カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
初出:Pixiv
初代前説屋さまの企画、通称キス祭に参加させていただきました。
うちのカイメイは恋人か夫婦か微妙なところです。
あんまりそうはっきりと意識してないです。
ただ大分前に見かけた、住宅街の中学校脇を腕を組んで歩く20代前半くらいの男女二人連れの彼女の方の鞄に『地域パトロール』という腕章がつけられてて、「あ、なんかそれ」と思った気持ちをベースにしてます。
初代前説屋さまの企画、通称キス祭に参加させていただきました。
うちのカイメイは恋人か夫婦か微妙なところです。
あんまりそうはっきりと意識してないです。
ただ大分前に見かけた、住宅街の中学校脇を腕を組んで歩く20代前半くらいの男女二人連れの彼女の方の鞄に『地域パトロール』という腕章がつけられてて、「あ、なんかそれ」と思った気持ちをベースにしてます。
「ただいま、めーちゃん」
ことことと煮立つ鍋の前に立った彼女の腰に後ろから手を廻らせ、俺はそのまるっとした後頭部に口付けた。
ボーカロイドは総じて耳が聡い。玄関のドアが開く音で、俺の帰宅はとっくに気付いていたんだろう。めーちゃんは驚きもしない。
「おかえり、カイト。ちょっと離れて」
つれないなあ。少なからぬショックを受けて、俺はがっくりと彼女の柔らかな胡桃色の髪の中に鼻を埋めた。シャンプーの香りだけとも思えない、甘い匂いがする。
「今日のメニューは?」
頭一つ分と少し。
俺よりも背の低いめーちゃんの肩越しに覗き込みながら、回した腕にそっと力を込めて彼女を抱き寄せた。むき出しの腰はいつ抱いても細い。
「煮込みハンバーグ……って、ちょっと、カイト!」
めーちゃんは鬱陶しそうに身体をよじるけど、いつもみたいに鉄拳制裁は落ちて来ない。妹たちも、弟もいないから。
ついさっき、玄関のドアを開けてまず、絶好のチャンス到来を感じたのだ。妹の靴も、弟の靴も一つも出ていなかった。もちろん、仕事用以外の靴と同じにしまわれている可能性はある。俺はきちんとチェックを入れた。
今日働いた六足のうち、あるのは愛しの彼女の靴一足きり。小さくガッツポーズを作って、俺は意気揚々とその隣に自分の靴を並べ、リビングのドアを開ければこの通り。
きっとお腹をすかせて帰ってくる弟妹たちのためとに、帰ってすぐ夕飯の支度に取りかかったのだろう。仕事用のユニフォームのままエプロンをつけている。
「も、カイト! ダメったら!」
鼻先を胡桃色の髪に埋めながら後ろ頭の丸みに口付けていると、みぞおちをぐいぐいと肘で押された。痛いです、メイコさん。
「あの子たちが帰ってくるでしょ!」
肩越しに顧み、紅茶色の眸が睨んでくる。睨むと言ったって、叱りつけるような視線だ。まるで弟扱い。それは、俺としては、少し悔しい。
俺とめーちゃんの関係を名詞一つで言えば、もちろん『恋人同士』なわけだけれど、妹たちや弟の前での俺たちは良いお兄ちゃん、お姉ちゃんだ。
本当に。俺だってちゃんと良いお兄ちゃんだ。
だけどそうなると、妹たちや弟の前では、俺は彼女の弟になってしまう。
そして時々、彼女は忘れてしまうみたいに弟扱いが抜けないのだ。俺はいつだって、キミの恋人で居たいのに。
「もう少しかかるよ。まだ帰って来ない」
ミクとリンとレン。上から三人の妹弟たちは俺の後での録音だった。一番下の妹ルカは、少し遠いスタジオだ。
胡桃色の髪の甘い香りを嗅ぎながら、首筋にキスを下ろしていく。だってもう限界だった。この一週間ちっとも恋人らしいスキンシップをはかれてない。
良いお兄ちゃんにもたまにはお休みが欲しい。
「ね、めーちゃん」
耳元に囁きかけると、ぐいと身を捩ってめーちゃんがこちらを向いた。紅茶色の眸はだいぶ剣呑で、弟をなだめるなんて雰囲気じゃない。
何かきっついひと言を貰う前にと、俺はその優しい歌も弟妹へのお小言も恋人への愛の囁きも、全部を紡ぐ唇をふさいでしまった。
音を立てて数度。なんとか流されてくれないかと考えながら、啄むように繰り返す。
なるべく抱き寄せていたんだけれど、少し空いた身体の隙間に腕を差し込まれ、ぐいと押されて距離を取られた。互いの唇の間が拳一つ分。
