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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2011/09/07 (Wed) Comment(0)
初出:Pixiv

そろそろ友人に感想を求めると必ず「お前は本当にメイコが好きだな!」と言われるようになってきました。
大好きです!





リンにとって、メイコは姉だった。改めて言葉にして確認すると、くすぐったくなるくらいに当り前のように、彼女は『お姉ちゃん』だった。
美人でさばさばしているから格好良くて、お酒を飲む姿も様になって、優しくてあったかくて。リンがレンと喧嘩をした時にも謝り方を教えてくれたし、歌の仕事で悩んだ時にはいつもアドバイスをくれる。
物知りで、料理が上手で、とそんな風に挙げればきりがなく、完全無欠のお姉ちゃんだったのだ。だから、かもしれない。
すぐ上の姉のミクとは、どことなく近しくて、友達のような話もできた。ちょっと大人向けの動画をこっそり見に行ったり、互いの部屋で夜の更けるまで『恋ってどんなだろう』を語り合ってみたり。
けれどメイコとはどんなときだって、『姉と妹』でしかなかった。メイコはリンのどんな些細な悩みごとも聞いてくれたけれど、リンはメイコから悩みを聞いたことなんてなかったのだ。
なんとなく想像できなかった、というのもある。完全無欠のお姉ちゃんが、リンのアドバイスなんて必要とするとは思えなかったし、励ましたり、からかったり、ばかばかしい話で盛り上がったりなんて、できると思えなかったのだ。ましてや恋の話なんて、してみたいと思っただけで、できるなんて思ったことはなかった。
それが早とちりで、メイコも完全無欠だったわけじゃないことをリンは今日、知った。
その完全無欠じゃなかった『お姉ちゃん』が、リンの前で枕を抱えている。抱えた枕に半分顔を埋めるようにして、不本意そうな表情に頬を赤らめたメイコは、話題のもうひとりじゃなくとも、リンだって、可愛いと思ってしまう。
「じゃあじゃあ、告白はどっちから? お兄ちゃん、ちゃんと好きって言ってくれたの?」
メイコの隣で枕を抱えたミクの声も弾む。今晩は、妹三人で長女の部屋に押し掛けてのお泊まり会だ。ミクの部屋から布団を一組と、それぞれの枕を持ってきて、その布団の上に四人で車座になっている。四人一緒でなんて初めてで、リンはそれだけでわくわくしてしまう。
リンの真正面にはメイコ、その隣にミクとルカ。メイコと一緒に寝る権利を手にしたリンは、公平性を保つためだよ、と言われて隣は取り上げられてしまったのだ。
ちなみに布団運びを手伝ってもらったレンには、ついでに隣室へのリサーチを任せた。言質とか情報とかは多い方が良いのだ。
「あいつからとゆーか、私からとゆーか…って言うかそんなこと聞いてどうするのよ、あんたたち…」
枕に口元を埋めながら話すから、くぐもって少し聞き取りづらい。だけどパジャマに部屋着の上を羽織って枕を抱えて顔を赤くしてもぐもぐしゃべるお姉ちゃん、はとても可愛いのでまったくもって気にならない。
前半部分に関してはこれまでも目にしているし、ミクもルカも、リンだって同じような格好をしているのだからやっぱり後半部分だろうと思う。リンが目にしたことのなかった、完全無欠じゃないお姉ちゃん、だ。ふ、と気付いたようにメイコがリンを見る。
「何よ、リン。笑いたそうな顔して」
にまにましていたのがバレてしまった。真正面にいて、バレない方がおかしいのだけれど。
「べっつに—。真っ赤になってるめー姉可愛いなあ、って!」
にひ、とことさら笑顔を作ると、紅茶色の眸に睨まれた。それでも、ちょっと涙目で上目遣いに睨まれたってやっぱり、可愛いなあ、としか思えない。
紆余曲折あった今日、メイコに恋人がいると告げられた。リンたちにとっては『兄』のカイトだ。
言葉尻だけならば『姉』と『兄』が恋人同士、ということになるけれど、ボーカロイドに血のつながりはない。兄弟を名乗るのも、家族と呼ぶのも、一緒にいるのにそれが一番心地良いからだ。その心地良い関係を作るために、メイコとカイトは彼女たち自身の『恋人』という関係を隠していたのだ。
