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2011/09/02 (Fri) Comment(0)
初出:Pixiv

めーちゃんの口癖が「ばかね」になりつつあるなと思いましたまる。

ピクシブの方には『キスシーンだけで物語を構成する』縛りの方を乗せてるので、こちらにはめーちゃんが油断して酔っぱらってる理由入りの方を。





鼻腔をくすぐる甘い匂い。正直に言おう。俺はめーちゃんのこの香りが大好きだ。
もしくはめーちゃんの香りだから大好きだ。どっちかというと後者だと思う。でもどちらでもいいや。静かなリビングに、二人の唇が触れ合う音だけが響いてる。
深更。カーテンの閉め切られたリビング。ソファに座って、愛しい彼女が膝の上。俺の至福の時間と言っても過言じゃない。
普段ならこんなオープンスペースで睦み合うのは嫌がるんだけど、今日のめーちゃんはちょっと頬を上気させながら、優しい眸で俺を見詰めている。
目の前のローテーブルには空のボトルと俺と彼女の分、二つのグラス。ワインが少しずつ残っている。ちょっと油断した飲み方をしていたし、いつもより酔っぱらっているんだろう。
膝の上だから彼女の目線の方が少し上で、それもまた、普段にはない光景だ。柔らかな白い掌が俺の頬を包み、ちゅ、と唇が降りてくる。
それもこれも、今日はにぎやかな妹弟が家にいないからなのだ。ただ泊りがけの仕事というなら、仕事はうまくいっているか、ご飯は食べているか、元気にやっているんだろうかと心配の尽きない彼女だけれど、今回はあちらに安心の保護者がついて行っている。ラボの先生たちだ。
めーちゃんの先生に対する信頼は絶対で、俺が保護者としてついて行っている時よりも気にする素振りがない。その点で俺は少なからず先生たちに妬いている。みっともないのは承知で、でも妬ける。
「カイト」
めーちゃんがくすくすと笑い、俺の前髪を掻き揚げて生え際にキスをした。なんだか隙だらけで。
「かわいい」
俺の心の声をめーちゃんが奪う。本当に、子供っぽく隙だらけで、それなのに俺を見降ろしてくる眸は愛おしげで優しい。
ラボの先生たちに、もちろん感謝はしている。先生たちが三人を見ていてくれなければ、彼女が食卓でなくリビングのソファで、しかも上等のワインを開けることなんてなかったはずだ。
とは言え先生たちもいろいろで、俺たちの関係を面白がっている先生もいれば、憂慮している先生もいる。今回の遠征でミクとリンとレンを迎えに来た先生たちの中ででも、前者と後者は分かれるのだ。前者の先生は、カイトがんばれ!といい笑顔を残してくれたのだが後者の先生は、ほどほどにしろよ、とうんざりした顔で俺を見やってきた。
まあ結局、俺はどちらの言も守れていないことになる。俺が頑張るまでもなく、いつになくめーちゃんは積極的だし、この状態からほどほどで済むほど俺は草食じゃない。仮に草食だとしても、草食動物の食欲、なめるな。
「めーちゃんの方が可愛いよ、絶対」
俺は膝の上に乗っかっためーちゃんの細い腰を抱き寄せて、首筋を食むように数度、唇で挟む。
めーちゃんは首に触れられるのが嫌いだ。噛まれるのなんてもってのほか。理由を言う必要があるだろうか。俺たちはボーカロイドだ。
「怒らないの?」
ちょっと意地悪だったかも。思って上目遣いに覗きこむと、めーちゃんは俺のこめかみを撫でおろして瞼の上に口付けてきた。
「……カイトだから、いいわ」
唇が離れて行って見上げれば、ゆらゆら揺れる水面みたいな紅茶色の眸。やめてよ。嬉しいけど、悲しくなる。
俺はこのノドの奏でる声が好き。白い細い首が支える声帯が震え、響く高らかな歌声が。
めーちゃんの声が好き。めーちゃんの声だからその声が好きなんだよ。
押し黙った俺の、心の中を見透かしたみたいにめーちゃんが笑った。
「ばかね。カイトにしかさせないんだから、カイトがしなきゃいいだけよ」
そしてまた、唇を重ね合わせる。舌を絡め合い、内側を探り合い、俺たちは、少なくとも俺は、呼吸さえ忘れる。
めーちゃんの柔らかい粘膜は、飲んでいたワインの味がした。あんまり酒に強くない俺はそれだけで酔いそうになる。
だってもう、とっくにめーちゃんに酔っちゃってるんだ。煽られる。
「……ね、なんでヒトは」
紅茶色の眸を見上げ、俺は尋ねてみた。
「こんなことを始めたんだろうね」
ヒトがしているから真似て始めた行為だけど、ヒトはこの行為に何か意味を求めてるんだろうか。
俺にはその意味なんて予想もつかないし、正答なんてないこの質問にめーちゃんの答えを求めたつもりもなかった。思ったことを思ったまま言っちゃうあたり、アルコールも結構回っている。
俺自身が対して深くは考えなかった質問に、だけどめーちゃんは真面目に答えてくれた。重ね合わせる唇の隙間に呟くように囁く。
「生きる……ことへの崇敬かもね」
え、と思って見上げると、紅茶色の眸が小さく笑って覗きこんでいた。
見えたのは一瞬。眸はまた伏せられて濡れた唇が押し付けられた。柔らかな甘い刺激を感じながら、ついさっきの言葉の意味を考える。
生きることへの。
「めーちゃーん…むずかしいよ……」
俺がめーちゃんの下唇を舐めながら答えると、彼女はくすくすと笑って額を押し付けてきた。さらさらの胡桃色の髪が俺の頬をくすぐるように撫で下りる。
めーちゃんは眉間と鼻筋をこすり合わせてから軽いキスを唇に降ろし、囁いた。
「この酔っぱらい」
これはショックが大きい。酔っぱらいに酔っぱらいって言われた。
「どうせ酔っぱらいだよー」
俺は拗ねて答えてめーちゃんの唇を奪う。少しくらいは驚いたかもしれないけれど、彼女は引きもせず重ねてくるだけだ。
唇を重ね合いながら、めーちゃんは俺の髪を撫でる。噛みつきそうなくらい激しいキスなのに、その掌は泣いた妹をあやす時みたいに優しい。薄く眼を開けてみると、紅茶色の眸も薄く、こちらを見ていた。
少し可笑しそうに笑う。そう、なぜかこういうタイミング合っちゃうんだよね。俺はめーちゃんの背中と腰に、まわした腕に力をこめた。
二人っきりのリビング、耳に響く俺と彼女の内側が触れ合う音。めーちゃんの匂いとか、吐息に混じる声とか、温もりとか感じる全部が俺をぞくぞくさせる。
俺はめーちゃんとくっついているのが好きで、キスするのが好きで、こうしているのが大好きで、生きることへの崇敬なんて難しいことはわからないけど、きっと。
めーちゃんとこうしていられなくなったらきっと、生きていられない。
そんな事を言ったらこう言われるに違いないんだけどね。
 
ばかね。


-了-

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