カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
水のソルティレージュとかガラスの森とか聞いていたのですが、ZBADAKからのイメージは五つの橋でした。
カイトの主は他者との関わりを持たない人だった。居を構えた寒村の中でさえ交わりを絶ち、カイトをはじめとする人形たちの制作と調整だけに日夜を過ごす。
訪ね来るのは人形を商う村の外の者が時折。人はひとり、それなのにすべての部屋中に所狭しと人の形の居座る館は村人たちには疎まれ、子供などからは化け物屋敷と呼称されていた。
本当は帰りたかった、と主は晩年カイトに語った。故郷を後に町の学校に入って寮生となったが、勉学の上では劣等生だった。
学位を得る前に縁の巡りから手先の器用なのを見込まれて、人形師に弟子として招かれる。養子として迎えたいという申し出を、稼ぎに窮していた家族は歓迎したが、主自身は断りたかったらしい。故郷との繋がりを失ってしまうから。
「そして伝手を失くしても故郷を思い、貴女を思い、主は一心に人形を作っていた」
記憶に住まう姿を映すように栗色の髪、琥珀の眸の美しい乙女の人形ばかりを作っていた主の様子を伝えると、メイコは愛の告白を聞いた少女のように頬を赤らめ俯いた。
その横顔に、カイトは胸中に波立つ感情を覚えてしまう。それが何なのか、まだカイトにはわからない。
「作品は評価を得た。だが主には遅すぎた」
故郷に戻り得る地位財産を得た時、人形師は重篤な病に冒されていた。空を突く山々を隔てた故郷の地を訪ねるには体はあまりにも弱っていて、還る土を選ぶことさえできなかった。
「主は少しでも景色の似た場所にと山間の村に居を定め、そこで私は作られた」
頬の赤みは消えていたが、メイコは俯いたままだった。白い頬に青褪めるような月の影が射す。
川面に少し、風が揺れた。頤の縁をさらりと栗色の髪がすべる。
「ばかね」
唇から零れた声に、カイトは思わず目を向ける。主の行いは決して賢しいと言えるものではない。カイトにもそれはわかるが、知人をして冷罵を浴びせられるのはあまりだ。
眉をひそめて見遣ったが、メイコの横顔に言葉ほどの非難の表情は浮いていなかった。苦く目元を撓め、口許だけでどうにか笑んでいる。
なぜか、泣き出すのでは、と思った。
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