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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/04/15 (Sun) Comment(0)
人形に対して、私はなんだか空想上の動物たちと同じような畏怖というか、違和感というか…なんだろ?身近でないような感覚を感じてます。
端的に言うとちょっと怖いです。
なので逆に、お話のモチーフとしては大好きです。







工房は茜色に染められていた。老いた人形師はその片隅で、人形に語りかける。年老いて涸れた声はしかし熱を持って、過ぎ去った日々を語った。
夏の光を煌き返す川面、眩むような萌える緑の中に密やかに響く二人の歌。薄紫の花の名前や、その名を告げた美しい人の面差しを。
鑿鎚を持ってさえ艶めくことのない蒼白の面が朱を刷く。
「あの人の元へ行くんだ」
やせ衰えた手が往年を取り戻したかのように人形の腕を掴む。
「今度こそ離れない。孤独を知るあの人の傍に、ずっと」
永遠に。
秋の入り日が緋色に染める工房の片隅で、人形は未だその眸を閉ざしていた。
 
 
 
ふ、と。カイトは目を開けた。
明るく木漏れ日が射している。数度瞬き自嘲に口許を歪めた。人形が転寝をして夢現もあるまい。
背を預けていたイチイの木の根元を立って、カイトは灌木の茂みを分けた。幼い日の主のように、子供たちが水遊びに興じている。
水面に近い小舟の上や岸辺からは照り返しで見えないが、ほとんど垂直に川を見下ろせるこの場所からは舟の下の影が伺えた。彼女だ。
彼女は自身のことは多くを語らなかったらしい。ただ川の淵の異形としてローレライと呼ばれるほかに、メイコという名を明かした程度だったと言う。
主がこの地を離れて後にその名で辿って知れたのは、川が交通の重要な手段だった時代に、信心で沈められた娘があったということだけだった。娘の生い立ち仔細はわからない。哀しい物語としても、往時にはよくある話の一つだっただろう。文献に名を残しているだけ、報われているのかもしれない。けれど。
陽が中天に差し掛かり、小舟は岸へ向かっていく。子供らは昼餉に帰るのだろうか。小舟を岸へ少し押して、影が深く潜っていく。
擦り切れた古書の中にさえ、口承の伝説と記された水妖。守護を感謝されるどころか、妖と貶められて尚、変わらず在り続けるのはどんな意志に支えられてのものなのだろう。
 

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