カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
ついったに鈍く反応してみました二回目。
日の暮れかかった部屋。四角く切り取られた窓の向こうの空は紫色。
廊下の明かりでオレンジの長方形の中に足元から黒い影が伸びる。薄暗い部屋の中、カーテンの陰に隠れるように彼はいた。
「カイト」
そっと呼ぶと、答えない。肩が少し震えただけだ。
道でであった猫に近付くときみたいに慎重に、ゆっくりと歩み寄る。実際、今の彼は臆病な猫のようなもので、少しでも大きな声や荒々しい音を立てたら、身を翻して逃げてしまうに違いない。
すぐそこの、彼のベッドに。
両袖で覆い隠す顔を覗き込む。のけさせようとすると、バッテンにした腕の向こうでぶんぶんと頭が振られた。青い髪がさらさら揺れる。
「大丈夫」
囁いて腕を下げさせると、現れたのはやはり泣き顔だった。涙でくしゃくしゃにした顔の中で、こんこんと清水を湛える源泉のような青い眸が上目遣いに見詰めてくる。
指の背で拭ってやっても、涙はあとからあとからこぼれてきて、だけど、それは。
「ねえカイト、言いたいヒトには言わせておけばいいわ」
青い眼差しを捉えて微笑みかける。するとカイトはぽろぽろと涙をこぼしながら、そうじゃない、と答えた。
「彼らに、そう評価されたのが悔しいんじゃないんだよ」
泣き濡れた眸はけれど静謐。光彩には光が射している。
「彼らがそう評価する限り、僕はめーちゃんと歌えない。めーちゃんに届かない。それが……悔しいんだ」
“彼ら”が嗤った声音が力強く鼓膜を震わせる。青い眸がまた涙をこぼした。
「僕は、めーちゃんと歌いたい」
手を伸ばす。青い髪の後ろ頭を抱き寄せて、そっと額をあわせた。確信を持って告げる。大丈夫。
彼のこぼす涙のように澄んだしなやかなこの魂がある限り。
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カイト不遇時代。
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