの?」
一年は葬儀と追悼の諸々、喪に服す素振りで心証を上げた。愛想良く交友範囲は広いが腹心のないカイトは、どうしても足場が弱く王宮で無理を言うことはできなかったのだ。メイコのことは王妃として扱わせているが、神前での誓約さえ棚上げされている。
だが一年。一旦は先の皇帝の意志に従ってカイトを戴いても、そろそろ引きずり降ろそうと動き出す輩もあるだろう。ことは伯爵家ほど簡単ではない。ではどうするか、悩んだ時にメイコが出した案が、婚姻式を行おうというものだった。なぜ、と言わざるを得なかった。
カイトとてそれは、誰よりも盛大に執り行いたいと思う。だがこのタイミングでメイコが提案してくる理由は量りかねた。訝るカイトにメイコは呈した。
婚姻式を国民に向けて執り行う。訃報のあとの祝祭に民衆は湧くだろう。場末に歌ったことのある王妃には、期待が寄せられるかもしれない。貴族に繋がりを今更求めるよりは、さらに根幹から支持を固めてしまえばいい。
件の友人は面白がって同意したが、貴族の多くはカイトと同じように訝るだろうとメイコは言った。だからその過程で少し、驚かせておきたい、破天荒だと印象付けたいとメイコは言うのだ。それがその次の晩餐会だ。ルカに拍手を依頼したのも、それに因る。破天荒ながら受け入れる者があると印象付ける。
舞台の真中に歩み出るようにカイトの手を引いてメイコは、本当はね、と言った。
「白状をすると、私もね、ミクに妬いていたの」
驚き、青い眸は瞠る。メイコにそんな素振りは全くなかった。
「どちらにしてもそう。カイト、私よりよっぽど信頼してるんだもの」
だから二人を疑うことができたのだ、と。つまり、顧みれば希望的観測もあった。
互いに距離を取り、スタート位置へ向かう。もう随分繰り返してきた。距離の取り方は目算で充分だ。
「そんなこと、ないよ。確かに彼には、騙されたと思うくらいに信は置いていたけど……」
言いかけ、自分自身の言葉に気付く。妖魔性の類かと認め、驚いたのは彼よりもミクに対してだ。カイトの胸中を推し量り、メイコはもうそれには触れない。
「それにね、羨ましかった! ルカや、ミクはだって……私よりずっと綺麗なんだもの。カイトに近付かないでーって、少しくらいは、ね」
困ったように下げられた眉尻が、今もその気持ちがメイコの中に蟠っている証しなのだろう。せっかく離れた距離を、また詰めたくなってしまう。
「比べても本当は無意味だなんて、メイコは知っているだろうからこれだけ言うけど」
恥じるような苦笑のままに小首を傾げる。その仕草をメイコ自身は見ることがないから、知らないのだ。
メイコがどんなにか、可愛らしいかなんて。
「俺はメイコの全部、好きだよ」
赤くなるその頬の傷も、その傷を負うに至った過去も心音もすべて。
愛している。
「どっちが敵わないんだか……もう、ばかっ」
ささやかな悪態に、カイトは前言は撤回だろうかと思う。隣り合って互いに競うのも悪くない。どちらがより出し抜けるか、多分、この先、ずっと。
けれど先ずは、共演。ダンスの拙い新皇帝を笑わんと、待ち構える観衆を二人で出し抜こう。
呼吸を合わせ、榛と青の眸で視線を通わせ、互いにリズムを口ずさむ。

 

 

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