カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
初出:Pixiv
録ったばかりの歌を口遊みながら玄関の敷石を踏む。足取りも弾むのは録音が上手くいったことだけが理由じゃない。ミクはうきうきとドアノブを掴み、引いた。
ぐ、と手応えがある。鍵がかかっているのだ。
驚くことではなかったのだが、ミクは立ち止まり、自分の手に握られたままのノブをじっと見詰めてしまった。
「お買い物かなあ」
呟き、ミクは手を離した。
確か兄が休日で、家にいるはずだ。すぐ下の弟と妹も、調整だけだから午前だけで済むはずだと言っていた。もう少し遅い帰宅時間を告げていたから、ミクはまだ帰らないと踏んで買い物に出かけたのかもしれない。有り得ることだ。
「お兄ちゃん、ごちそう作ろうとか考えてるんだろうな」
頬を緩ませた兄の横顔が思い描かれて、くす、とつい笑みが零れた。鞄から鍵を取り出して、鍵穴に挿し込む。かちゃり、と軽やかな音を立てて鍵は開いた。
兄が浮かれるのもわかる。泊まりの仕事に言っていた姉が、今日、帰ってくるのだ。ミクがうきうきしていた理由の半分もそこにあった。
会えなかったのは三日。もちろんメールや、電話での遣り取りはしていた。今朝は『今から録音』と送ったら『私も今から録り』と返してくれた。
『一緒に歌えるかもしれないわね』と。嬉しかった。
離れた場所でも、歌う歌が違っても、同じときに歌を歌っていられる。それを『一緒に』と言ってくれることが嬉しかった。
「ただいまー」
言いながらドアを開けるけれど、もちろん返る答えはない。しんと静まり返った廊下はいつもよりも暗い気がした。
いつもは兄弟が賑やかしているリビングのドアを開けても、午後の日射しがただゆっくりと傾いているだけだ。テレビゲームに熱を上げるリンも、レンも、それを興味深そうに見守るルカもいない。リビングからカウンターをはさんで続きになったキッチンに目を向けても、夕飯の支度に立つメイコもその横で手伝うつもりかアイスに気があるのか冷凍庫を開けるカイトもいない。
ミクは鞄を下ろしてソファに歩み寄り、そっと腰掛けた。誰もいない部屋はこんな風に広く見えるんだ、と実感する。
ミクは掌に乗せた鍵に視線を落とした。食品サンプルのキーホルダーがついている。ネギ好きのミクに妹と弟がお土産としてくれたものだ。そして。
この鍵を手渡してくれたのは姉だった。
家族だから。
あなたにも渡しておくわね。
そう言って、渡してくれた。
---続
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