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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2024/11/23 (Sat)
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2011/10/03 (Mon) Comment(1)
涼介Pの『見返り美人』派生(三次)小説。

先日一人で花火大会に行ったのですよ。
選曲を任せてた(シャッフルにしてた)あいぽっどさんが見返り美人を選びまして。
タエコさまの『最後の見返り』(PIXIV)の夜鷹(盲目)メイコと客カイト設定で花火見たら…と想像が膨らんでぱんぱんになったのではじけました。

涼介Pならびにタエコさんならびにファンの方に怒られるかもと多少どきどきしてます。
その他にも問題ありましたら下げます。
謝って下げます。

追記:作品内でメイコがカイトに頼んでいる歩行補助は正解ではないはずです。
時代とメイコの背景を考えてそうしました。
肩を借りる方が歩きやすい、と私は聞きました。
でも一番いいのは補助される方に尋ねることだそうです。
大事なことなのに追記になってしまって申し訳ないです。


 
 
三度。人にぶつかられた。
人込みは苦手なのだ。立ちんぼうをしていても別の誰かを避けた誰かにぶつかられる。苛々と眉間に皺を寄せて、メイコは唇を噛んだ。
今日はいやに人出が多くて、きっと何かあるに違いない。けれどそれが何なのかメイコにはわからない。触れ書きでも出ていたかもしれないが、メイコには読めないのだからわかりはしない。苛々、苛々。目を細め、辺りを睨み付ける仕草だけ、した。
その時だった。
「あざみさん」
青年の明るい声だった。ようやく見付けた、とでも言うような息の弾んだ声。この人混みの中で、たった一人をどれだけさがしたんだろう。思って、メイコは顔をしかめた。
「良かった」
言いながら歩み寄ってくる。足音が近寄ってくるのが、雑踏の中にもわかる。メイコの目の前に立ち止った。
穏やかに笑い、青年の声の主は手を伸べてきた。むしろを抱く手にそっと触れる。
「一緒に来てほしいんだ」
やわい手だ。触れられるたび思う。触れられるメイコの手の方がささくれだって、ぼろぼろで。
「お代は…その、払うから」
きちんと支払うと言うお代、それで。
やわい手に似合いの、やわい肌のちゃんとした女を買うことは易いだろう。壊れもののようにこの肌を撫でた手を思い返して忌々しく、メイコは顔を背けた。
そんな理にならないことをしてしまうだけ、彼にほだされているんだと自覚できてしまう。
「あざみさん?」
不安げに小首を傾げながら窺う仕草が思い浮かぶ。莫迦だ莫迦だと思いながらそんな風に彼に慣れ親しんでしまった自分が、一番莫迦だと悔やむ。
彼の呼ぶその名だって、彼が付けたのだ。名を聞かれ誰も呼ぶものはないから忘れたと突っぱねたメイコに、呼ぶ名がなくては困るからと食い下がって揚句、なら自分に決めさせてくれと言ってきた。ぼんやりと柔和なお坊ちゃんの癖に、どうにも頑固で困る。
「…良いわ。厭だと言ったって、この間みたいに聞いてもらえないんじゃ意味がないもの」
う、と声が詰まる。叱りつけられた犬の仔みたいに言い澱むのが見えるようだ。見たこともない顔が、目裏で眉尻を下げている。一つ、息をついた。
「どこへついて行けばいいの」
投げやりに言ったのに、うん、と答えた声が明るくなった。
「川開きがあるんだ」
揚々とした声がメイコを促してきびすを返す。ついて歩きながら、それでこの人出か、と納得した気分だった。
と同時に、少し不安になった。よもや金持ち道楽の流行りに乗って、舟でも案内されやしないか。
訝っていたらまた誰かにぶつかった。足音と人の声が多くてどうにも距離が取り難い。ああ面倒だ厭になる、と顔をしかめて謝った。
ちっと舌打ちが聞こえた。ハレの日に穢れものにでも当たって縁起がない、と言ったところだろう。
ご愁傷さま、と内心で舌を出したところで、ぐっと肩を抱き寄せられた。
「済みません」
耳のすぐ上で声がした。心底悔いた声だ。誰か、は捨て台詞を吐いて遠ざかっていく。驚きに瞬いたメイコに、やわらかな声音が降りてくる。
「ごめん。気付かなかった」
面食らった。そのまま歩き出されて、足がもつれる。
そんなのは思いもよらない。ずっと一人で歩いてきたし、歩けるのだ。
たまに、ちょっと不注意に当たるくらいで、雑踏になるとそのちょっとが増えるからいつもは近寄らない。さっきのは転んだのでもないし、肩が掠ったくらいだ。そんなのはあることだ。だから、こんなことをされてはいっそう面倒なのだ。
