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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/01/20 (Fri) Comment(0)
涼介Pの『見返り美人』のタエコさまの二次『最後の見返り』(PIXIV)の派生(三次)小説『花火』の続きと言うかなんというか。

注意。
カイメイでぽルカ。
カイトがあほっぽい。
メイコが病気理由で留年経験あり。
理系大学想定。

はじめから→花さがし音さがし1






空は漆黒。学生棟を出るとすでに日は暮れ落ちている。星が少しだけ、見えた。
あと少しすると大学祭がある。この時間にしてはまだ幾分活気が残っていた。四人、バス停に向かう。運命の可能性について論議が盛り上がる神威とルカが前を、メイコはカイトの隣をどことなく気まずく二人の後から歩いていた。
「否定はしない。だが非科学的と言われるのは否めないだろう?」
神威がかぶりを振る。ルカの声が高くなる。
「非科学的?」
どういう意味ですの、と問う声は鋭い険を含んでいた。
悪いことをした気分だった。ルカたちにも、隣を歩く彼にも。
カイトはゆっくりと歩きながら苦笑している。どうやって二人をなだめようか、計っているような風もあった。前の二人は少しずつ話題が逸れ、今は科学的の言葉の意味について論議を戦わせていた。
「そもそも非科学的と言う言葉が納得いきませんわ。科学とは理解する学問でしょう? 目の前にある事象を調査、分析、解明する、それが命題でしょう? これまでの法則に合わないから否定する、のでは科学の意味がありませんわ!」
ルカらしい、と思う。明快な正答を好むのに、不確定な事象を否定しない。メイコにはそんな高らかな断言はできなかった。
好きと言ってくれた声音。さがしていた音だと思うのに、この人だと信じきれない。
病院の階段の上で出逢った記憶にも互いに相違がある。カイトがばあさまと呼んでいた曾祖母だと言う人の話などは、何の証にもならない。
確証など何もない。
証明すると言うのが無理難題なのだ。
「ええと…何だか、ごめん」
バス停に四人で立ち止まると、カイトが後ろ頭を掻きながら言った。神威とルカはまだ意見を戦わせている。こちらの話は聞いてもいないようだ。
「ばあさまの話とか、病院でのこととかは、えと、まあ、信じてもらわなくていいんだ。全然」
驚いて見上げると、今まさにカイトも振り向いたところだった。目が会い、気まずくなって互いに逸らす。
「友達の友達…から、そのええと、始めさせてもらえたら…」
がっくりと力が抜けた。メイコが断りに使った常套句だって「友達から」だ。どれだけ遠くから歩み寄るつもりだろう。
やはり勘違いに気付いたか、メイコの固い雰囲気に意気を消されたか。もしくはメイコの実情を聞いて、想像との違いにひるんだのかもしれない。
ほとんど神威とルカが紹介し合う形で、お互いの昔を交換した。ついでに、メイコが小学校と高校で留年し、大学も一年待ったせいで二つ上の一学年下、とも伝えられてしまった。あの研究室を訪ねたのだって、病院通いの欠席がたたり、危うい単位をなんとか救ってもらうための交渉のためだ。きっと、呆れただろう。
メイコは苦笑して見上げ、構わないのだと断ろうとした。
運命があるかどうかなんて、メイコにはわからない。だがそんな不確実なものに従って、目の前の彼が、カイトが不幸せになるのは嫌だった。
まるで、ずっと前に、そんなことがあったみたいな。
だがその断りの言葉は声にはならなかった。空に開いた花に、響いた音に、あまりに驚いたからだ。
返り見る。言い争っていた神威もルカもだ。ああそうか、と得心の声が落ちた。
「今日は打ち上げの予行をするんだったな。道理でひとの多いわけだ」
ルカが、近くに見に行きたいと言い出した。もうじきバスは来る。だがもう一つ遅らせてもいいし、バスがなくなったら歩いて電車の駅に向かうのでもいい。
ルカが神威を引いて走り出す。神威は渋々の体でけれどきちんとついて行く。
だがメイコは声もなかった。耳を震わせる、音が。
瞠って硬直したメイコに、声がかかった。
「行こう」
開かれた掌が差し伸べられる。カイトは微笑んでいた。
ためらって、それでもメイコはその手を取った。
「私、夜目きかなくて」
思い出せなかった。この手に引かれた昔があった気がする。
「いいよ。歩いていこう」
大きくて優しいぬくもり。思い出そうとすると、多幸感と後悔で胸があふれそうになる。
「メイコさんは笑うだろうけど…俺はこうやって一緒に歩いた昔があった気がするよ」
カイトがぽつり呟くから、堪らなくなってしまった。
望んでもかなわないものは多いけれど、望まなければかなわないものもいくつかはあるはずだ。そのうちの一つなのだろうか。
望んでも、構わないのだろうか。
火の花が開く。夜空に響く。
細いオレンジの花びらを撒く。いくつか先に上がった花とは違う、少し色の暗い、繊細な花だった。
「知ってる? あれ、江戸花火だよ」
知っているわ、と言いそうになった。初めて知ったのに。
目に涙が浮いて、メイコはカイトの手を強く握った。
「ねえ、カイトくん」
 
「この手を離さないでね」


-了-

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