カイメイ中心
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VOCALOID二次創作小説サイト
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メイコ愛をこっそり謡う
涼介Pの『見返り美人』のタエコさまの二次『最後の見返り』(PIXIV)の派生(三次)小説『花火』の続きと言うかなんというか。
注意。
カイメイでぽルカ。
カイトがあほっぽい。
メイコが病気理由で留年経験あり。
理系大学想定。
注意。
カイメイでぽルカ。
カイトがあほっぽい。
メイコが病気理由で留年経験あり。
理系大学想定。
先天的に目が弱かった。何もなくとも、年齢に達すれば手術を受けるはずだった。入院する羽目になったのはクラスメイトの些細ないたずらだった。
不健康な様子もないのに体育の授業に参加しないメイコをからかって、ボールを投げてきた。ドッヂボールに使っていた、ちょっと大きくて、けれど柔らかいボールだ。当たっても痛くはない。
だが、背中に向かって投げられたボールは頭に当たり、メイコは転んだ。痛かったわけではない。驚いただけ。苛立ちはあったけれど平然を装って立ち上がろうとして、しかし気付いた。
目が霞む。ものの形が判然としない。泣き出したメイコは教師に付き添われて病院へ行き、そのまま入院の運びになった。
小学生にひと月の入院生活は長かった。しかも目には包帯が巻かれ、暗闇での生活だ。
それでもメイコは堪えていた。同室の中では、年嵩だったからだ。メイコお姉ちゃんと呼ばれては、めそめそと泣いて見せるわけにはいかない。喧嘩があれば仲裁し、眠れないと泣く子の手を握ってやっているうちに寝てしまい、自分が風邪をひきそうになったこともある。
看護師にも信頼されていて、けれど術前、いよいよ我慢の堰は決壊した。泣いているところなど見せられないと、立ち入り禁止の屋上への扉前に座り、メイコはひとりで泣いていた。そこへ、足音がした。
最初、メイコは彼を追い払うつもりだった。声を荒げて責めれば、歳下の子供達はすぐに逃げ帰ると思ったのだ。
だが聞き慣れない少年の声は逃げなかった。追い払ったのに、逃げるどころかすぐ隣へやってきて座った。仕方なくなって、メイコは彼を受け入れた。
「どうして泣いてるの」
少年は尋ねてきた。メイコは否定した。泣いてなんかない。けれど少年は聞かなかった。
「うそ。だって泣いてる」
メイコは押し黙った。目には包帯が巻いてあるのだから涙で知られるはずはなく、だとすれば涙声のせいだろう。黙ったまま、ふるふると首を振った。
「ねえ」
少年のやわい手がメイコの手に触れた。
「大丈夫だよ」
狭いあがりに座っているから、肩から腿まで体はくっついている。温もりに、メイコはようやく思い至った。メイコの手をやわい手で握り、少年はたぶん微笑んでいた。
「きっと大丈夫」
思わず見つめる仕草で振り返ったメイコの頬を、やわい手が撫でた。この手を知っている。そんな気がした。
手術は成功した。分のいい成功率ではなかったのだが、術後の経過もよく、医師も驚く程だった。長く、メイコはそれは座敷童のお陰だと信じていた。
通院の子供の中にも心当たりはないと看護師に言われたあの少年は、座敷童に違いない、と。
・・・
一通りを話したメイコに、ルカが呆れたような感心したような視線を向けてきた。夕間暮れも近い食堂にいつもよりは多くとも人はまばらで、込み入った話をしていても聴き耳はない。
「それで、目の前に現れてしまったかつての座敷童に、貴女はどうしたいんですの?」
う、と言葉に詰まる。見た目の繊細な美しさと芝居がかって聞こえるほど上品な物言いに比べ、ルカは中々にざっくりしている。黒か白か。動くのか動かないのか。
「でも、本当にあの時の男の子か…自信、ぜんぜんないのよ?」
暗闇の中で聞いた声は可愛らしいボーイソプラノ。メイコの耳に「好きです」と囁いたのは柔らかな低音。理性的に考えれば、同じ音だと判断できる材料は限りなく少ない。
「でも、待っていたのでしょう?」
はっきりしろ、とばかりにルカはたたみかける。
「取り敢えず私と知り合って二年になりますわね? その間に何人の方に好きですと言われました? ああ、答えなくて結構ですわ。何人だったにせよ、貴女からこんな話を聞かされたのは初めてですもの!」
確かに、何が目立つのか男性からの告白を受けることは多かった。目の治療のための通院もあって、サークルや何かの所属もない。通学も滞りがちで、だから物珍しいだけだとは思う。
すべて断ってきた。知らない人といきなり恋人になんてなれるわけないじゃないと嘯きながら、心のどこかで思っていたのだ。
このひとは、ちがう。
この声じゃない。
そんな風に探しているのはきっと座敷童のボーイソプラノで、もう一生見付からないだろうと諦めてさえいた。それなのに、彼の声を聞いた時にこの声だと思ってしまった。
座敷童のボーイソプラノより、ずっと前から。待っていた声、だ。
「でもそんなの変よ。ありえないわ」
かぶりを振ったメイコに秀麗な切れ長の双眸が半眼を向けてくる。絶対零度の眼差しだ。
「もう結構。貴女が動かないのでしたら私が動きますわ。幸いあすこの研究室には知己がおりますし」
え、と見開く隙もあらばこそ、ルカの手にした携帯電話は相手を呼び出していた。日頃話に聞いて不憫を感じているルカの彼氏の名が聞こえる。
「神威さん? 頼まれていただけませんか。探してほしい方がおりますの」
メイコは必死で袖を引き、断ろうとした。心の準備くらいはという願いむなしく、電話相談は早期に決着してしまった。
そいつなら今、隣にいるよ、という一言で。
---続
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