カイメイ中心
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VOCALOID二次創作小説サイト
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メイコ愛をこっそり謡う
犬蓼へのお題:女の子にはなれないけど/「泣いてもいいのかな。」/閉じ込めておくなんて出来ないよ http://shindanmaker.com/122300
このお題が出た時に「私にはないな」と思いかけたのですがTLに流れていたアイドル咲音とカイコ(女装)を拝見して、「それだ!」と。
世の中には天才が多くて困ります。
注:カイトがだいぶアレです。
続き物です。
肩を竦めながら、ふふふと笑う。くすぐったそうに嬉しそうに、笑う彼女は可愛らしくて、幼い胸をチクリと刺した。
マネージャーのお姉さんに、明日が楽しみね、と言われた時のこと。アイドルとしての彼女の振る舞いとはどこか違う、はにかむ仕草で答えたのだ。
「今年は始音ちゃんが一緒だから」
そして人差し指を柔らかく唇に押し当てて、片目をつむって見せて、秘密のポーズを取った。
「内緒よ?」
始音カイコを名乗っていたその時のカイトは、もうすっかり板に付いた女の子の振りで胸元に手をぎゅっと握り、困った顔で笑うことしかできなかった。
それは突拍子もない思い付きが始まりだった。憧れのアイドルにほんの少しでも近付きたいと願った少年の、向こう見ずな思い付き。
オーディションで偽った性別は周りの大人にはすぐに露見した。それでも彼女には隠され続けた。利益に、なるから。
大人たちは複雑なようで単純だった。ピアノが趣味の母親に手ほどきを受けたカイトの歌声は同じ年頃の少女と遜色なかったし、線の細い面差しや第二次性徴前の体格は選ぶ衣装でまだまだ隠すことができる。何より。
露見を恐れて臆したカイトの様子が、明るく朗らかな咲音メイコと好対照だった。このキャラクターの好対照を捨てる手はない、と考えたようだった。
複雑だったのは幼かったはずの少年だった。憧れのアイドルと、隣り合うことに浮かれて舞いあがったのは、当初だけ。近付いてみればアイドルは咲音メイコと言う少女で、カイトは少年だった。
始音カイコに向けられる笑顔に胸苦しくなっていく。寄せてくれる信頼を裏切ることへの後ろめたさか、それとも憧れを超えた感情か。カイトには分からなくなっていた。
「みんなが祝ってくれるのは本当にうれしいの。でもね」
メイコは胸の前で合わせた手の、細い指を交差させて目を伏せる。口許を彩るのは物心つくころには大人の世界で背伸びをしていた少女の、年相応でいられる喜びだ。
「友達に、その日に、おめでとうって言ってもらうの、いいなあって思ってたの」
つきりと胸を刺す。メイコの微笑みが。
友達という言葉が。
「うん…」
ここにはいられないんだ、とカイトは思った。
閉じ込めておくなんて出来ない。
---続
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