気遣ってくれたことはとてもうれしいし、出会った時から二人の本来の関係を前面に押し出されていたら、リンもやっぱり妹の立ち位置は作りにくかっただろうと想像はできる。
それでもやっぱり思ってしまうのだ。隠さなくても良かったのに、と。
「あーもう! いいわよバカにして!」
メイコはついに顔全部を枕に埋めてしまった。
「自分でもバカやったと思うもの…」
心底、落ち込んでいる様子だ。
そりゃそうだよな、とリンは思う。今日までまるで完全無欠のお姉ちゃんだったメイコは、妹弟に内緒にしていた言い訳をするのに、お酒を飲んで酔っ払わなければできなかったのだ。恥ずかしさのあまりお酒の力を借りるなんて、まるでダメな人じゃないか、と思ったのはきっとリンだけではない。
それでも。
「バカなんかないよ! お姉ちゃん、可愛い!」
ひときわ身体を丸めたメイコに、右隣からミクが抱きついた。その反対側ではルカが、ぴったり体をくっつけるみたいに寄り添って、こくこく頷いている。リンも抱えている枕ごと、ぎゅうっと抱き付きにいった。
「そうだよ! めー姉は、可愛い!」
ミクとリン、こっそりルカも、妹みんなでくっつくと、メイコは思いっきり身体を捩って、包囲網をはねのける。きゃー、と振りだけ悲鳴を上げて、リンはミクと一緒に布団に転がた。ルカもメイコの隣でくすくすと笑っている。
「もうっ! あんたたちねえ!」
お酒を飲んだ時みたいに顔が赤い。でも今はもう酔ってはいないらしい。
それにもリンはびっくりしたのだ。
今までもメイコのお酒に同席したことはたくさんあった。食前酒や食後に、あるいは夜に目が覚めてたまたま見かけた時。けれどそんな時にもメイコは、お酒に呑まれている様子は少しもなかった。眠れないリンにミルクを温めてくれる手付きに、危ないところなんて少しもなかったのだ。
祝いの席や打ち上げなんかでお酒を飲んで、ちょっと陽気になっていることがあると、酔っているんだ、と思ったものだ。珍しいな、と。
けれど今日はそんなじゃなかった。箍が外れていたと言うか、螺子が飛んでいたと言うか。ともかく変だった、と言えば簡単だ。
そんなカイトが大好きなの!と涙目で訴えるメイコの姿なんて、想像もしていなかった。リンには真夏に雪が降るよりも予想外の出来事だった。真夏の雪なら、何かの演出で使いそうだ、くらいには思ったことがある。
むっくりとリンは起き上がり、布団に座り直した。改めてメイコを、じっと見詰める。何、と問うようにメイコが首を傾げてきた。
「んー…でもね」
これ、を言ったらメイコはどんな顔をするだろう、と考える。やっぱり照れてしまうんだろうか。
「めー姉のすっごく可愛いところもそうだけど、カイト兄のちょっとカッコよかったところが意外だったなあ」
今日の夕飯はご馳走する、と息巻いたリンやミクたち弟妹に、酔ったメイコは何かと手伝いたがっていた。それを押し留めたのがカイトだった。覚束ないからダメ、と静かに言ってメイコをソファに座らせ、水を渡していた。
へにゃりと崩した姉大好きな顔でなく、弟妹にやられっぱなしな情けない兄の顔でなく。
時折見せる、兄らしい一面でもなかった気がする。
メイコの紅茶色の眸がじっとリンを見詰めてきた。小さく驚いているようだった。リンの隣でミクが起き上がり、メイコを見る。ルカもメイコの答えを待っている。
意外、か。小さくメイコが呟いた。照れないで微笑んだから、惚気なのだろうかとリンは思った。
「意外に思わせるところが…すごいところなのかもしれないわ」
言葉だけ取れば、惚気ているとしか言いようがない。それなのにメイコの微笑みはどこか寂しそうにリンには見えた。
「カイトは自分のためには格好付けないものね」
苦笑したメイコに、ルカが溜息をついた。惚気ですか、と。
ミクが少し驚いたようにルカを見詰めた。淡く光る翠緑の眸は、何か言葉を捜しているようにも見える。同じことを思ったかな、とリンは考えた。
