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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2011/09/07 (Wed) Comment(0)
初出:Pixiv





昼食を知らせにいったボイスルームで、カイトはミクに尋ねてみた。ルカの自分に対する評を知りたい、とずばりと。
最初はきょとんとしていたミクも、あのひと月を過ごせなかった話をすると少し難しそうな顔になった。
「そうかもしれないけど…ルカちゃん、きっとお兄ちゃんのことちゃんと好きだよ」
好き、という単語にカイトは少し戸惑った。ミクがその好きに何を含んだかが、判断つかなかった。
とは言え、その好きはどの好きの意味だ、などと訊いては恋に恋する年頃の興味に火をつけかねない。家族のうちで、火薬は誰かと言えばリンだが、火種はたいていミクなのだ。
ミクの突拍子もない思い付きがリンに火をつけ大爆発する。そしてレンかカイトが火傷をする。メイコは火消しだ。
もちろん火消しもそれなりに火の粉はかぶる。特に火のつきやすい『恋の話』関係ではそれこそ火中ど真ん中だ。相手は他ならぬカイト。姉と兄ながら、その関係はきょうだいのものでは、ないのではないかと疑われているのだ。
「なんで、そう思うの」
カイトは訊いた。気落ちした響きを声に乗せれば、ミクは一生懸命に真っ直ぐな嘘のない言葉を返してくれる。それを吟味すればおそらくは、『好き』の内訳も出てくるだろう。
そんなはずないよー、という弱気を言外に含んだ声音に、ミクはやっぱり声を強くしてくれた。
「だってルカちゃん、お兄ちゃんの歌を一生懸命に聴いてたんだよ! 嫌いな人の歌、あんなに一生懸命に聴かないよ!」
カイトは困った。真っ直ぐな嘘のない言葉は、すごくわかりにくかった。
ルカがカイトの歌を聴いていた。一生懸命。やっぱりミクやリンの大好きな方向なんだろうか。もっと事細かく聴きたいところだが、あまり薮を突いてヘビを出したくもない。
他のことでならともかくも、この話で火傷をするつもりはカイトにはなかった。この話ではカイトの火傷がそのままメイコの火傷に繋がってしまう。
メイコの意見があって隠し伏せているが、最近そろそろ苦しい。何しろ、内緒にしようと言った当人のメイコが、嘘をつけない性格をしているのだ。
逡巡して、カイトは尋ねた。
「俺の歌? 聴いてくれてたの?」
何の曲を聴いていたのかがわかれば、少しは道が開けるかもしれない。ラブソングだったら、アウトだ。
「そうだよ! すっごく一生懸命聴いてたよ!」
ミクはこくこくと、励ますように頷いてくれた。純粋な妹をだまくらかしている罪悪感は、ないわけではない。
「えっと…どの曲?」
「これ!」
弱った。ミクが両手で差し出してきた楽譜は、ラブソングだった。ラブソングには違いない、と思える曲だった。
「これ?」
「そうこれ!」
ミクの声は弾んでいる。然もありなん。ミクにとっても懐かしい曲だろう。
「でもこれって…」
カイトたち兄弟がもらう最初の練習曲だ。発売前のカイトがメイコに一緒に歌ってもらったのを皮切りに、ミクが歌い、リンとレンが歌い、ルカも歌っている。
「これのね、お兄ちゃんのパートをすごく一生懸命に聴いてたんだよ」
ミクは微笑んでくれるけれど、カイトは眉尻を上げることができない。笑みを返してはみたけれど、微妙になったはずだ。
メイコと歌った曲のカイトのパートを聴いていた、それはどう受け取ったらいいのだ。カイトの声を聴いて学びたいとも受け取れるし、カイトのパートを覚えてメイコと歌いたいとも取れる。しかも、ミクとリンが大好きな方向も除外できない。
カイトは心中で頭を抱えた。本当はしゃがみ込んで頭を抱えてしまいたかった。そこへ。
がちゃりと重たい金属音がして、ドアが開いた。
「あんたたち、なにやってんの」
メイコだった。休日の私服姿で、衣装のときの鮮烈な印象は多少薄いだろう。それでも。
