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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2011/09/07 (Wed) Comment(0)
初出:Pixiv





リビングを覗くと、ヒトを青い呼ばわりした緑と黄色が仲良くおやつを食べていた。コーヒーがふわりと香っている。缶コーヒーよりはコーヒー飲料な弟妹が、率先して淹れたとは考えにくいから、メイコだろう。
いるのだろうかと思って飾り窓から覗いたけれど、その姿を見付けることはできなかった。良かったような、寂しいような。全員休日のこんな日に真っ昼間から二人っきりでなにもできるはずないのだから、みんな一緒、の体を取りつつこっそり近寄っているのも良かった。
がっかりしながらドアを開ける。弟妹が振り返った。
「あ、お兄ちゃん。クッキーいただいてます」
「「いただいてマース」」
何かとやんちゃな弟妹だが、姉の行き届いた躾のお陰で挨拶はきちんとできる。日頃、遠慮を全くしない家族に対してでもそれは同じだ。カイトは頷いて答えた。
「お粗末様」
昨日、メイコと一緒に焼いたクッキーだ。弟妹の多彩な趣味に合わせて味は三種類作った。バナナチップとオレンジピールと揚げネギの入った三種類だ。
バナナチップは買い物を手伝ってくれたレンにご褒美で、オレンジピールは先々週の休みにメイコがリンに伝授がてら二人で作ったものだ。それにミクのレシピに従って揚げたネギ。レシピを見せられたときには奇想天外と思えたネギクッキーだが、常人の味覚を一応は捉えている。
酒のつまみとしてはそんなには悪くないわ、というのがメイコの裁断だ。我が家の最高裁、メイコがアリだと言ったから、ネギクッキーはアリになった。いわゆる珍味と言うことだろう。
食べる食べないは個人に委ねられているから、その消費のほとんどはミクなわけだけれど。
カウンター越しに頭を覗かせているコーヒーメーカーには、まだ余りが残っているようだった。あとでいただこう、と考えながらカイトは、ミルクコーヒーとクッキーの進む三人に歩み寄ってその傍らに座った。
「リン、レン、ミク」
真剣に、三人を見詰めた。
「相談があります」
けれど弟妹たちはあまり感慨を感じなかったらしい。兄を返り見て、それなのにその口にはそれぞれ一枚ずつクッキーがくわえられている。
「「「うん、何?」」」
ちょっと泣きそうになった。結構真剣にショックだったのだ。
「妹に『青いヒト』呼ばわりされちゃった場合、これはどうしたらいいかなあ…! っていうか、誰? ルカに変な呼び方吹き込んだの!」
堅く拳を握り、切々と訴えた。そこの青いヒト邪魔、と掃除中のリンに掃除機で吸われたときも、青いやつうるせえ、とレンにツッコミを食らったときも、青いヒトがいると思ったらやっぱりお兄ちゃんだった、とミクに笑顔で声をかけられたときにもそれなりに哀しかった。それでも今回は度合いが違う。
兄認定がないのか、一人だけ敬称が他人行儀に『さん』付けであることには気付いていた。そんな他人行儀からの青いヒトなのだ。ぱき、ぱり、ぽり、と三人の口元でクッキーが割られた。
「具体的には?」
ミカンクッキーをぽりぽりと消費して、次に手を伸ばしながらリンが尋ねてきた。鋭いなあ、とカイトは思った。
「うん、さっきね。アイスが欲しいなあ、って思って部屋を出たところでルカに会ったんだよ」
メイコの様子が気にかかって原因を突き止めるためにデータベースに侵入しようとボイスルームに向かうところだった、とは言えなかった。悪事のお手本になるのはマズいし、メイコの様子についても伏せておきたかった。ミクやレンはもちろん、天真爛漫を絵に描いたようなリンも、きっと心配をする。
抗戦宣言が露見しそうなところは伏せ、つい先ほどの出来事をおおざっぱに話して聞かせた。リンが語尾上がり気味にレンは下がり気味に、うわあ、と、そしてミクが意外そうに驚いたように、ええっ、と呟いた。やはりミクはルカのカイトに対する好意を信じているようだった。
「まあ、疑われる理由はわかるけど、今回は俺らじゃないぜ」
レンが答えた。リンも頷いた。
「ルカちゃん、めー姉にべったりだったもん。そういうの吹き込む隙、なかったなあ」
