カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
雨の日だった。校舎はじめじめと空気は重たくて、振り払うように階段を下りていった。
「あ、カイトいた」
一つ階下に降り立ってすぐ。その姿は見付かった。
横顔だって見慣れている。遠目にだってひと目でわかる。付き合いは四つ下の双子の弟妹よりも長いのだ。
「カ…」
自慢の声量で以て、廊下の端にいる一つ下の幼馴染を呼びつけようとした。
けれど。
そんなことをしてはいけない雰囲気だ、と気が付いた。
すぐ傍に女子生徒。手には白い封筒。両手で差し出して、真っ直ぐに彼を見る。
見てはいけないものを見ているな、という気はした。だけど見られたくないならどうしてこんな人目につきやすいところで青春の一ページを繰り広げているんだ。
困ったように髪に指を入れている。日に当たると青く照り返すちょっと癖のある髪。一緒にお風呂に入って、洗ってあげたことだってあるのだ。小学校に上がる前。
女の子は手紙を胸に抱いて、一生懸命に何か訴えている。階段ホールは放課後の活気を反響して、廊下の向こうの会話なんてまるでわからない。彼が首を横に振るのだけ見える。
そうか、と納得がいった。カイトはあの女の子とは付き合わない。納得して、だけど理解してしまった。
他の女の子とは付き合うかもしれない。
これまで、はなくならないからいつまでも幼馴染。でもそれは、これから、を何にも保証しやしないのだ。
思わず、メイコは短い茶色の襟足に手を伸ばした。くしゃりとつかむ。
彼の一つ下の妹は同じようにきれいな緑の光沢で、昔、すごく羨ましかった。サラサラで長くのばしていて、お姫様みたいだった。
「リンや、レンよりも地味だし、カイトやミクみたいに素敵じゃない」
部屋に押し掛けて、八つ当たりをしてみたりもしたものだった。ぷーっと頬を膨らませて、傍で寝転んでいたカイトの髪をわしわしと混ぜっ返した。あの時。
「でも俺はめーちゃんの髪、好きだよ」
開いていたマンガのページから視線一つ上げずにもそもそ呟いた、その言葉が嬉しかったから、それからあんまり羨ましくなくなった。
でも、なんだか髪質変わったかな、と思った。手に触れる癖っ毛に強い芯を感じた気がした。
ああ、変わるんだ。
いつまでも同じじゃない。
「メイ」
声を掛けられて振り返った。同級生で同じ部活の友人が立っている。
「幼馴染くん、いた?」
一緒にみんなの歌を歌った仲だし、誘ってみたいと告げていたのだ。ふるふると頭を振った。
「ううん、いなかった」
友人は不思議そうな顔をしていたけれど、そう、と肯いてくれた。部活始まるよ、という友人と連れ立って背を向ける。
夏の訪れる前の、長い雨が降り始めた日だった。
-了-
-了-
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