「せっかくリンとレンが頑張ったのに。冷めちゃうわよ」
くすくすと笑う、その笑顔はまるで花の咲くようだった。自然と頬が緩む。
楽譜を譜面台に戻し、行こうか、と促すとミクがこくりと頷いた。ルカとのきょうだい関係作りは取り敢えず保留だ。少なくとも昼食の終わるまでは。
「なに、歌ってたの?」
ミクが駆けるように寄っていくと、閉めていなかったドアをメイコがドアガールよろしく押し開けてくれた。身長を生かした歩幅でゆったりと、けれどミクと同じペースでカイトは歩み寄る。ドアを支える手を変わると、ありがと、と紅茶色の眸がふわり細められた。
「カイトはミイラ取りがミイラになっちゃって。新曲?」
温もりのたゆたうような眸は、言葉の終わりには優しくミクに注がれている。弟妹が一人でもいれば姉としての責任感が優先で、けれどそれがメイコらしいと思う。
「ううん、お姉ちゃんも歌った曲だよ」
たん、たん、とリズムをつけて昇っていた階段の途中、ミクはくるりと振り返った。愛するネギ色と言ってはばからないミントグリーンのセーターに合わせたトープのシフォンスカートがふわりと広がる。ミクが曲名を告げると、カイトの前でミクを追っていたメイコの肩がぴくりと震えた。
動揺。
カイトからはメイコの後ろ頭しか見えないけれど、メイコが何か動揺したのがわかった。どうして。それが、わからなかった。
「そう。ずいぶん懐かしい歌ね」
メイコの声が、震えた。本当に微かだけれど、震えていた。カイトでなければ気付かなかっただろう。ミクも気付かなかったようだった。プログラム的な性能で言えば、カイトよりも優れているはずのミクも。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんが歌ったのが最初なんだよね! 私ね、ラボにあった二人の歌を聴いて、歌うってすごく素敵なことなんだーって思ったんだよ!」
ミクはまた、くるりと背を向けて駆け上がっていく。地下のボイスルームから、一階への多くもない階段。それを踏みながら、カイトはメイコの表情が気になって仕方なかった。
ぴんと伸びた背中は振り返らない。どうしてか、それが不安になる。
階段を上りきったミクは廊下をリビングへ向かう。少し遅れてメイコが最後の段に右足を掛けた。
「あ、でもお姉ちゃんが一人で歌った音はなかったんだよ。お兄ちゃんのはあったけど」
こつり、と。
メイコの左足のスリッパの先が、階段の縁に引っかかった。転ぶかと思った。
思わず手を伸ばしかけていたけれど、メイコは段を踏み直し、平然と一階の床を踏んだ。カイトを、振り返りもしない。
「私がひとりで歌った音は、この歌にはないわ」
ミクは少し考えるように立ち止まり、メイコを見詰め、肯いた。
「そっかぁー」
何かを、考え込みながらミクは廊下をゆく。考え込みながらリビングのドアを開け、メイコがそれに続いてゆく。そしてその後ろからはカイトが、ミクと同じように考え込みながら続いていった。ミクとは違い、メイコの背を見詰めながら。
リビングに入り、後ろ手にドアを閉めながらカイトはメイコを呼んでみた。
「めーちゃん」
それでも振り向かないなんていうことは、さすがにない。
「なに? カイト」
耳朶にくすぐるように触れるメゾソプラノ。このリビングで初めて出会ったときから変わらない。
真っ直ぐに見詰め返してくる紅茶色の眸に、へにゃりと相好を崩した。
「呼んでみたかっただけ」
端整な丸顔が胡乱にしかめられる。用もないのに呼ばないで、と青い前髪のかかる額に手刀を落とし、そしてふいと背を向けてしまった。カイトは額を抑えながらその背をもう一度追いかけて、食卓へ向かう。
ぴんと伸びた背中を見ながら、ついさっきのメイコの声を反芻する。細かなイントネーションが気にかかったのだ。
『私が独りで歌った音は、この歌にはないわ』
どうしてだろう。なぜメイコは独唱を強調した。
わからなかった。

 
---続
 

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