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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/04/30 (Mon) Comment(0)
すべてが手に入る、と思うこともあるものです。
でもそんなはず、ないでしょう?






暖炉に火が爆ぜる。義足の螺子の具合を見ていた技師が徐ら顔を上げた。
翠の双眸が視線を留めた時、カイトは火の傍に揺り椅子を置き身を沈め、頬杖をついて彼の作業を見守っていた。窓の外には風が声高く鳴くような音を立てて吹いている。
向けられた視線は探るように、伺うように、カイトを確かめ、何かを得たように三日月に撓んだ。手を止め、口許に弧を作る。それはまるでミクのような仕草で、訝しく思えた。
翠の眸が返り見る。
「お嬢様はまた、お出かけなのでしょう?」
唐突な問いだ。カイトが怪訝を隠さない眼差しを向けると、青年技師は弧を描く口許のまま、いえ、と断った。
「その落ち着いた様子。望みは得られたのだろうかと」
目聡いことだ、とカイトは感心した。そしてそれを隠さなかった。
「だけど、まだだよ」
背凭れにゆっくりと背を預け、膝の上に手を組み直す。宝物を手に入れた。否、とり返したと言うべきだろう。今度は二度と手放さない。奪われないようにしなければならない。
そのためにカイトは真実の公表を考えていた。二人の間には姉弟としての繋がりはなく、メイコこそ正統の伯爵の血筋であることを知らしめる。その上で二人が結ばれれば、誰も何も差し挟む口を持たないのだ。
「成程」
青年は得たような口ぶりで、けれど三日月に撓んだ目許も端を吊った口許もそのままに反語で接いできた。
「しかして巧く行きましょうか」
カイトは微かに眉をひそめた。応えない。それはつまり肯定だった。
見付からないのだ。カイトとメイコの間柄を、決定的に示す文言が見付からない。カイトの母のすべての筆致をたどっても、メイコの父が残した書面を浚っても、二人の秘密に触れるものが何もない。遠縁たちの僅かばかり残る信書の中にも、カイトの助けになるものはなかった。
メイコは母に秘密を聞いたのだと言っていた。言葉だけだ。
カイトも同じだった。人を食ったような物言いのミクの言葉。嘘ではないというカイトの直感だけが支えている。それだけだ。
ではミクは誰から聞いた。父親しかないだろう。カイトは目を細める。
青年技師は螺子回しを置いて、締めた螺子の緩みないのを確かめていた。けれどその感覚は幾許かカイトに向けられていて、様子を伺い見ている。
カイトは鼻白んで視線を向けた。既視感があった。ミクだ。カイトの苛立ちを哂うミクのようだ。
青年はカイトの意識を引いているのに気付き、けれど敢えて作業を続けている。翠の双眸は彼の手元に落ち、それを確かめたカイトは窓外へと投げるように視線を遣った。窓の外は雪色の景色だった。
父として思い浮かべるのは今以て寡黙で冷厳な伯爵だ。実の父と言われても、カイトにとって彼は皇帝だった。正式の謁見は一度だけ。カイトが伯爵を受けた折だ。向けられた何がしかがあっただろうかと思っても、覚えはない。ただ粛々と、祭事として済まされた。
皇帝はミクに伝えたのだろうか。伯爵家の青年は兄なのだと。
あるいは。
ミクは持っているのだろうか。カイトの身を明かす何がしかの証明を。
窓外にも降る雪はなく、白い景色はただ横たわるように広がっていた。カイトは青年を振り返った。その横顔を暖炉の火が揺らめきながら照らしている。
「できたかい?」
呼びかけに、青年は立ち上がることで応えた。義足を持って歩み寄ってくる。この義足は彼が考えたらしい独特のものだ。着脱が容易なだけでなく弾性に優れ、残存肢に負担が少ない。曲がり形とは言えカイトが踊れるのも、この義足のお陰だった。
恭しく差し出されたそれを手に取って履く。立ち上がって具合を確かめるのを、傅いた青年が見上げていた。
「如何ですか?」
左右に片方ずつ強く踏み込んでみて、頷いた。
「うん、良いよ」
青涯の眸が見下ろす青年の髪と眸の色合いに、妹のエメラルドグリーンが思い返される。彼女は今、侯爵家だろうか。
メイコが午前のうちから出掛けているのだ。カイトは不服を示して見せたが、宥められ、諭された。指に頬を、声に心を撫でられると、和いでしまう。渋々だが、ポーチまで馬車に乗るのに手を貸して見送った。頬にキスを贈ると苦笑して、けれど嬉しそうだった。
ローテーブルに掛けられたステッキを取り上げた。呼び鈴を鳴らすと、控えていた侍従が入室を請うてくる。許しながら青年に視線を向けた。
「途中までなら送るけれど」
答えは大凡わかっていたが、念のためにも尋ねておいた。果たして予想の通り、青年はかぶりを振る。
「お構いなく。この脚でお暇いたします」
嫌味だな、とは感じた。だが気にする素振りを見せようものなら狭量を示すだけだ。
「じゃあいつも通り勝手を開けさせるよ」
いつだかの折に正面口は門が遠いからと請われ、出入りを許したのだ。自由にすればいい、と口約束した。
ありがとうございますと白衣を脱ぎ、帰り支度を始める青年を横目にしながら、カイトは侍従にメイコを迎えに行く旨を伝えた。夜には帰ると言われていたが、待つ必要はないだろう。ミクに顔を合わせることになるなら、ついでに探りの一つも入れられる。
カイトの口の端が吊り上がるのを、まるで花緑青のような眸が見ていた。
 

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