カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
初出:Pixiv
書いてる人がメイコ大好きなので家族全員めーちゃん大好きなのはまあしょうがないです。
仕様です。
書いてる人がメイコ大好きなので家族全員めーちゃん大好きなのはまあしょうがないです。
仕様です。
あの日ちゃりんと落とされた鍵が今もミクの掌に乗っている。誰もいないリビングのソファで、ミクは傾く日射しに鍵を翳した。鍵は夕に向かう日射しを銀色に煌めき返す。
家族だから、いつでも帰って来られるように、と貰ったけれど、思えば使ったのは初めてだった。いつも出迎えてもらっていたんだな、と思う。
そして鍵をぎゅ、と手の中に納めた時だった。かちゃり、と玄関で音がした。かからない方に鍵の回る音だ。ミクはぱっとソファを立った。
リビングのドアを開け、顔を覗かせる。玄関には兄と、上の妹と、弟とがいた。
「ミク姉、帰ってたんだ! おかえり!」
リンが靴を放るようにして脱ぎ、玄関を上がる。
「ただいま。それにおかえり、リンちゃん」
「えへへ、ただいま」
リンの手にはミカンと青菜の入った買い物袋がある。その背後で、レンが自分の靴とリンの靴とを一生懸命に並べていた。
「おい、リン! 靴投げるなよ! メイコ姉に怒られるぞ!」
リンがくす、っと笑ったので、何となく考えがわかった。ミクが視線を送ると、にこりと視線が返ってくる。
「レンくん、おかえり」
「レン、おかえり!」
声を合わせると、スカイブルーの眸が驚きに瞠られ、ぱちぱちと瞬いた。それから照れた様な不機嫌な声音で、ただいまが返ってくる。
「ミク姉も、おかえり」
ただいま、とミクが答えると、隣でリンがぷ、と頬を膨らませた。
「私には?」
尋ねたリンに、おかえりを投げ捨てて、レンは二人の間をすり抜けていく。何あれ、と地団駄を踏むリンに、思わず笑みが零れた。
「レーン、卵気をつけてねー」
リビングに姿を消したレンに、カイトが靴を脱ぎながら声を投げる。レンと同じように、姉に叱られるからというわけではないだろうが、きちんと揃えた。玄関を上がってミクを返り見た。
「お兄ちゃん、おかえり」
見上げると、深い海の色の眼差しが下りてくる。
「うん、ただいま。出迎えないでごめんね、おかえり」
もうちょっと遅いかと思ってた、と苦笑したカイトに、ミクはかぶりを振る。ただいま。
代わりに出迎えられたから、は言わないでもいい気がした。なに買って来たの、と買い物袋を覗いていると、さっき閉めたばかりのドアがまた開いた。
開けたルカが、驚いて立ち止まる。
「何かのお祭りですか?」
玄関で。怪訝そうな末の妹が可笑しくて、そう言うわけじゃないと答える声が笑ってしまう。
「おかえり、ルカちゃん」
呼びかけると、怪訝そうだった表情が緩んで、綻んだ。
「ただ今帰りました。ミク姉さま」
リンとも、一応カイトとも同じ遣り取りをしたルカの手にも、買い物袋が下げられている。彼女も今日は仕事に行っていたはずだから、どこかに寄って来たのだろう。ミクの目の留まる先に気付いて、ルカは素直にはにかんだ。
「姉さまに、と思って」
じゃあお刺身かな、とミクは推察した。海産物はどんな調理でもいける口の妹だけれど、酒の肴に一番と言ったらやはり刺身だ。一体どこに伝手を得たか、やたらと美味しい鮮魚を調達して来てはメイコに喜ばれている。
「あ、やっぱり。魚は買って来なくて良かった」
カイトがルカに届くように呟いた。
「ええ、代わりにお酒は買ってきませんでしたから」
カイトの片手には箱入りの吟醸酒が抱えられている。刺身によく合う、と言っていた銘柄だ。これで連絡を取り合っているわけではないのだから驚いてしまう。
「すごいね! 以心伝心だ!」
リンが感心したように声をあげた。濁点のついた『え』が綺麗なユニゾンを作り、やっぱりこの二人は仲がいいのかな、と思う。
お互いに見合わせた表情からは、ちょっと言い難いけれど。
「ったく、いつまで玄関で騒いでる気だよ」
自分の買い物袋をキッチンまで届け、レンが戻って来た。妹が帰ってきていることは、耳に声を聞いて察している。ルカおかえり、と平然と声をかけた。
「ただ今帰りました、レン兄さま」
答えながらルカはようやく靴を脱ぎ、たたきを上がって揃える。何を買って来たかとレンに尋ねられ、赤身の良いのがありましたので、と答えていた。
リンもリビングへ踵を返し、ミクはカイトにどちらか持とうかと声をかけようとした、その時だった。
かちゃりとノブが引かれ、ドアが開いた。
「ただいまー」
伸びやかなメゾソプラノと一緒に、三日ぶりの顔が覗く。入って来て視線を止め、紅茶色の眸は呆れ、笑った。
「なあに、お出迎え?」
狭い玄関になんだか全員揃っている。確かに可笑しくて、ミクも笑ってしまった。
「そうだよ。みんなめーちゃんが恋しくて」
と兄が言った。
「ばかじゃねえの。たまたまだろ?」
と弟が兄を一瞥した。
「えー? でもレンが寂しくなってたのは事実でしょ?」
そう言って上の妹が笑い、弟は顔を赤くして反論していた。
「居合わせたのは偶然ですが、恋しかったのは事実ですわ」
と下の妹がフォローした。ミクは、そうだね、と頷いた。
たった三日。メールでの遣り取りも電話もしていた。それでも恋しかった。
姉が、みんなが。家族が帰ってきてくれたのが、嬉しい。離れて一緒に歌うのでも嬉しいけれど、やっぱり隣で歌いたい。
「なんだ、あんたたちも帰ってきたところなの」
なるほどとメイコは得心した様子だった。
「じゃあ、『おかえりなさい』」
今まさに玄関から入ってきた人に言われるなんて、こそばゆくなる。けれど、変なの、とは誰も言わなかった。
ただいまめーちゃん、とカイトが答えた。
ただいま、と声を合わせ、めー姉、とリンが繋げ、メイコ姉、とレンが繋げた。
ただ今戻りました姉さま、とルカが答え、ミクは、ただいまお姉ちゃん、と答えた。
そしてそれぞれに、おかえり、と返した。もちろんミクも真っ直ぐに、微笑んだ。
「おかえり、お姉ちゃん」
メイコが嬉しそうに笑った。
「ただいま」
-了-
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