慣れない。
「ねえ!」
気のせいでなく先程より早足で、歩くのを呼び止める。
「そこ、持たれると歩きにくいの! よけいに転ぶわ!」
声が上ずってしまって恥ずかしい。おぼこでもないのに、みっともない。きっとこの肩を抱く腕から初心がうつったのだと悪態をつく。
「え、あ、ごめん!」
慌てて手が離れ、メイコは詰まる息を抜いた。気休めに襟を直す。向こうも同じだったようで、ばかみたい、と心中でなじった。そんなに、顔を真っ赤にして足を急がせてしまうくらいならしなければいいのに。
「えっと…どうしたらいい?」
だから一人で歩ける、と。
言っているのに。
「手」
このぼんやりとしたお坊ちゃんは本当に頑固で、きっと言ったって仕方がない。それにそう、相手は客なのだ。客の意向に沿って代金を弾んでもらうなんて、恥ずべきことでもなんでもない。メイコは一人で歩けると断りたい気持ちに言い聞かせ、蓋をした。
「手、を引いて」
声の方に手を伸ばす。メイコの目にはその先は何もなくて、ひどく怖ろしかった。この手が掴んだものより、この手をすり抜けたものの方が多かった。
「わかったよ」
やわい手。やわくて温かな手が確かな輪郭で以てメイコの手を握る。
「離しちゃあ駄目だよ。きっとだからね」
そう言って今度はゆっくりと歩き出した。
川沿いを日の暮れに向かう道を行く。時折振り返り、メイコの歩みを確かめる。誰かの通る時にはそっと手を引いて身を寄せる。言葉もなく、メイコは黙ってついて歩いた。
雑踏と川風が土手を吹く。夏もまだ浅い風は涼しい。それでも握る手は汗をかいていて、彼の熱をメイコに伝えてきた。
「どこまで行くの」
「もうじき」
歩いた距離も測ってこなかった迂闊さに気付いた時、ここだよ、と言われた。
「ここを…ちょっと下るから…」
ふと言い止して、押し黙る。視線を注がれているような居心地の悪さを感じ、メイコは首を傾げた。
ごめん、と言われて急にぐらりと体勢が変わった。一拍遅れ、横抱きに抱き上げられたのだと気付く。
「言わないでやるの、やめてって言ってるでしょ!」
じたばたして落とされてもかなわないので、言葉だけ抗議する。睨んでじっとしているとまた、ごめん、と言われた。この口が吐くごめんは信用できない、と思った。思ったのだが。
「本当に…でも、こう、挨拶をして改めて、と思うとできない気がしたんだ」
言い訳に顔が火照った。
「それならね、やらなきゃいいのよ」
「でも、下るから見えないんじゃきっと危ないんだ」
「子供扱いしないで。そのくらいできるわ」
「でも、俺が抱いて行く方がきっと安心だよ」
「誰が安心なのよ。あんたでしょう? あんたの安心なんて別に…」
「だから!」
大股で歩き出したんだろう。土手を腰で滑るようにして下る。唐突に揺すられて、つい、手近のものに縋ってしまった。
頬を押し付けた胸は、やわい手の割に随分広くて、温かかった。
「貴方はきっと自分でできると言うと思ったんだよ。でも、俺がやった方が安全なのは決まってるんだ。だから…」
わかったわ、とメイコは遮った。ぐいと抱かれた胸を押して遠ざけて、顔をしかめる。
「もういいんでしょう? 降ろして」
言われて少し慌てたようで、けれどその腕はそうっと優しく丁寧に、メイコを足から土に降ろした。
「石が多いから、気を付けて」
わかっているわ、と答えながら降りたのに、重心を取り損ねて軽くたたらを踏む。直ぐに腕が伸びてきて、メイコの腕を確りと掴んだ。
言ったのに、とは言わなかった。その代りメイコの腕を掴んだ手が離れなかった。
離して、と言おうと思った。今のは少しよろけたくらいで、一人で歩けるから、と。けれど。
どおん、と空が鳴った。はっと仰ぎ見る。
「ああ、上がった」
メイコの目には映らない。
「本当に。まるで夜空に咲く火の花だよ」
けれど空一面を揺らす低く鳴り渡る大音声と、それに続くぱらぱらと散りゆく音が耳に響く。メイコは驚きに目を瞠った。
「花見は好かない、と言ってたから」
振り返り、見遣る先にはその姿は勿論、ない。けれど温かな手がメイコの腕を掴んでいて、彼は、カイトは確かにそこにいる。
「人が多くて、酒精で花の香りなんてわからないし、酒宴の席と変わらない、って」
そんなことも言ったろうか。メイコ自身、覚えていない。寝物語にどうでもいいことを話したのは確かだが、そんな愚痴めいたことを言った相手がカイトだったのかどうなのか、はっきりとした覚えがないのだ。
そんなことも言ったかしら、と濁すと、言ったよ、と苦笑された。空が鳴る。カイトの声は静かで、それなのに空を鳴らす花火の音よりも良く響いて聞こえた。
「それで、川開きに花火が上がるって言う話を聞いて、きっと誘いたいと思ったんだ」
