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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2011/09/02 (Fri) Comment(0)
初出:Pixiv

うちのルカは末っ子です。
ルカだけは明確に意識してこの性格です。





リビングとキッチンを片付けて、三人はボイスルームへ向かった。二重扉の一つ目を開けると、覗き窓から中が見える。ルカが一人きりで練習をしていた。
この家自体が会社からミクたち兄弟に与えられた支給品だ。設えられたボイスルームには自分の声を確認しながら練習できるように、簡単な録音機材なら揃っている。ルカは録音した歌声と、別の音源をしきりと聞き比べているようだった。
ミクは振り返り、二人の鏡音に視線を送る。クッキーの入った小鉢を手にしたリンと、コーヒーを注いだローズピンクのマグを持ったレンがこくりと頷いた。
窓ガラスを軽く二度、叩く。ノックに気付いてルカが振り返った。ミクは手を振り、リンとレンが手にしたクッキーとコーヒーを示してみせた。
「おやつにしない?」
声は届かないだろうからと大げさに唇を動かすと、窓の向こうでルカがくすりと微笑みを浮かべた。ありがとうございます、と唇が動いて小さな会釈が返ってくる。
ミクはもう一度リンとレンを振り返って頷き合い、ボイスルームのドアを開けた。
「頑張ってるね、ルカちゃん」
声をかけるとルカは頭を振り、流れるような鴇色の長い髪がふわふわと揺れた。
「いいえ、まだまだです」
そして手の中の楽譜に目を落とした。
「研鑽を積んで、早く姉さま方と肩を並べられるようになりたいです」
言った言葉は控えめだったけれど、細められたターコイズの眸の輝きは力強かった。まるで、いつか必ず追いついてみせる、と言うように。
ほう、と感心して見詰めていると、はっとしたルカは照れたように笑った。はにかむ笑顔が初々しく可愛らしい。妹の妹らしい表情に、三人から感嘆の息が漏れた。
けれど今はおやつで一息、とリンがクッキーを差し出しながら聞いた。
「それでそれで、なに歌ってたの? 新曲?」
声は弾んでいる。ボーカロイドなのだから当然のことで、リンの勢いに隠れがちなレンも、隣で同じスカイブルーの眸を輝かせている。
「いえ、これは」
姉と兄の好奇心を理解して、ルカは二人に楽譜を見せた。ミクも一緒に覗き込むと、それは予想通り、ここのところルカがしきりと聞いていた曲だった。
「あ! これ!」
「俺たちも練習に歌ったやつだ」
懐かしい、とはしゃぎだす。コーヒーを持っていたのがレンだったのは幸いだった。ぴょんぴょんと跳ねたリンの手の中で、クッキーも跳ねていた。
ミクにとっても懐かしい曲だ。ラボを出る前の練習で何度も歌い、ボーカロイドとして既に世に出ていたメイコとカイトの歌を聴きながら、二人と歌声を重ねる日を夢見たりもしていた。
それほど、響き合う二人の声は、伸びやかで、高らかで、とても綺麗だった。
「初めてお姉ちゃんと、お兄ちゃんと一緒に歌ったとき、嬉しかったなあ…」
このボイスルームで、だった。
「ミク姉さまも、姉さまと?」
尋ねられ、そうだよー、と答える。答えながらミクは、ルカも初めてメイコと歌ったのはこの曲だったのだな、と思った。
ルカの発売前、ひと月ほどの一時滞在のときのことだ。メイコが迎えに行った先の顔馴染みのスタジオで、兄弟たちに先んじてデュオを披露してきたと言った。それには初音鏡音連盟を組んで抗議の声を上げざるを得ず、珍しくメイコを根負けさせることに成功したのだった。
「今度みんなで一緒に歌いたいね!」
思わず笑みが零れてしまう。明日があるのよ、と言っていたメイコも最終的には声を合わせてくれて、五人で歌ったのを思い出す。その録音は今でも残っていて、ちなみに、それを聞いた不参加の一名が涙していたのは余談だ。
そう言えばそのときにも、今度はみんなでね、とメイコが彼を慰めていたが、まだ果たされていない。
「そうだ! せっかくだから今から…」
全員が在宅の今日という日は、貴重なのだ。だがルカは少し慌てたようにミクを遮った。
「いえ、今からは、ちょっと…」
その気になりかけていたリンと、こっそりとレンも、残念そうな顔をする。ミクも、くじかれた気持ちで首を傾げた。
「せっかくですから、いただいてから」
視線がにこりとリンとレンの手の中を指し示す。初音鏡音の口元が、あ、の形に丸くなる。半ば忘れかけていた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんのお手製クッキーなの!」
三種類あるんだよ、と言いながらリンは差し出した。お手製。呟いて、ルカは三種類のクッキーを凝視した。
「コーヒーは砂糖軽く一杯…だったよな」
レンがマグを差し出して、はっとしたようだった。
「ええ、ありがとうございます。レン兄さま」
笑みを向けて受け取ったけれど、視線はまたクッキーに戻っていった。何か気になるのだろうか、やはりネギだろうか、とミクは思った。
ネギ美味しいのに、と。
リンが伸び上がって指差し示し、クッキーの解説をしだした。隣でレンがこくこくと相槌を入れている。
「オレンジピールとバナナチップと、あと揚げネギ! 私のおすすめはオレンジ!」
「でもコーヒーならバナナのが合うと思う」
ネギ美味しいのにと思っていたところに言われては譲れない。
「ネギも美味しいよ! あまじょっぱさが意外と癖になるんだから!」
ミク姉の場合ネギが癖になってるだろう。ぽつり落ちた弟の呟きには耳を塞ぐ。ネギの美味しさを広めることに関して、ミクはそれなりに使命感を感じているのだ。
「クッキーに合う揚げ加減だって研究してあるんだよ!」
「それだったら、このオレンジピールだってめー姉のお手製だよ! 私も手伝ったし。バナナチップ市販じゃん!」
レンが言葉に詰まる。制止役、とは言えリンも口が立つから珍しいことではない。賑やかな家の空気に、ルカもそろそろ慣れてきて、振り回されることなくクッキーを吟味している。
けれど、ミクはネギを、リンはオレンジを、レンも頑張ってバナナを、勧めて譲らず決着はつかなかった。仕方なくか、ルカはクッキー全部を受け取って、リビングでゆっくりいただきますね、と答えた。
廊下まで出て、三人で取り残されそうになってはたと、ミクは何をしにきたのか思い出した。
「あ、ねえルカちゃん!」
呼び止めるとルカは振り返り、鴇色の髪がふわりと広がった。ターコイズの眸が不思議そうに見詰めてくる。
「お姉ちゃんの昔のこと知ってそうなヒト、心当たりない?」
訊くと、柳眉が怪訝そうにひそめられて首を傾げた。なぜそんなことを、と思っているのかもしれないし、知らないのかもしれない。
多少でも説明しようか、とミクが考えたとき、やはり、とルカが答えた。
「やはりカイトさんではありませんか? あの歌もそうですし…一番長く歌ってらっしゃるでしょう?」
その声音に何か刺を感じるのは気のせいか。答え一つ、ルカは洗練された仕草で会釈をし、背を向けた。
それはとにかくも、ルカも知らなかったかとミクは肩を落とした。こうなったら本当に、会社のライブラリーに入り込むか、開発者たちに直接尋ねるしかないかもしれない。
リビングのドアの飾り窓から覗いたリンが、あ、と呟いた。
ルカちゃんオレンジ最初に食べた、と。


---続
 

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