カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
そして王女は囁く。
リンとレン、双子に変化があった。ミクはそれを感嘆をもって受け入れた。
変化、それだけなら驚くことはなかっただろう。血の繋がり深い姉に巡り逢ったのだ。何某かを感じ、それが変化として顕在化することに不思議など覚えない。
だがこれ程までに顕著な変化をもたらすとは、彼女にも予測できなかった。カイトが姉と呼ぶ女性は、やはり余程の人物なのだろう。エメラルドの眸を細める。
「やっぱりミクのことを教えちゃったのは拙かったんじゃないかな……」
険しい表情でそう告白してきたレンに比して、いつも対であったリンがあっけらかんと笑う。
「大丈夫でしょ? だって『どんなことも話してかまわない』ってミクは言ったわ」
見上げてくる同じ色の眸。けれどそこに映される彩には明らかな違いがあった。好奇に物怖じしない姉の意思の強さであり、慎重に窺う弟の思慮深さ。それらがくっきりと縁取りを変えている。
二色に、ミクは頷くように、また宥めるように答えた。
「もちろん、話してしまって良かったのよ」
双子に明かしてはいないが、いずれは直接に彼女らの姉と誼を結びたいという思惑がある。名が通じているのはありがたい。仮令、ミクに抱いているものが不信感であっても、それはそれで構わないのだ。
不信は戸惑い、そして怖れを生む。疑心暗鬼に陥った人間の心につけ込むことの何と簡単なことか。薄桃色の唇を綻ばせ、ミクは微笑んだ。
「貴方たちのお姉さんは、私の大切なひとの、それは大切なひとなんだもの」
歌うようにうっとりと告げる。二対の空色の眸が注視してくるのがわかった。
眸は見詰めてくる。じいっと見詰めるその向こうでは、それぞれに思惑が巡らされている。
「大切な人……お兄さん?」
問いに、ミクは頷いて答える。微笑みは解かない。
「本当のお兄さん、なんだよね」
再び、こくりと。頷くのを確かめる眸は好奇を探るばかりではない。
猜疑。その裏に僅かばかりの苛立ちと、焦り。リンは、そしてレンは気付いているのだろうか。
ミクはそんなことはまるでおくびにも出さず、物語を語るように告ぐ。
「昔々に。私のお父様と、お兄様のお母様は恋人だったの。一夜限りの恋人」
双子も知っていることだ。そんなのはいくらでも有り得る。本当はもっとずっと凄惨であったのだけれど、物語は綺麗な方が良いだろう。
「そして貴方たちのお母様にもいたの。一夜だけ結ばれた恋人。それが……」
まるで同じ境遇であるかのような二人だが、一点において違いがあった。メイコは父の元に、カイトは母の手につれられていった。だから彼らに血の繋がりはない。伯爵家の異母姉弟は、造られたのだ。
鋭くなる浅い冬空の色の眸に浮かぶのは憎悪か、嫌悪か。それは誰、への。
手に入れたばかりの肉親の情を取られまいとする少女の憎悪でも、少年の潔癖さゆえの嫌悪の肩代わりでも、ミクとしてはどちらでもいい。ただ見違わぬよう、それだけを心掛ければいい。
ミクは微笑む。
「私もお会いしたいわ。お兄様の大切なひと」
双子に向けて。けれどまるで独り諳んじるように。
双子は押し黙る。それぞれに思い、巡らせる。
「貴方たちのお姉さま。お会いしてもいいかしら」
エメラルドの眸で微笑み、問いかける。双子はその言葉に確かめる。
彼女は姉だ。良しにも悪しにも繋がりは切れない。
「ミクはお姉さまにお会いしたいの? どうして?」
少女の問いに微笑みを。
「お兄様の大切なひとで、私の友達のお姉さまだもの」
リンは随分と彼女を気に入っているようだ。ミクの害意をその眸が探っている。
「お兄さんにしたように、自分では会いに行かないの? ミクならできるよね」
レンはまだ彼女を疑っているようだ。母の情を奪ってしまった人であり、今また半身の情を奪っていこうとしているのではないかと。
ミクが何がしかを彼女になそうとするなら、レンにはおそらくそれに手を貸す心積もりがある。
「私が急に会いに行ったら、きっと驚いてしまうわ。だから紹介してほしいの」
ミクは微笑む。まるで害意がないように、少しだけ他意があるように。
リンはレンを見た。レンはリンを見た。互いに視線を交わし合い、確かめる。手を取り合い、二人は再びミクを見た。
双子はこくりと頷いた。
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