カイメイ中心
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VOCALOID二次創作小説サイト
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メイコ愛をこっそり謡う
初出:Pixiv
空いていた一室に、ルカは手を引かれて入った。ドアを閉めると、振り返った紅茶色の眸はルカに尋ねてきた。
「送受信の仕方は?」
ルカは一つ頷いた。音声を中心としたデータの送受信の仕方だ。同社、あるいは提携社のボーカロイド同士は光彩を送受信機にやり取りができる。ルカにももうその機能は備えられてあり、手順は教わっている。
「でも初めてね?」
もう一つ、頷かざるを得なかった。自身以外のボーカロイドと今、初めて接触しているのだ。
ん、了解。言うと、突然しなやかな手が伸びてきて、メモリーを確認していたルカをドアに押し付けた。
息を飲んだルカの肩を掴み、こつりと額を当ててくる。丸く見開いたターコイズの眸に、端正な顔が、力強い眼差しが、間近に映る。
「近い方が送りやすいから」
額を押し付けられたままこくこくと頷いて、ルカは思い起こした手順を演算する。紅茶色の煌めきにすいと覗き込まれた気がして、送信に失敗したかと思った。送りすぎたような、送ったデータ以上のものを浚われたような気がしたのだ。
だが送られた側は特に問題を感じなかったようだ。顔を離し確認をとった紅茶色の眸は一つ、二つと瞬いて、ラズベリーみたいな唇を、に、と緩めてみせた。
「イイ声ね」
背が熱くなった。不具合だろうかと不安になる。ルカはボーカロイドだから、声を褒められるのは何より嬉しい。けれど、これまでも声を褒めてもらったことは何度もあったのだ。開発チームのメンバーはみな、ルカに好意的で、ルカの声に好意的で、いい声だと褒めてくれた。それでもそのときに、こんな風に背が熱くなることはなかった。冷却機能が巧く働いていないのだろうか。
目の前では、紅に染まった指先の両手が耳に当てられ目を瞑り、おそらくはルカの送ったデータを復唱している。ルカにも同じ癖があるから、わかる。
彼女もルカと同じボーカロイドだから声を褒められると嬉しい気持ちはよくわかるだろう。それでもさっきの声音には、お世辞を全く含んでいなかった。
ボーカロイドだから、ルカにもわかった。あの声音は、歓喜の高揚だ。
新しい音を紡ぐ喜び。
薄い瞼が持ち上がり、紅茶色の眸がルカを射抜いた。
「行きましょうか。あんたの声、聞かせてやりなさい」
手を伸べられ、ルカの中にも沸き上がる。今からこの声と、歌うのだ。
「はい」
手に手を乗せ答えたルカの唇に、知らず、笑みが昇った。
---続
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