そうかしら、とメイコが肩を竦めた。そうですよ、とルカが頬を膨らませている。メイコがいいこいいこするみたいに、ルカの頭を撫でた。ルカは少し不服そうで、もう少し、満更でもなさそうだった。
「ルカも。そのうちわかるわ」
笑ったメイコに、それこそ惚気じゃありませんか、とルカが恨めしそうな視線を向ける。
一瞬、呆気にとられたようにメイコはルカを見た。次には顔を真っ赤にする。言ったつもりの言葉の意味と、伝わったものの違いに気付いたらしい。
「や、ちが、その、カイトの格好良さとかそういうんじゃなくて」
ルカは尚もふくれっ面だ。
「不思議だったのですけれど。姉さまはカイトさんのどこが良くてお付き合いしてらっしゃるんですか?」
やはり声ですか、と尋ねられてメイコの顔は茹でダコみたいに赤くなっていた。
はい、とミクが手を上げる。手を上げながら、ずいと身を乗り出した。
「私もそれ! 聞きたいです!」
先刻のメイコの表情は気になったが、リンとしてもいわゆる、『激しく同意』というやつだ。
「はいはいはい! 私も知りたい!」
主張した。前に出る、ことの大切さをリンに教えてくれたのは、他ならぬメイコだ。
エメラルドとスカイブルーの眸はきらきらと期待を寄せて、ターコイズは少し胡乱げに。見詰められて紅茶色の眸はおろおろとさ迷った。
「顔? カイト兄って実は格好良いし、 一目惚れ、とか?!」
リンの期待に満ちた声を、でも、とミクが同じく弾む声で思わず遮った。
「でもお兄ちゃんならやっぱり性格? 優しいとか、さり気ない気遣いが格好いい!とか?!」
ミクの発想になるほどと頷く。普段のカイトからするとちょっと信じ難い。けれど今日見せた横顔からならば、期待できると思ったのだ。
好き勝手な妹たちに、あんたたちねえ、と姉が呟いた。
「顔、って…ボーカロイドなんだから人好きするように、それなりに作られて、あの顔なわけでしょ? それにカイトは別に、性格悪くないでしょ?」
メイコがフォローに回ろうとするので、リンはミクと一緒に頬を膨らませた。そんなことは聞いていない、と抗議する。
「一般論じゃなくて!」
「お姉ちゃんの考えるお兄ちゃんの格好良いところを!」
顔を見合わせ視線を交わし、呼吸を合わせる。
「「30字以内でお答えください!!」」
二人に言い迫られ、メイコは顔を赤らめたまま口籠る。
「あ、や、それはその、色々…」
「「いろいろ?」」
不満を浮かべた視線を向けると、メイコはぐっと言葉に詰まった。ルカも合わせて、三対の視線が追い詰める。妹の視線にここまで押し負けるメイコというのも、今日までは想像できなかった姿かもしれない。
「だから、その…いろいろ…あ、色!」
突に思いついたように紅茶色が輝いた。上の妹が二人、ええっ、と声を上げる。一番下の妹も怪訝そうにじ、と隣の姉を見た。
「…いろいろ、で、色?」
リンが責めるように尋ねると、メイコは慌てたようにふるふるとかぶりを振る。
「ち、違うわよ! 青色!」
なんだか必死の赤い顔。ミクが下仁田ネギの香りを語る時や、リンがロードローラーの機能美を訴える時、ルカがクロマグロの流線型の美しさを愛でる真剣さにも似てる。
だけど少しだけ違って、照れくさそうで、恥ずかしそうで、少し嬉しそう。
「カイトの青色、綺麗じゃない…」
伏せ目がちに小さく唇を尖らす表情には、リンとミクは右手と左手で思わずハイタッチ。
「「REC!」」
録画機器が即座に手元にないのが口惜しい。仕方ないからメモリーに焼き付ける。
「何を?! 何が?! 無意味にメモリー浪費しないの!」
怒られてしまった。
だけれどメイコのパニック振りがわかる怒り方だ。リンはミクと手を取り合い、悲鳴を上げながらくすくす笑う。複雑そうに眉をひそめているルカだって、今のはがっちり記憶してた、とリンは思った。
 
   ・・・
 

 
照れと恥ずかしさが極限に達したメイコによって、追い散らすように就寝を促された。ミクとルカが枕を並べ、リンはメイコの布団にもぐり込む。