隙あったら吹き込むのかよ、とレンが半眼で呟く。そういうのはもっとズバッと言わないとツッコミにならないよー、とカイトは心で声援を送ったが届かなかった。片割れの制止にも止まることなくリンは、人差し指をピンと立てる。
「できるとしたらめー姉だね! 今回は!」
「だがそれ」
「わかった!」
それはない、と再度きかけたレンの声は、ミクのひらめきにうち消された。レンはがっくりと肩を落とす。ミクが議場で発言を求めるように片手を上げた。
視線を送ると、自信満々、ミクは答えた。
「お姉ちゃんがルカちゃんに伝授したのはツンデレ! ルカちゃんはお兄ちゃんが好き!」
リンは晴れ渡る空のように眸を輝かせ、レンの隣でカイトもがっくりと肩を落とす。ないない、と呟くと、レンが慰めるようにカイトの肩を叩いた。
男性陣の気落ちを他所に、ミクはリンと手を取り合って、三角関係の行方について盛り上がっている。立ちはだかる数々の困難。助言と試練をくれるのは最大のライバルで師匠のメイコ。ルカは複雑な想いを抱えながらも立ち向かっていく。
「それで最後は師匠を超えるため向かってくるルカちゃんを、めー姉は受けて立つんだね!」
もはや恋愛の話題とは思えない。カイトは深く重い溜息をついた。
「めーちゃん…でもそれちゃんと俺のために戦ってくれてるのかな…」
メイコのことだから、立ちはだかる壁となることで妹の成長を助けられたら、みたいなことを考えているのかもしれない。それももはや恋愛の話題としての発想ではないのだが、カイトも色々なことがどうでも良くなりかけていた。
「それよりさ」
横道にそれてきているな、と思ったのだろう。レンが問いかけてきた。
「メイコ姉の昔のこと、知ってるヒトにカイ兄は心当たりってない?」
あ、とミクが声をあげた。そうだそれだそれを忘れていた。そんな声だった。リンとレンがそちらをちらりと振り返ったから、カイトはなんとか表情を作り直せた。
ぎょっとしたのだ。ミクリンレンの火薬庫トリオまで、メイコの過去を気にしているのか、と。やっぱりあの歌だろうか、と思いながらカイトは立てた親指で自分を示した。
「当然、俺!」
日頃、メイコのことを一番知っているのは自分だ、と自負してはばからない。兄弟のうちでは一番長く彼女と暮らしているし、この回答に弟妹の疑問は浮かばないだろう。カイト自身は今まさに、この回答に疑問を感じているわけだけれども。
にっこりと笑ってみせると、レンからメイコ直伝の右が繰り出された。いい捻りを出すようになったなあ、と思いながらカイトは正座のまま後ろに倒れた。
「大丈夫? お兄ちゃん」
天井を仰ぎ見た視界の中に、ひょこりと入り込んできてミクが声をかけてくれる。淡いエメラルドの眸は真摯にカイトを心配している。
「大丈夫大丈夫」
反動をつけ、足を崩さずに起き上がる。
「さすがにめーちゃんには及ばない…」
得意げに言うと、さっきは肩を叩いて慰めてくれた弟が、心底から鬱陶しそうな顔をした。そしてその片割れがにっこりと笑う。
「すごいね! 爽快にうざい!」
リンの笑顔も爽快だ。本気で褒めているつもりらしい。
じゃなくて、とレンが深々溜息をついた。リンが言葉を接ぐ。
「めー姉が発売される前の話だよー。カイト兄なんか全然いなかったとき」
ミクも首を傾げた。
「お兄ちゃん、何かお姉ちゃんから聞いてない?」
メイコの発売前。独唱だった頃。思わず渋面になる。
やはりミクたちも、カイトと同じことを調べているようだ。昼前にカイトの前で話していたときには、ミクがメイコを気にする様子はなかったから、おそらくそのあとに何かあったのだろう。
「ええっ! めーちゃんの過去を知ってる奴? 俺よりも?! そんなのやだ!!」
声を上げ、立ち上がり駆け出す。勢い良くドアを開けて部屋を出、マフラーが挟まるタイミングで閉めて背を預けた。
嘘のつけないメイコだ。隠し事も巧くはない。それにしても弟妹に勘付かれるようなことは、特にミクが気付くようなときはきっとメイコが哀しんでいるときなのだ。
深く吸った息を吐く。
ドアをもう一度開け、挟まっていたマフラーを抜いて、閉め直した。廊下の奥、メイコの部屋のドアを見る。つらくなったら頼って、と懇願したのはもうずいぶん前のこと。ミクが来る前、二人きりだったときだ。
もう一度同じことを頼まなければならないのかと思うと、悔しかった。


---続
 

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