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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/05/02 (Wed) Comment(0)
王女の兄、伯爵には『黒鉛の、丸薬を』。






侯爵家の双子はいたく憤慨したようだった。姉の方はメイコの手を振り払い出て行ってしまったし、弟の方は歯を剥く犬の仔のような眼で睨みつけてくる。
だがあからさまな敵意とは言え所詮は、仔犬だ。恐れるものではない。思って、カイトはゆっくりとミクに向き直った。
ミクは内心を悟らせない頬笑みを浮かべている。内は見せない、けれど見詰める相手のすべては得ているような眼差しだ。そして事実カイトの内心は承知しているのだろう。隠す意味もない。メイコに支度を済ませてくるように促して、カイトは意志を表情に示して見せた。
その意図と意志を解して、ミクの笑みが変わる。玩具を見付けた子どものような、ひどく楽しげなそれへと移っていく。
「なあに、お兄様」
問う声も明らかな喜色に彩られていた。そしてまたその呼び名を使うということは、ここにいる少年への気遣い、もしくは警戒は、無用と言うことだろう。
「誰から聞いたんだい?」
見下ろす身長差で優位を表現する。勿論ミクに通じる手とは思っていない。
「何がですの?」
わかりきっているだろうに問い返してくるのは、言葉遊びのうちだからだ。
「父上が? それとも勝手に知った?」
ミクに襤褸を出させようと思うならば、慎重になる必要がある。けれど今、ここですべてを明かさせる必要はない。糸の端を掠めるだけで構わないのだ。
「まさか母上と言うわけもないだろう?」
カイトの母であれば可能性高く、ミクの母であれば尚更。伝える手立ては書面になる。その存在の有無も勿論だが、カイトが知っておきたいのはミクがそれを明かす気の向きあるかどうかだ。
ミクの細い肩が揺れる。くすくす、くすくす。白い花の笑声で、その芯には毒を含む。
「駄目よ、お兄様。幸福の足元にこそ、奈落は口を開いているのだから」
背筋を冷え切った手が撫でるような不快感が這う。ミクがそこまでを為すなら。
前言はしてある。必ず、赦さない。鋭く据わる青い眼差しに、けれど花緑青の双眸は微笑むばかりだ。
「油断は、他愛ないと思った時」
はっとする。刺さる言葉の意味を確かめ、カイトが振り返ったその時、ドアが開いた。視線の先で、メイコが瞬く。
「な、なに? カイト……」
コートを羽織り背には侍女を従え、帰り支度が済んだようだ。榛の眸がさっと室内を巡り、場の風を読む。一巡のあとにカイトに視線が止まり、僅かに眉根が寄せられた。
カイト、だめ。ずっと昔に、そう言って叱りつけた姉の表情だ。けれどそんな頃からカイトを想って愛しんでくれていたのだと思うと、殊勝な表情もつい緩む。メイコは呆れたようで、帰りましょう、とカイトを呼んだ。
レンに、ミクに非礼を詫び、帰りの挨拶をする。特にレンには、リンに伝えてほしい胸も合わせて詫びていた。
退出の微かの間、メイコは訝るような視線をミクに投げかけていたが、カイトは侯爵家の双子の弟が気に障った。
冬空の浅い薄水色の眸が鋭くメイコを見詰めていた。
 

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