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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/05/03 (Thu) Comment(0)
そして侯爵家の娘に『くろがねの輝きを』。






会話が聞こえてくるわけではない。けれど客を迎える支度をしている家はざわざわと騒々しく、神経に障る。ルカは自室に閉じこもって塞いでいた。
嫡流が懇意の人物を招くとなれば家が動くのも道理だろう。ルカはそんな風に招いたことも招かれたこともない。勿論それにも苛立ちを覚えるが、ルカの神経を最も尖らせるのは、招かれているその人物だ。
誰が来ているのかはわかっている。伯爵の姉を名乗る人物、メイコだ。その本当の出自など、ルカの知るところではない。だが伯爵の寵愛を一身に受けていることは確かだ。
そればかりではない。
放埓な弟妹の興味関心など欲しくはない。だがルカには情の一欠片も見せなかった双子が、それぞれに強い感情をメイコには示している。リンはレンにしか見せたことのなかったような愛情を。レンは誰にも見せなかったような敵意を。
ルカには理解できない。同じように片親だけの血の繋がり。それなのにメイコには笑い、怒り、ルカのことは遠巻きに眺めるだけ。何が違う。
伯爵家での立場にしてもそうだ。メイコは嫡流から外れ、しかも娘。それなのに追い出されて尚、戻る居場所が彼女にはある。どうして。
「どうして」
落ちた呟きを拾うものはない。ルカは独りだった。
軽く唇を噛み、窓辺へ寄る。特に面白味もなく、見知った景色だけが広がる、その筈だった。ターコイズブルーの眸を剥いてルカは驚愕した。
伯爵の印章の入った馬車が門を開けさせている。あれに乗ることのできる者は、今は一人しかいない。ルカは裾を翻した。
廊下に靴音を高く鳴らし、急ぐ。淑女の嗜みも半ば、抜け落ちていた。ラウンジが視界に見える廊下の角を曲がり、そして。
ルカが目にしたのは、伯爵に伴われて歩く幸せそうな女の後姿だった。男を見上げて、笑う。その横顔を見て、ルカは背を向けた。
今来た同じ廊下を一層足を急がせて戻る。侍女が追いすがるのさえ振り切るように部屋へと帰り、扉を閉めさせた。
鏡台に両の手を叩きつける。痛みが自分に返るのはわかっていた。鏡には望みを断たれた失意と怒りを綯い交ぜにして顔を歪めた侯爵家の娘が映って見えた。
「どうして」
ルカの呟きは両手の間にむなしく落ちる。
「どうしてっ……!」
侯爵家の嫡流は双子が持っていった。正嫡でないのは初めから。わかっていたことだ。だから諦めもついた。
だから伯爵の妻になることを望んだ。きっと手に入れると思っていた。それなのに。
ルカの手を掠めて奪われる。思ったら、鏡の中のルカが歪んで笑った。
「奪われるだけ、なんて我慢ならない?」
はっとして瞠る。しかし鏡の中のルカは、白い微笑を零している。
「奪う、なんて簡単なもの」
その声も、紛れもなくルカのもの。ルカが、鏡面を挟みルカに語りかけてくる。非現実的な光景に、しかし悲鳴も忘れ、見入ってしまっていた。
「貴女にだって、奪うことはできるのよ」
その言葉はじわり、ルカの心に影を落とす。奪われ続けてきた。奪い返して、何が悪い。
そんな簡単なことになぜ気付かなかったのだろうと、ルカは思わず口角を上げた。鏡の中の微笑に、ゆっくりと重なっていく。
そしてさらに声は背後から。
「これをあげるわ」
振り向くと、そこにはミクが立っていた。鬱金に翳り始めた部屋の中にいつの間にか、ルカのすぐ後ろで短剣を差し出している。
ルカは迷うことなくそれを手にした。革の鞘に納められた小さな刃を、抜いて確かめる。
「こんな小さなもので……」
誰かを害したことなどない。うまく成し得るかの自信は湧かない。それを不安として見せはしないが、もっと確りとした、強力な道具を用意した方が良いのではとも思えた。
だがルカに、ミクは眸を細めた。
「そんな小さなもので、人は死ぬの」
ルカは頷き、陽は陰り落ちていく。鬱金の黄昏に染まる部屋にはルカとミクが、それを映した鏡の中には背を向けたルカと、鏡面から二人を見詰める青年の姿があった。
青年が、花緑青の眸でわらっていた。


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