カイメイ中心
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メイコ愛をこっそり謡う
カイトの内心を実際は誤解しているのだろうメイコは、軽く肩をすくめた。悪かったと言うその言葉も、からかい過ぎたことに対してくらいだろう。
けれどカイトが悔しいのはそこじゃない。
「めーちゃん、俺のお嫁さんイヤなの?」
少し意地悪く、拗ねた言い回しをしてみた。案の定、メイコは不思議そうに小首を傾げて見詰めてくる。
「俺がギャンブラーでめーちゃんが元将軍さんだったらそうなっちゃうじゃん」
紅茶色の眸を瞬かせて、やがてたまらなさそうに、噴いた。
笑ってはいけないと思うのか口許を手で隠して、それでも肩がふるふると震えている。カイトはむっとして、笑うかなそこで、と口先を尖らせた。
「ごめんごめん」
言いながら、それでもメイコはまだ笑み含んでいる。カイトにとってはそれなりに切実な問題であるのに。
カイトがむーと唸ると、紅茶色の眸が細められた。
「じゃあ、カイトは世界をまたにかけるトレジャーハンターがいいの」
見上げ、覗き込んでくる微笑みが柔らかくて優しい。カイトの答えを、もしかしたら予想している。
「でもそれもイヤだ」
真っ直ぐに見下ろして、答えた。カイトを見上げるメイコの表情は、やっぱりな、と言わんばかりだ。
「だって俺にとってめーちゃんはひとりきりだよ。たったひとりの女性だ」
劇中劇の配役で揉めていたのに、ゲームの本筋の方で攻めてくるとは思わなかった。内容を浚ってみたら、到底カイトに納得できる配役ではない。
「誰かに似ているから、なんて理由じゃない。めーちゃんだから、俺が守るよ」
そっと頬に手を伸ばす。指の背で、それから包み込むように掌で触れると、目を細めながら頬を寄せてきた。
「彼は…多分、過去の女性を重ねたから彼女に惹かれたわけじゃないわ。帝国軍の将軍を助けた理由は女性の面影かもしれないけど、彼女と生きる道を選んだからこそ、過去の女性と決別する機会が欲しかったのよ」
青い前髪の奥、カイトはつい眉をひそめた。
別段、想いを否定されたわけではない。それが気になったわけではなくて、ゲームのキャラクターに自分を重ねるような声音が気になった。
「めーちゃん、」
「ん、だからね? 無意味でしょ。カイトの気持ちはカイトだけのものなんだから」
カイトの言葉を遮って、メイコは甘える猫のように眸を閉じる。
「配役に気持ちを重ねよう、っていうのはいいけれど、気持ちの重なる役を選んじゃダメよ」
気持ちを重ねたかのような斟酌を、失言と思ったのかそうでないのか。やわらかな微笑からは汲み取れない。
取り繕うことの下手なひとだから、無意識であるのかもしれない。無意識だとしたら、余計気になるのだけれど。
今問い質すことは困らせるだけだろう。カイトは苦笑して円かな輪郭を撫でていた手を引いた。
不思議そうに目を開けたメイコに、にっと笑ってみせる。肩膝を突いて跪き、さっき見事にコインを弾いた赤い爪先の手を取った。
「『メイコをめとるのはドラクゥでもラルスでもない!! 世界一の歌い手! このカイトさまだ!』」
紅茶色の眸は見開かれ、そして不敵に笑った海色の眸を見詰め、やがて笑う。これはとてもとてもいい返事を期待できそうだ、と思った、その時だった。
メイコがリビングの出入り口であるドアを振り返った。カイトから、すいと距離を取る。何を察したのかに気付き、カイトも立ち上がって振り返った。
リビングのドアを押し開けて険しい、とても険しい顔をしたルカが入ってきた。
「…申し訳ありません。喉が渇いてしまって」
あら、とメイコが答えキッチンに向かう。カイトは低く呻いた。
「出たな、オルトロス」
ターコイズブルーの眸鋭く、ルカが睨み返してきた。
「私はタコではありませんわ」
遣り取りに、冷蔵庫を開けていたメイコがちろり、カイトをねめつけてきた。余計なことを言うなとのことだろう。だけどきっと意味がない。
冷水のボトルを取り出し、部屋に持って行くかを尋ねる。お願いしますとメイコに答え、ルカは密やかにカイトだけに囁いてきた。
「程々になさった方がよろしいかと。リン姉さまが階下を窺ってらっしゃいましたわ」
カイトが瞬くと、水差しとグラスを乗せた盆を持ってメイコが歩み寄ってきた。差し出され、ルカは礼を言って受け取る。
「改めましておやすみなさい、姉さま、カイトさん」
会釈をして、辞去して行った。鴇色の髪がドアの向こうに翻って消えるのを見送り、タコ扱いしてしまって本当に申し訳なかった、とカイトは反省をした。
たとえルカが案じたのが、カイトでなくメイコだったとしても。
メイコがカイトを返り見た。
「さ。私たちも、もう寝ましょ」
見上げてくる眸を見詰め返す。リンの好奇心も、多少ルカに牽制されているだろう。チャンスではあるかな、と細くくびれた腰に手を回した。
「返事が聞きたいのですが」
こそばゆそうに細い肩をくすくすと肩を揺らす。メイコはそれから、カイトの鼻の頭をちょんとついた。
「世界一の歌い手の座は、譲らないわ」
「そこなの?!」
声をあげたカイトに、当然、とメイコは笑う。
だって他に敢えて返す否定もないもの、と。
そしてやわらかな夜が更けて行く。
-了-
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