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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/05/02 (Wed) Comment(0)
双子の姉に『金色の杯を』。






憤懣を抑えられずにベッドへと倒れ込んだ。暖炉の火を整えていた女中が勢い込んで帰った主に驚き瞠る。リンは顧みず、枕を抱いて奥歯を噛みしめた。窓辺に零れる飴色の陽脚は弱々しい。
どうして。言葉はそれしか出てこなかった。思い起こされるのはメイコの伯爵を見上げた眼差しだ。
仕様がないんだから、とメイコはそう言った。それは咎める言葉だ。それなのに。
口には苦い言葉を乗せながら、弟と嘯く男性を見上げた眼差しは、穏やかに甘かった。眸はひどく愛おしそうに細められ、リンを撫でながら向ける眼差しともまた違う。
「何で……どうして……?」
榛色の眸は、確かにリンを見てくれたのに。見てくれたと思ったのに。歯噛みをして、冬空色の眸には涙が浮いた。
主の常ならぬ様子に火守りの女中は惑い、声をどうかけるべきか、かけざるべきなのかさえ迷っていた。彼女がこの部屋の暖炉と共に見てきたリンは、双子の弟の他にはとらわれるものもなく、拘るものもなく、だからこんな風に抑えられない感情の発露に戸惑う様子を見せたことがなかったのだ。
リンは枕のやわさに顔を埋める。温もりは自分の体温から移った僅かばかりのそれで、冷えた気持ちまで温めてくれはしない。孤独に潰される様に身を丸めたリンの耳に、樫板のドアを敲く音が聞こえた。
白いカバーに涙を吸わせ、起こした半身で振り返る。
「レ……」
半身を思っていた。母の視線が素通りしても父の目に顧みられなくとも、姉に疎んじられても、誰もいてくれなくても彼はいつも傍にいてくれた。今この時にリンを訪ねてくれるのは、きっとレンだと思ったのだ。
だがドアを開けて現れたのは、リンを映し染め変えた様な少年の姿ではなかった。
「ミク?」
なぜここにという問いを含んだ声に、少し年上の少女は白い微笑を浮かべた。リンが身を投げたベッドの傍へと、静かに歩み寄ってくる。
「泣かないで、リン」
そっとベッドに腰掛け、リンの頭をさらりと撫でた。その手の優しさはまるでメイコのよう。先程拭ったはずの涙がまたじわりと浮いてくる。
「ねえ、リン」
ミクはリンの向日葵色の髪をふわりふわりと撫でながら、厚い雲の合間に薄雲を透かす陽光の温かさで微笑みかけた。
「メイコは貴女を嫌っているわけじゃないわ」
浅い空色の眸は瞠られる。心の中を言い当てられたこと、そして望んでいた言葉そのものであったことに。
「本当に、そう思う?」
拗ねた声で問いながらリンは、ミクが望む更に答えを返してくれるのを信じていた。果たして。
「ええ、勿論」
歌う声音が答える。
「私は知っているわ、リン。メイコは確かに貴女を愛しんでいた」
やわらかな掌はリンの髪を撫で、やわらかな声はリンの心を撫でつけた。
「今は漫ろに気を奪われているだけ」
何へ、とはミクは言わない。花緑青の眸が細められる。
けれどリンはその眸にメイコの横顔を思い出していた。こちらを見ずに、誰を見ていた。そう言われているようで、思い出さずにはいられなかった。
飴色の陽脚は室内を暖かな色合いに染め上げ、けれど鬱金の翳りをはらんでいる。薄曇りの向こうに冬の日は暮れ始めていた。
「これをあげるわ」
これと示されたのは差し出すミクの、その掌に収まるような小さな杯だ。金色が翳る陽に鈍く輝いている。
「これ、は?」
見上げるリンの眸に、ミクの微笑みは白い。金色の杯を飾るエメラルドと同じ色の虹彩がくるりと煌いた。
「これは器。注ぐべきものはレンに渡しておいたわ」
半身の名にはっとする。リンは兎の仔が跳ねるように身を起こした。微笑むミクと、差し出された杯とを数度往復して見比べる。
「リンと、レンとは二人で一人だもの」
とん、と。
その言葉は背を押した。リンは両手でそっと、小さな杯を受け取った。
杯は掌の中で妖しく金に輝いていた。


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