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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/05/07 (Mon) Comment(0)
連休中…と言うか、メイコの日に終わらせたかったのですが、だめででした…
多分、月一杯かけて、5/30閉幕です。
申し訳ないです。







帰り着く頃には日も暮れていた。空は東から藍を流し込んだように墨と濃紺のグラデーションを作っている。
暖かな橙の灯を窓辺にともした屋敷では、使用人たちが待ち構えていて出迎え、恭しく二人に傅いた。侍従がランタンで足元を照らし、御者は先んじて馬車を降り踏み台を出す。カイトにするのと同じように丁寧に、お帰りなさいませ、とメイコにも声をかけてきた。
彼らに応え先に降りたカイトが、振り返り手を差し伸べてくる。メイコの降りるのを扶ける悠然と優美な仕草は、紳士として模範に違いなかった。けれど。
得意げな顔は、まるで路地裏の駆けっこで一等を取った少年のよう。得意げで誇らしげで、少し幼い。
「ありがとう、カイト」
その手を取って、けれどメイコには思い悩むところもあった。
 
   ・・・
 
簡素ながら整った夕食の後に、カイトの自室を訪ねた。食堂を出たところで抱き寄せられ、少し整理する物があるが後で行くから、と耳打ちの上に眦にキスまでくれたのだが、メイコはそれを待たなかった。
耳朶にはまだ、その囁く声が痺れのように甘く残っている。指先で触れて息をついた。熱を持つように熱い。
訪ねた部屋でカイトは、ライティングデスクに散らばした封書を分けていた。現れた夜着姿のメイコに、あからさまに相好を崩す。目に明らかな好意は気恥しく、赤らむ頬を意志で以て引き締めた。
「どうしたの」
整理も半ばだったろう手の中を机の上に放り、カイトは歩み寄ってきた。嬉しいけれど、少し呆れる。
「待っていてくれて良かったのに」
杖の支えがなくとも少しの距離は訳ないらしい。カイトは両手を広げ、メイコを迎え入れた。
囲われるような腕の中で少しもがいて、小さな抵抗を示す。
「ちょっと、話したいことがあったから」
待ち構えているのでも、招き入れる姿勢はやはり受け身になってしまって、どうにも流されてしまう。一因として、メイコも拒んではいない、むしろ望んでさえいるからだということは、彼女自身理解していた。
だからこそだ。身を捩って距離を置き、カイトにきちんと表情を見せた。意識して眉尻を上げ、榛色の眸で見据える。
「カイト」
声を低めて呼べば、さすがに殊勝な顔をした。
「迎えに行ったことを、怒っているの?」
メイコはさすがに、本当に苛立ちを感じて否定した。
カイトの問いは、論点をずらすための問いだ。もし是と言われれば悲嘆にくれる振りをすれば良いし、否と言われればでは何がと上げ足を取り続ければ良い。そんな風に話術を使われるのは、哀しかった。
だったら、と言いかけたカイトを遮ってかぶせる。
「そんなに私を信用できない?」
青い眸を眼光が射抜く。メイコに見据えられ、カイトも言い澱んだ。
青い双眸の揺らいだのを認め、メイコも眼光を緩めてそっと手を伸べる。
「ねえ、カイト。私が信用ならないのは、わかるわ」
指の背でかかる髪を除け、差し入れた掌で頬を撫でる。メイコ自身が、というよりは単純に恐怖があるのだろう。当人の意志がどうであれ、十年前、メイコは忽然とカイトの前から姿を消している。
カイトはメイコの意志を正しく理解して、かぶりを振った。
「そんなことはないよ」
メイコの掌に頬を擦り寄せる。
「本当に、そんなことはない」
半ばは、カイトの優しい嘘だ。メイコを想う分だけ、また失くすことに恐れを感じてはいるだろう。自惚れでなく、カイトへの信頼としてそれくらいは理解している。そして。
もう半ばは真実。カイトはきっと信じてくれている。メイコの想いを。
「カイトのこと、好きよ」
青い眸が軽く瞠られる。閨の中ではあれほどまでに繰り返して言い交わしているのに。愛しくて、頬が緩む。
「でもね……だから、わかってほしいの。私にはリンやレンも大切だわ」
つい最近、知ったばかりの妹と弟。母の数え歌を知らない二人を、母の代わりにはならないにしても愛しんであげたい。レンに煙たがられているのはわかっているが、少なくともリンは好いてくれている。
カイトとは違う。違うからこそ違うなりに、メイコには彼らが可愛かった。
「ね、仲直り」
してほしいの、とメイコは思い切って要求した。カイトは不服そうな、拗ねたような顔をした。わかっていた。
カイトが嫌がるだろうことはわかっていた。けれど。
「私の妹と弟なんだもの……」
正式に世に関係を認められるかはわからないが、添い遂げる心は決めている。メイコを伴侶と認めてくれるなら、カイトには彼らを弟妹と呼んでほしかった。
決心を口にしてしまえば却って容を危うくしそうで言えなかったけれど。
カイトは続く言葉を飲んだメイコに頷いた。
「わかったよ」
まだ承服しがたいような拗ねた顔をしていたが、背に回した腕でメイコを抱き寄せてきた。すらりと高い背を屈め、吹き込むようにして囁き落とす。
「メイコの頼みだって言うなら、聞くよ」
柔らかく低い声に鼓膜が振れて、背筋が粟立つようだった。そのまま唇に耳朶を食まれ、メイコは擽ったさに思わず身を捩る。
幼い頃の幸せな記憶から、メイコの部屋に安心を感じているらしいカイトを慮って、二人で寝るのはそちらが多かった。けれど今日はもう、いつものようにメイコの部屋にゆく間もないだろう。
頬に瞼に唇に。キスを落とされ、そして頬に当てていた掌を取られて舐められた。意味ありげな笑みが、青い虹彩に浮いて覗きこんでくる。
「ばか」
メイコはそっと背を伸ばし、答えの代わりのキスを返した。
夜が更けていく。
 
 

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