カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
主はカイトに歌声を与えた。メイコのためだ。
彼女は歌が好きだった。そう言いながらカイトの声帯を調整する主は、ひどく幸せそうだった。
月の映り込みを見る岸辺。いつもの岩の上でカイトが六弦を弾いていると、メイコが川面に現れた。
「いい声ね」
水上には動作なく、メイコはするりと寄ってくる。少し離れたところで、水鏡が揺れた。
「その歌もカイトに教わったの?」
川面からの声にカイトは頷く。
「おそらく」
メイコは不思議そうに小首を傾げた。自己の過去にもかかわらず断言できぬことに対してであると、カイトは判断する。
人形師は人生の一大事業として等身の人形を作り上げ、世を去った。カイトの手の内にあるすべては、主が残したすべてなのだ。
メイコは少し、探るようにくるりと虹彩を揺らした。
「じゃあ、あなたはカイトと直接に会話したことはないの?」
カイトの頷きに、メイコは何がしか思うところのあったらしい。視線を外し、考え込む様子があった。
だがそれ以上は問うでも、質すでもない。そう、と肯いたきりだった。
伸び上がって岩肌に手をかけ、尾びれが翻って乗り上がる。座り直すのに手を貸すと、飴色の眸が緩んだ。
「ありがとう」
隣り合って座るようになって程なく。メイコの表情が幾分和らぐようになった。少なくともカイトはそう感じていた。
栗色の髪に手櫛が通るとふわりと水気が引く。いつ見ても不思議だ。まじまじと眺めていると、気付いてメイコが首を傾げた。興味本位の視線は申し訳なかったと、カイトは口籠る。
「いや……」
襟足に揃った髪は、もうすっかり乾いているように見えた。
「髪? まあ、水の類のものだから」
自分の居場所であれば水気への多少の干渉はできると言う。白い指が毛先を摘んだ。
「触ってみる?」
カイトは単純な興味から、特別の意識なく首肯した。手を伸ばす。そっと触れてみると、栗色の髪はカイトの指の間であえなく折れた。
指先に感じたのは、あまりにも柔らかな手触りだった。未知に触れた驚きで、カイトは慌てて指を離す。
「もう、濡れていないでしょう?」
微笑む彼女は無防備だ。カイトはひりつく喉をようよう開いて、濡れていない、と呟き答えた。隣に座る女性が視界に入る。
改めて知る。互いに人ざる。だがカイトは男として作られ、メイコは女性だ。
白い肌、頤から細い首筋への頼りなさ。ついさっき、特段の意識もなく差し伸べ支えた手の柔らかささえ、熱を持って蘇ってくる。
「スミレ? どうしたの?」
怪訝そうに向けられる眼差しに、火を点される様な温度の上昇を体の内側に感じた。主の言葉が脳裏に響く。
僕はメイコを愛していた。
今でも、愛している。
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