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2011/08/31 (Wed) Comment(0)
初出:Pixiv
・ピロートーク注意





雪の夜だった。しんと静まり返った部屋にはベッドライトだけ、灯されている。
「寒くない?」
尋ねると、薄明かりの中でもわかる距離で確かに、彼女は優しく微笑んだ。
「カイトがあったかいから」
耳をくすぐる柔らかなメゾソプラノに、カイトは泣き出したくなって唇を重ねた。
この距離を求めたのは、カイトだった。
今朝まで。それどころか、ついさっきまで二人の距離はもっとずっとあった。こんな風に触れ合う距離じゃなかった。
こんな風に触れられる距離じゃなかった。
この距離を望んでいなかったわけじゃない。この距離を求めることも考えた。何度も。何度も何度も考えた。
けれどできなかった。怖かったからだ。向けられる微笑みが凍るのを見るのが、紅茶色の眸が困惑に曇るのが怖かった。アイスついてるよ、なんて言いながら彼女の方から触れてくる、そんな距離まで失ってしまうのが怖くて仕方なかった。
願う距離とは違っても、花みたいな微笑みや、耳をくすぐる軽やかな笑声や、白くしなやかな指先の届く距離は温かくて、これだけで満足しても良いんじゃないかと思えてしまったのだ。これ以上を望むのは過ぎた願いなんじゃないかと思えたのだ。
今回のことがなければ、カイトはきっとずっと、このままの距離に満足したフリを続けていただろう。

 
---続

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