電気を消しても興奮は冷めやらず、しばらくはひそひそと質問攻めが続いていた。リンだってもちろん、ミクも、ルカも、尋ねたいことにはきりがない。それでもいつしか夜という時刻に負けて、ひそひそ声は次第に小さな寝息に変わっていった。
自分とは違う温もりを隣に感じながら、久しぶりだな、とリンは思った。
この家に来てリンはレンと別々に部屋をもらった。それぞれに部屋を案内された時は、目が丸くなるくらい驚いた。ラボではいつでも一緒、何でも一緒だったのだ。
いつも一緒の半身と離れる不安は想像以上で、こんな思いをするくらいなら自分だけの部屋なんて要らないと思ったほどだった。
眠れなくて、度々レンの部屋に忍び込み、レンはレンで頻々とリンの部屋を訪ねてくれた。もちろんそんな行き来がばれないはずもなく、枕を抱えてレンの部屋に向かおうとしたある夜、ついに現場を押さえられた。
なるべくひっそりドアを開けたら、廊下にメイコが待っていた。レンのところに行くくらいなら私のところにいらっしゃい、と言われた。怒られるんだろうと思って、どうして、と聞いた。
メイコは声を荒げるでなく、ひそめるでなく、ただ答えた。
「違う音を出せなくなるから」
何ともなく言われたその言葉にどきりとして、リンは立ち竦んだ。メイコは手招いて階段を下りていった。慌てて後を追って、結局リンはその言葉の真意を聞いてはいない。
けれどそうやって距離が出来て、リンはいつも手を繋いでいた半身の、自分とは違う声に気付き、違う声の重なり合う響きを知った。そしてそれに気付いた頃、リンはすっかりメイコの布団にもぐり込むことをしなくなっていたのだ。
姉に甘える妹、よりは、母親に甘える子供、みたいだったんだなと自分自身で思う。考えてみれば、あの頃にはすでに『甘えたい恋人』がメイコにもいたのに。リンは暗がりに目を細めて、枕を並べたメイコをじっと見た。
メイコが言ったように、ボーカロイドは人好きがする造作に作られている。だけど不思議なもので、メイコは大人っぽい印象が強いけれど、紅茶色の大きな眸に丸顔で、割合に童顔だ。
14歳のはずの妹の子供っぽさを宥めてくれたり、子供っぽい妹が素直に甘えられるように大人っぽく振舞ってくれているのかな、と思う。そんな事を思いながら見詰めていたら、紅茶色の眸が薄く開いて、ふっと笑った。
「なぁに? 眠れない?」
ああそうだ、と思い出す。真っ暗な廊下を、怖々とレンの部屋に向かおうとした時、メイコはそうやって笑っていた。
けれどリンはあの頃とは違う。お姉ちゃんの恋を応援することだってできるのだ。
「今日は驚く事がいっぱいあったもんね」
に、と笑い返すと、メイコの笑顔が少しきまり悪そうになった。そうしてきっと、ちょっと照れてる。
「めー姉は、さ」
尋ねると、ん、と小さな答えが返ってきた。
「カイト兄のこと、ずっと好きだったんだ」
照れてしまうかな、と思った。それともはぐらかされるか。
けれどメイコはそのどちらでもなく、静かに、小さく笑った。
「そうね」
リンの中にその答えがすとんと落ちていった。本当に、言葉にすることが恥ずかしかっただけなのだ。
リンたち妹や弟に教えてくれなかったのは、つき合っている、という単語が恥ずかしかっただけで、隠していたかったわけではなかったのだ。えへへ、と笑ってリンはメイコに抱き付いた。
腕を廻してぎゅうっと抱きしめると、不安な夜にリンを抱きしめてくれた時のように温かくて柔らかい。
「ね、めー姉」
ミクやルカはもう寝ているかな、と少し考えながら囁いた。
「カイト兄とキス、した?」
暗闇でだってわかるほど、顔真っ赤。
恥ずかしがりやで、酔っ払っちゃうと格好良いとは言えなくて。嘘が付けない癖に大事なことを隠してしまう。
真っ赤な顔が、内緒よ、と言いながら頷くのを見ながら、こっそり思った。
完全無欠でなくったって、メイコは姉だ。
リンの『大好きなお姉ちゃん』だ。
「私もいつか、めー姉みたく好きなひとできるかな」
囁き尋ねると、密やかな耳打ちが返ってきた。
必ずできるわ、と。
その答えに嬉しくなって、リンは笑った。
 
 
-了-

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