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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2012/01/17 (Tue) Comment(0)
ちょっとかなが振れなかったので。
虎鶫=トラツグミ
鵲=カササギ
です。潰れちゃうとわかり難いですし。





 
 
腰の括れに回されたリンの腕を解きながら、ごめんね、とメイコは言った。膝を屈めて空色の眸を覗き込む。小さな女の子のように可愛らしく上げた不満の声にも、少し困ったように眉根を寄せて、また今度ねと振り切られた。
手を引かれ、先行く背を案じるように人波に消える姿を見詰める。手を引き、足早に立ち去ろうとする背を睨む。リンには不服だった。
今夜の仕組まれた邂逅に場を提供したのは、勿論ミクに頼まれたからだ。けれどリン自身の目論見や、楽しみがなかったわけではない。
生まれたこの家を、メイコに案内して見せたかった。レンと並んで歩く廊下や、閉ざされた部屋、飾られた母の肖像画も見せれば、何と言ってくれるだろうと胸を弾ませながら想像していたのだ。
台無しになった。
「使えないなぁ」
ぽつり、呟く。ルカが伯爵を巧く引き留めてくれれば、メイコをこの家に泊めることもできるかもしれない、とさえ算盤をはじいていた。過度な期待だった、と、けれどリンは自らを省みることはしない。
ルカの不甲斐無さに、また直接にメイコを連れ去った伯爵に悪態をつく。心中で、だ。
ちらり、レンの視線が動いた。つられて追う。メイコと彼女の手を引いた伯爵の姿はとうにホールから消えていたし、他に意識して目を向けるものもなかったからだ。
ルカがドアを開けさせているところだった。衆目を集めて立ち去る後ろ姿に、目を細め唇を尖らせる。口を突きそうになる悪態を寸でのところで呑んだ。
レンも何事かを思っているようだった。リンと同じ冬の空の浅い青色がすうと細められる。つ、と一歩が出された。
「レン?」
つい尋ねた。レンは振り返りリンを見る。
同じ色の眸がふと、見詰め合う。
「リンはミクと一緒にいて」
簡素に告げられて、首を傾げた。まだルカを必要にする手があるとは思えない。
理由がわからなくて、リンは顔をしかめた。こんなことは今までになかった。レンがリンにわからないことを言うなんて今までにはなかったのだ。
「どうして」
初めてだ。こんな風にレンに尋ねるのは。こんな風に聞かなくったって、リンはレンをわかったし、レンはリンをわかってくれた。
どうして、尋ねさせるの。その言葉が本当は、正しい。
「ミクはお客様だから。俺か、リンが案内をしなくちゃいけないだろ?」
真っ直ぐに見詰められて、けれどわからなかった。リンが聞きたい答えはそれではない。
わざとはぐらかしているのか。
リンならわかると思っているのか。
どちらにしても、まるでレンが遠くなってしまったようで、リンは唇をきゅっと結んだ。
返る答えのなかったことで思う結果を手に入れたのか、通じたと思ったのか。レンは視線をミクに移した。
「悪いとは思うんだけど」
ミクはにこりと微笑んだ。
「構わないわ。ルカお姉様によろしくね」
リンにはわからなかった。何か、ひどく面白くない。
レンはもう一度リンを見、何も言わずに背を向けた。人波を縫ってホールの出入り口へと向かう。成長期も半ば。まだ細い肩幅も向日葵の色の髪もすぐに着飾った大人たちの中に消えた。
「リン」
呼ばれるまで、リンは立ち去ったレンの行方を見詰めていた。とっくに見えなくなっていたのに。
はっとして振り返ると、ミクは責める様子もなく微笑んでいた。
「お姉さまが随分、好きなのね」
やわらかく甘い声が紡ぐ言葉の意味をたどりながら、つい首を傾げた。エメラルドの磨いた宝石のような澄んだ緑の眸が優しく視線を注いでくる。日の射す碧水の淵のような眸を覗き込みながら、リンは脳裏でゆっくりとその言葉を噛んだ。
お姉さま。誰。
思うまでもなく、それはメイコのことだ。同じ片親ずつの血の繋がりであっても、ルカとメイコを比す必要はない。比べるまでもなく、姉とはメイコのことだ。
「好きよ」
リンは当然と言い切った。
「見てたでしょう? メイコは私を撫でてくれるのよ!」
今日は手袋をしていたけれど、いつもは温かな掌で直接に触れてくれる。初めて会った時にはその手ではたかれて驚いたけれど、痛かったという覚えはない。ひどくひどく驚いた。
驚いて、とてもひどいヒトなのだと思った姉は、けれど次にはリンを抱きしめた。昔に、不調法で欠いてしまったのだと教えてくれた指先で、リンの頬を撫でてくれた。
人の傷を笑うものではない、と言ったのに、彼女自身はその傷を笑っていた。不器用の言い訳にはなるわ、と。
腰に抱き付いて纏わり付いたりして、少しも淑女らしくないのにメイコは咎めない。怒らない。罵らない。蔑まない。
リンの目を見て言葉をくれる。リンのほしい言葉。
ミクは優しく頷いた。
「でも、今日は帰ってしまったのね」
その表情は少し残念そうだった。リンはもっと残念だった。伯爵が連れ去ったりしなければ、もっとずっとメイコといられたのだ。
「ルカが、悪いんだわ!」
いつも必死で掴み取ろうとしているくせに、肝心なところで手を離すから。
「ルカがうまくやれば、私はメイコといられたのに」
声を荒げれば、衆目に触れる。けれどリンはそんなことも考えられなくなっていた。訴えを、全部ミクに聞いてもらいたかった。
ミクは優しく頷いてくれる。否定しない。
「そうね。それなのに、レンはルカにどんな用事だったのかしら」
リンはふるふると首を振った。
「わからないわ! どうして、レンは教えてくれないの? 私にわからないことをするの?」
どうしてかしら、とミクは少し悲しそうだった。そうだ。リンも悲しい。泣き出したい。泣き喚きたい。
ずっと一緒だったレンが、遠くに行ってしまう。
「ルカのせいよ!」
ルカが巧くやらないから。メイコを連れて行ってしまう伯爵を繋ぎ留めておかないから。
伯爵を繋いで置けないのに、今度はレンを連れていく。
ミクの掌がリンを撫でた。メイコがリンにしたのと同じように。
「メイコのことは随分好きなのに、ルカのことは随分嫌いなのね」
宝石の緑の色の澄んだ淵の眸が見ている。優しく日の射すような深い淵。底のない水面に浸るように、リンはこくりと頷いた
ええそうよ、と肯いた。

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