カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
夏が終わり秋の深まるある深更、カイトが泣きながらメイコの元にやって来た。出立の前夜だったのだ。
だが人の身に夜の闇は危険だ。来るのは構わないが時刻は選べと言い含めていたメイコは呆れ、咎めた。
「でも嫌、だ。僕はメイコと、離れ、たくない」
我儘だ、とそれも断じた。メイコがカイトと同じ歳の頃には、勉学は特権だったのだ。
ぐすぐすと鼻をすすっていたカイトが、ふと思いあまったように抱きついてきた。驚き瞠るメイコの肩に、少年の腕が廻る。足を滑らせたカイトを掬い上げた出会いから三年、小さな少年なりに腕も肩も成長していた。
「僕、はたくさん勉強をしてくる。それで、帰ってくる。そうしたらずっと、メイコ、といるよ」
思わず苦笑した。少しばかり体が大きくなってもやはり子供だ、とメイコはそう思った。肩口に額を押し付けてくる後ろ頭を抱いて、さらりと撫でる。女性とは言え年嵩の体躯を抱き切れない少年の手は、それでも決して離さぬというように服地を掴んで握っていた。
翌日、朝靄の立つ時刻にカイトは旅立った。渓流を渡る橋の下に見送りに行ったメイコに気付いて、振り返る。そっと振られた手に、メイコは尾ひれを振って応えた。それが、別れ。
カイトは帰ってこなかった。
人の子だ。多くの人と友誼を交わし、人に溶け込み、人ならぬものを忘れるならその方が良いと、諦めとともに納得していた。けれど。
カイトは最期までメイコを思っていたのだと言う。メイコを思い遣って自らの誓いに代理を立てたのだ。
身を捩って、正面に秀麗な面差しを見詰めた。青い髪、青い眸、カイトの姿を映した目の前の人形に、胸を突く思いが湧き上がる。
手を伸べ、そっと頬に触れた。指先に少年の温度はなかったが、それでもそこにカイトの片鱗を見るほどに彼は、丹心を込めて作られていた。
なぜ、人の子を人たちの中に帰さなかったのか、悔やまれた。メイコのためだけに作られた人形の胸に、そうっと身を寄せる。人形は身動がない。
メイコは胸苦しく目を伏せた。
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