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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2011/09/02 (Fri) Comment(0)
初出:Pixiv

ツイッターで中谷さんに構っていただいたおりに、これは書くしかないな!と。
文中のアイスは実在。
ビールアイスは微妙という話も聴くのですがまあそれはそれで、隙のあるめーちゃんも可愛いかなと思ったことは秘密。





旅先の喜びと言ったら、その土地にしかないものだ。
その言葉を聞いた時には同意してくれたメイコも、箱の中を覗いたらひどく渋い顔をした。
カイトが泊まり仕事に行った先で、家族向けのお土産を郵送で買ったのだ。弟妹はその土地限定のスナック菓子を面白がって歓声を上げたし、地酒や地ビールの箱にメイコは頬を緩めた。
けれど冷凍便で送られてきたひと箱の中身を見、兄弟たちの表情がそれぞれに変わる。
「ないわね」
「ないな」
と眉をひそめた二人があり、
「コックが悪食じゃ、だめじゃん!」
と笑った妹がいて、
「お兄ちゃん、これ全部食べるの?」
と気遣わしげな視線があり、最後に末の妹が眉尻を跳ね上げた。
「邪道ですわ!」
海産物とアイスの取り合わせは確かに王道ではないだろう。けれど怒らなくてもいいんじゃないか、とカイトは肩を竦める。
「どうせ食べるの俺だけなんだし」
冷凍庫にアイスを詰め込みながら、呟いた。
 
   ・・・
 
カイトが風呂から上がっても、リビングの電気がついていた。覗くと、メイコがローテーブルにカレンダーを広げている。その横で汗をかいたグラスが空っぽになっていた。
ドアを開けると振り返って、紅茶色の眸を少し細める。
「洗濯機まわしてくれた?」
うん、とカイトは肯いた。
そういった細かいことに目端を利かせているのはいつもメイコだ。今もカレンダーに書き込まれた兄弟たちの仕事の予定を見ながら、無理が出ないか考えていたんだろう。
ちょっと過保護だ、とカイトも思う。それでも、一人きりの時間を知っているメイコにしたら、弟妹は何よりも可愛いだろうし、何も言わないことにしている。
カイトが冷凍庫を開けにキッチンへ向かうと、視線はまたカレンダーへ向かっていった。
「何か飲むならこれ使って」
振り返ると視線はカレンダーに落ちたまま。空のグラスが持ち上げられている。もう私は使わないから。
振り返らないことと加えて、それで通じるだろうというくだけた信頼がそこに伺える。カイトは嬉しくなって、くしゃりと笑った。
歩いて寄って行って、グラスを取り、その手に代わりのものを押し込んだ。
メイコは驚いたようだった。軽く見開いた眼で振り返る。手の中にはカップアイス。
カウンター越しにグラスを下げて、カイトはソファの前面に回った。メイコの隣に、腰を下ろす。
「何これ」
「お土産。ビールアイス」
に、と笑ったカイトの手の中にはノリアイスがある。海苔である。
自分の分、なのを認めてまだ、メイコは不思議そうな顔をしていた。
「ビールアイスはわかるけど……」
カップの蓋にそう書いてあるから。言わない言葉がわかって、カイトはくすくす、青い目を細める。スプーンを差し出した。
受け取る怪訝そうな顔をしたメイコが、実際怪訝に思ったのは何なのか本当はわかっている。アイスは全部、カイトが食べるはずなのだ。
「それはね、めーちゃんに買ったんだ。めーちゃんが喜びそうだな、って思って買ったから、めーちゃんへのお土産」
カップアイスの蓋をあけるカイトを、メイコがじっと見ていた。驚いたような、呆れたような。
やがてその眼差しをすうと細め、ありがとう、と蓋を開けた。
「どういたしまして」
ノリアイスの一口目を頬張っていたけれど、顔の緩んだのは勿論それが理由じゃない。
「ねえ」
ん、と目を向けると、メイコが疑わしそうに見ていた。
「おいしいの? それ」
呼ばれながら口に入れた分を味わって、少し、考える。
「まあ、アイスだからね」
返答に、メイコは眉根を寄せ口を結び、まさに胡乱なものを見る顔だ。ひどいなあ、とは言わず苦笑した。
「めーちゃんだってそのくらいお酒、好きでしょ?」
僅かばかり、沈黙。こちらをじっと見詰め、言葉を選ぶときの表情が好きだ。
思って、カイトは小さく笑った。
「そりゃ、まあ」
ちょっと拗ねたような表情は、世話焼きの長姉とは違う顔。可愛い。
言ってしまえばもっと拗ねてしまうだろうから、言わない。
「コレはおいしいわ。ありがと」
これ、と軽く返した手の仕草でビールアイスを示して見せた。カイトはますます嬉しくなった。
静かな夜だった。窓を開けて風を入れているだけのリビングはしっとりと暑い。手の中の冷たいものがいっそう、おいしい。
「自分で味見る分は買わなかったわけ?」
問われたから、首肯した。
「全部一つずつ、って言って買ったから」
もちろん、余分に買ってもよかったのだけれど、ビールアイスに限っては自分で食べるよりも、いくつだって勧めてしまいそうな気がしていた。
そのために買ってきたのだ。メイコに喜んでもらいたくて。
そこまで、カイトの心の内を読んだかどうか。わからないが、ふーん、とメイコは肯いた。
そして手の中のビールアイスに視線を落とし、もう一度、視線を上げてカイトを見た。
「味見する?」
じ、と紅茶色の眸が見詰めてくる。他意のない眸だ。単純な親切。
「だって、アイスでしょ?」
カイトの一番好きなもの。
けれどメイコは失念している。アイスは、あくまで食べ物で、一番だ。
カイトはじ、と見詰め返した。静かな夜で、弟も賑やかな妹たちも寝付いている。
しっかり者のお姉ちゃんは、時々ひどく無防備だ。無防備で、いたずらしたくなる。
「うん。味見したい」
肯いて、スプーンを食べかけのアイスに刺してそれは左手。右手をメイコの項に回して、襟足から後ろ頭をそっと支えた。
「え」
驚いたメイコに理解の隙は、あげない。
濡れた唇をぺろりと舐める。ひんやりとやわい。
「甘い」
言って離れたカイトを、やがて理解した紅茶色の眸が思いっきり睨んできた。次にくるだろう言葉はわかっている。
「ここでこういうこと、やめてって言ってるでしょ……!」
リビングはオープンスペースで、だから家族がいるときは例えみんな寝ていても、と常々言われている。
刺さる眼差しに、カイトは首を竦めた。だって。
「味見する?とか可愛すぎるんだもん」
大きく瞠られる。白い頬が染まって、睨む紅茶色の眸がじわりと潤んだ。
「……バカじゃない?」
呟いてそっぽを向いた。本当に。
そういうところが可愛くて仕方ないのに。
そっぽを向いて、素知らぬ風で、メイコはまたもくもくとアイスを食べ始めた。食べてしまって、もうカイトを置いて、寝てしまおうということなのかもしれない。
とろりとしてきたノリアイスを口に運び、カイトはその横顔を見た。胡桃色の髪から覗く丸い耳朶が、赤い。
「また行ったら、買ってくるからね。そしたらまた味見させてよ」
耳まで真っ赤にした横顔に言うと、きつい眼差しが振り返る。頬をつねって引っ張られた。
「調子に乗って!」
いひゃいいひゃいと言いながら、だけど。
にこにこ。もしかしたらメイコには、にやにやと映ったかもしれない笑みが切れない。
だってメイコは、いやとは言わなかった。
 


-了-

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