見えなくても、聞こえたら楽しめるかと思って。メイコは目を細め、顔をしかめてカイトを見た。
なんて、短絡的。
「ここならあまり人は来ないのも知っていたんだ。この上、薊が繁っているから、入り口を知らないと降りてこられないんだよ」
あざみ。は、と気が付いて、くるりと目を向けた。声が少し、笑ったようだった。
「近所の意地の悪いのに追いかけ回された時、よくここに来ていたよ。だから薊の花は、俺のす…あー、だから、うん」
途中で恥ずかしくなるのをやめてほしい。手を握られているから、うつるのだ。そうに決まっている。決まっている。
薊の花なんて、きっと店の品の柄でしか知らなくて言っているんだと、腹の中で嘲笑っていたのだ。刺々しくて寄るもの触れるもの傷付けて、まるきり私にふさわしいと笑っていたのに、それなのに。
メイコは顔を背け、もう色もわからないだろう時刻を初めてありがたいと思った。空には火の花が咲き乱れ、鳴り渡る。
「花見も…花も悪くないけど、花火だって綺麗なものだよ。こう、両手を広げても足りないくらい大きな火の花が、空いっぱいに咲くんだ。随分、あれはすごいものだよ」
懸命に。
カイトは懸命に花火を形容してみせる。見えないメイコに、今、空に咲いているものがどんなものかを説明して見せようとする。
その様は滑稽だ、とメイコは思った。思ったはずだった。
「知っているわ」
メイコはわらった。
「昔は見えたんだもの」
すいと顔を上げた。そこに広がるのは漆黒だ。何もない。
ただ、音が広がる。低く響き渡る。そしてそれに誘われるように歓声があがる。
「父が生きていた頃…一度だけ連れてきてもらったのよ。私はまだ小さくて、人込みの中で背伸びしてた。父が見兼ねて抱き上げてくれて、ようやく見えたの」
とても、綺麗だった。
空に轟音が鳴り渡る。火の花に遅れて鳴る雷鳴にも似た轟きが、メイコの眼裏に遠い日の空をありありと描かせた。
「黒い空に光が咲いては消えて…そうね、まるで本当の火の花のようだったわ」
咲いては消える火の大輪を、目を丸くして見詰めていた。もう忘れていた遠い昔だ。
「メイコ、って呼ばれて、あれは人が作るんだよ、って教えてもらったのよ。人が咲かせる花なんだよ、って」
空を揺らす音の重なりに咲き乱れる火の花を思い描いていると、腕を掴む手に力がこもった。軽口が滑ったのだと、はっとした。
「忘れて」
手を振りほどこうとしたら、却って強く握りしめられた。やわくて頼りないようでも相手は男だ。メイコの膂力ではかなわない。
「無理だよ。貴方だって忘れてなかったじゃないか」
かなわないなりに抗うことで反意を示す。
「あざみでいいわよ! いいから忘れて」
だがカイトも聞かなかった。ぼんやりと柔和で初心なお坊ちゃんだが、どうしようもなく頑固なのだ。
「呼ぶのはそれでいいよ。でも忘れられない」
「忘れたふりくらいすればいいじゃない!」
「厭だ。ふりが本当になったら困る」
こんな風にみっともなくなった自分が、その名で呼ばれることが耐えられないのだ。そう伝えればカイトは忘れると誓ってくれるだろう。
けれどそれも、メイコは厭だった。彼の前にこんな風にみっともないのだと、曝すことが厭で仕方がなかった。
「俺は忘れない。忘れられないよ」
見たこともない顔の男が、女々しく眉尻を下げているのが浮かぶようだ。どうして、とメイコは思った。
昔に、父と見た花火の思い描かれるのはまだ、わかる。けれど本当に、カイトの顔など見たこともないのだ。
「あ」
カイトが上げた声の後に、ひときわ大きく空が鳴った。今日の一番で、大トリだったに違いない。
「ほら、こんな下らないことに拘わっているから」
皮肉を言って笑うと、むっとした様な声が返ってくる。
「下らなくないよ。大事だ」
どこが、とメイコは斜に尋ねた。年に一度の一番の大輪を逃す大事が、どこにあったと言う。
全部だよ、とカイトは答えた。
「この世で一つきりの貴方の名を忘れろなんて大事の前に、これまでも、これからだってある花の一つや二つ、小事だよ」
奥歯を噛む。このお坊ちゃんはやはり、何もわかってやしないのだ。
「これまであったものが、これからもあるなんて証しはどこにもないのよ。来年、同じ花が空に咲くなんて思うのが間違いよ!」
それでも、というカイトの声はメイコの耳には響く。
「今を限りの花だったとしても、俺には貴方の名前の方が大切なんだ」
腕を強く引かれ、胸の中に抱きくるまれた。渾身で抗って押し返そうとするのに、抱かれた温もりに力が抜ける。
「また見に来ればいいよ。来年見に来よう。ねえ、めいこ」
呼ばれて、腕の中でかぶりを振った。無理よ、だめ、と拒んでカイトに小さく笑われた。
ふりだけでも頷いてよ、と。
 