あ、しまった。そう思った。だけど。
「ばかいと」
唾液に濡れて潤んだ唇が囁いた言葉は決して褒め言葉じゃない。それでも俺の心は沸き立った。紅茶色の眸は優しく、濡れた唇は口角を上げていた。
めーちゃんの細い腕が後ろに回って、かちりとコンロの火を止める。
「余熱で煮るから。蓋して」
囁いて、めーちゃんの腕が俺の首に回される。俺は片腕でめーちゃんの細い腰を抱きながら、もう一方をコンロの傍らへと伸ばした。置かれていた蓋を取り上げて、煮詰まり具合をことことと訴えている鍋にかぶせる。これでもう、恋人同士の時間を遮るものはない。
にやりとこぼれた笑みがよっぽど得意げに見えたのか、めーちゃんがぷっと噴いて可笑しそうに言った。
「そんなに口寂しかったの?」
からかうような口調に、俺はむっと唇を結ぶ。
「寂しかったよ。つい、アイスが三倍になるくらい」
腰を屈めてめーちゃんの額の生え際を、そして眦を食むように口付ける。嘘つき、とめーちゃんが笑った。
「いつもとおんなじだけ、アイス食べてたじゃない」
見ててくれたの、と聞くと、見てたわよ、とよどみない答え。嬉しくなってしまう。
その眸に俺は映っていたの、と瞼にキスをした。
そして頬に。首に巡らされた腕を取り、手首を噛み、手の甲に、掌に。
唇をつけて、じっと紅茶色の眸を覗き込んだ。めーちゃんは眉頭を浮かせ、本当に本当に優しい表情で微笑んでいた。
「大好き」
俺は呟いて、彼女を抱き寄せ、優しく笑う唇にキスをした。
軽く数度、繰り返せば、は、と吐息が漏れる。その隙をついて更に唇を重ね、そっと舌を差し込んだ。
「ん…」
鼻にかかった甘い声。舌で口腔を探ると、最初はつんつんと嫌そうに、けれどそのうちには彼女も舌をからめてくれる。
ヒトはどうしてこんな行為を始めたんだろうねと話したことがある。俺たちのこれはヒトの模倣でしかない。
生きることへの崇敬かもねと彼女は言っていた。生物にとって食べることは生きること。食物を得る器官を重ね合わせることは、互いへの強い信頼がなければなし得ない。
めーちゃんの内側の柔らかな粘膜をなめる。めーちゃんが俺のそれをなめる。柔らかな場所をさらし合い、触れ合わせる。ああ確かにな、と思った。
めーちゃんなら絶対安心だと思うのと同時に、めーちゃんになら噛まれても構わない。
「んっ…ふ……」
息苦しそうな吐息を聞きながら、俺が噛んじゃったらびっくりするかな、なんて思う。しないよ。しないけど。
でも時々思う。そんなことをしても、めーちゃんは俺を好きでいてくれるかな。ダメかな。
試しに、なんて俺がおかしくなりかけた時だった。
噛まれた。
下唇を甘噛み。痛くなんかなかったけど俺は驚いて、顔を離した。二人の間をどちらのとも知れない、二人のものが混じり合った唾液が銀の糸みたいに伝い合う。
ボーカロイドの聡い聴覚に届く、玄関の開く音。恋人同士の時間の終了だ。
俺はめーちゃんに苦笑を向けて、けれどめーちゃんはすうっと紅茶色の眸を細めた。
その眼差しは暁光みたいに俺の目を射す。
しまいかけていた舌と中途半端に開いたままの唇と。一緒くたに食んで銀糸を舐めとり、めーちゃんが囁いた。
「また後でね」
何と言うドS。俺が呻くヒマもあらばこそ。
リビングのドアが開いて妹たちと弟がどやどやと流れ込んできた。口々にお腹すいたの、今日のご飯は何だの言っている。
めーちゃんは切り替え素早く、すっかり良いお姉ちゃんの顔になっていた。
「こら! 先にうがい手洗い! ノド痛めて歌えなくなるわよ!」
だけど俺はキミみたいに器用じゃないんです。どうしてくれるの俺のこの期待感。
ついさっきまで恋人だった、今はしっかり者の姉さんが、俺を顧み笑う。
「カイトはせっかくそこに居るんだから、サラダのドレッシグ作っておいてよ」
了解です姉さん。答えた俺を、弟が哀れっぽい目で見ていたのは気のせいだと思いたい。
俺はいつでもキミにやられっ放し。
ちっとも勝てる気がしない。
……でも後で本当!約束だからね!
-了-
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