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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2011/09/07 (Wed) Comment(0)
初出:Pixiv





まだ発売の決まる前。これから生活する世界を勉強するためと、ミクは初めてこの家につれてこられた。ラボに勤める研究員の車でだ。緊張で、言葉もなかったのを覚えている。
お姉さんとお兄さんに会って、教わっておいで。そう言われてラボを送り出された。
二人のことは知っていた。『MEIKO』と『KAITO』。ミクよりも先んじて発売された日本語ボーカロイドだ。文字情報としてのデータももらったし、二人がラボに残した歌声もたくさん聞いた。
けれどそれらはボーカロイドとしての能力の高さの証明で、これから出会う二人がどんな風にミクを出迎えてくれるのかとは関わりがない。もしも妹なんて欲しくないと思われていたら。その考えにミクの胸中は占められて、気が気ではなかった。
そしてついには、つかなければいい、とまで思ったときに車は止まり、言われたのだ。
「ここだよ」
閑静な住宅街にとけ込んだ一軒家だった。隣家と比べても特に目立つこともない。同じボーカロイドのミクが思うのも何だが、普通なんだな、と思ったのだった。
研究員がインターフォンのチャイムを鳴らすのを、ミクはどきどきとしながら見守った。ピンポーンというありきたりな、のどかな音がしてしばらく。やや置いても返事はなく、代わりに玄関のドアが勢いよく開いた。
ミクはびっくりしたし、研究員も少し驚いた様子だった。紅茶色の眸を細め顔を綻ばせたのは、胡桃色の髪の女性。『MEIKO』だ、とミクは思った。
「その子ね! 可愛い!」
鮮やかな赤いセパレート。後々になって思い返せば、それは仕事のユニフォームであって休日には私服を着ているのだから、きっとミクのために着てくれていたのだ。ユニフォームである方が、目に馴染みがあるから。
きらきらした紅茶色をミクに向け、彼女はますます眸を輝かせた。嬉しそうに笑ったメイコに、研究員が苦笑していた。情報は渡していただろう、と。
「わかっていたけど…実際会って確かめるのとじゃ、やっぱり違うわ」
そしてドアを押し開け、中へ上がるよう促した。中には青い髪の男性ボーカロイドが待っていた。彼もやっぱりユニフォームで、にこやかに笑っていた。
靴を脱ぎながら、研究員がそちらに言を向けた。
「カイトもな。先輩だからって遠慮せずに止める時は止めろ。不用心だろう。ちゃんと確認してから出ないと…」
婉曲に咎められ、メイコは首をすくめ、ちろりと舌を覗かせた。愛嬌のある仕草が、ミクの想像していたMEIKOの姿とまるっきり違っていて、目を奪われる。
「言わないであげて下さい」
カイトがスリッパを出しながらくすくすと笑う。
「楽しみで楽しみで、三日前からそわそわしてたんだから」
これにメイコは、あら、と答えた。ドアを閉め、ミクのすぐ傍で腰に手を当ててみせる。不敵に笑って小首を傾げた。
「カイトもでしょ?」
向けられた視線の先で、カイトは軽く肩をすくめた。
「否定はしないよ」
不安に駆られていた自分が恥ずかしくて、ミクは俯いた。頬が熱くなる。どうしたの、とメイコに尋ねられ、慌てて首を振った。何でもないです。
そしてリビングに通され、そこで改めて紹介をされた。
「まあ、説明は要らないだろうが。『初音ミク』だ」
紹介されて、ミクは口籠ってしまった。最初が肝心だから、きっときちんと立派に挨拶するんだと、ここ数日一生懸命に考えていたのに。
口を開いても言葉が出なくて、また閉じて。繰り返していたらメイコにもカイトにもくすりと笑われてしまった。
けれど緊張にかちかちになった後輩を笑う眼差しじゃなく、それは。
「初めまして、私たちの妹。私はCRV1 MEIKO。メイコよ」
「俺はCRV2 KAITO。よろしく」
そして手が差し伸べられた。
「わ、私はCV01…あの、初音ミクですっ!」
伸べられた手を握り返すと、メイコはミクの頭を優しく撫でて、大丈夫、と言ってくれた。同じように握手をしたカイトは、緊張しなくてもいいよ、と。
紅茶色の眸も、深い海の様な青色の眸も、優しくて温かくて、ミクはラボの先生に言われた言葉をじわりと思い出していた。
『お姉さんとお兄さんに会って、教わっておいで』
ただの単語だった『姉』と『兄』がミクの中で確かな形を作る。辞書に書かれただけの意味しかなかった言葉が、急に別の意味を持った。
びっくりしてしまって、嬉しくて、ミクは真っ赤になって俯いた。
「そう言うカイトだって、初めて会った日には相当緊張していたのよ」
姉のメイコがいたずらっぽく笑いながら、もう一度頭を撫でてくれた。
兄のカイトが、敵わないな、と言うように苦笑していた。


---続
 

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