 
そうしておくのだった、とメイコは思う。
ふりでも、望めばかなっていたかもしれないから。客には惚れたふりの商売女が、本当に彼を好いてしまったように。
望んでもかなわないものは多いけれど、望まなければかなわないものもいくつかはあったはずだった。
たった一つ。これがさいごの望みになってしまう前に。
「ねえ、かいと」
 
 
 
 
「          」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
-了-

拍手[8回]

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申し訳ありません
はじめまして。通りすがりのカイメイスキー、姫紫子と申します。
あまりに素敵すぎて、足を止めてラブレターという名前の感想文を送りつけたいと思います。

雰囲気が素敵すぎて一気に読みきりました。
読み終えた瞬間変な声が出ました。本当です。
指が震えました。これも本当です。
描写もくどくもなく、物足りなくもなく、ちょうど良い塩梅で、とてもバランス感覚に長けた方なのですね。

これからも、お疲れのでないように創作なさってくださいませ。

それでは、乱文長文失礼致しました
姫紫子 2011/10/04(Tue)11:46:38 編集
Re:姫紫子さま
初めまして、草葉の陰のカイメイスキー犬蓼と申します。
ラブレター大変ありがとうございます!

バランス感覚、とは意外なお言葉をいただきましてこちらこそ動悸が治まりません。
まだまだ拙い筆で、今回いい塩梅になったのもたまたまと言うか…
大本になった楽曲や、イメージをいただいた作品が神を降ろしてくれたのかと思ってます。

今後ももそもそ活動していきたいと思いますので、よろしければご愛顧下さい。
【2011/10/05 01:37】
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