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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2024/11/23 (Sat)
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2011/12/23 (Fri) Comment(0)
そこは塀の上だよ、ハンプティ。

 



 
家令に招かれざる客の来訪を知らされた。書斎の広い机の上に、書状としてまとめられた嘆願を広げ、検分していた時だ。
嘆願書は領地として与えられたいくつかの荘園から、定期的に送らせている。もっとも、願いは聞くだけだ。嘆願書から実情を鑑み、統治の方策を定める。決めるのはカイトだ。
社交の場こそが貴族の仕事場と言わんばかりに、パーティに精を出し、領地の管理一切を家令に任せている者もある。だがカイトはある程度の方策作りは任せても、最終的な統括は自分で行っていた。
伯爵になることは、メイコがカイトに望んだことだからだ。メイコが伯爵の理想像を託すというなら、カイトはもちろん応える。
メイコが望むすべてに、応える。それはなくしたと思った彼女の影を捕まえた時にかけた誓いだった。全身全霊をかけて守ってくれた彼女に、今度は全部返すのだ。そして今度は決して離さない。
荘園の管理など、そのための雑事の内では簡単な内だった。
カイトは仕事を中断されることに、億劫さを感じながら立ち上がった。約束も取り付けずに現れる勝気な侯爵令嬢に、つい、溜息をついてしまう。目の前にいる年長の従僕の、忠誠心に対する信頼でもある。カイトの素直な感慨だった。
ルカを邪険にできない理由は一つだ。爵位の上下が理由ではない。これまでも実際に、交際を断った中に侯爵の家筋を持つ女性も幾人かはいた。勿論、表裏に手を尽くして穏便に、だ。
だがルカにはそれらが通じない。屋敷を訪ねる自由まで与えてしまっている現状は、ひとえにミクのせいだ。
ルカを紹介してきたのが、ミクだからだ。
そしてまたそれは、紹介者であるミクが王族だからではない。紹介者である王族がミクだからだ。紹介者が他の王族であるなら、適当にあしらった自信がある。
ミクは人間関係の駆け引きを楽しんでいる節がある。彼女自身の対人関係のと言うならまだいいのだが、あえて他者同士の関係を掻き回すことまで趣味のようにしているのだ。
そのミクが、好意の他に強い興味をカイトに持っているらしい。カイトに思い人がいると気付いて、あえて強い婚姻願望を持つ女性を紹介してきた。それがルカだ。
ルカについてはミクが紹介してきてすぐに素性を確かめた。
侯爵の娘と認められてはいるが、日陰の身と言える。なるほど道理であれだけ直接的で強引な手段に訴えてくるわけだ、と納得できた。同情も共感もしないけれど。いずれ何かの折に、ミクに手痛いしっぺ返しをしてやるのに使おうと思った程度だ。
望まぬ客を出迎えるため足をさばきながら、つい先日に交わしたミクとの会話を思い出していた。堪らずに釘を刺したが、逆効果であったかもしれない、と思う。今頃面白がって、メイコと接点を結ぼうと伺っているだろうか。
心配だった。知り合って三年と少し。ミクの人の好みは充分に把握できている。メイコを気に入らないはずがない。
メイコは利発で聡明な人だ。けれど彼女自身に向けられる好意に対しては、鈍いところがある。鈍いというよりかは、疎いのかもしれない。好意は好意として受け取るが、自分からは望まない。
そのメイコが、自分の気に入った人間を振り回し、掻き乱すことを趣味としているミクのような人物に捉まって、戸惑わないはずがない。
ミクがメイコを傷付けるようなことはないだろうと思う。カイトの大切なものだという認識がある以上、傷付けるような真似はしない。それでもミクはきっとメイコの悩みになる。
ルカにしてもそうだ。対となる者を求めてやまないルカのありようそのものが、メイコに男女を意識させるだろう。それは困るのだ。
「部屋にいるなら出させないでくれ」
居所を尋ね、命じた。先手を打っておくつもりだったのだが、返ってきた答えはカイトの期待を裏切るものだった。
「メイコ様は先程、庭にお出ましになられました。時間的にはお戻りの頃かと」
カイトの意を酌んでいるから、返答は申し訳なさそうな声音だ。非難はできない。そうか、と返し足を速めた。
家令に映らないのをいいことに、青い眸を険しくする。どうも、メイコが帰って来てからこちら、後手に回りすぎている。ルカの話を通していなかったのも拙かった。悔やむがどうしようもない。
カイト自身、メイコが戻ってきさえすればそれだけで、昔のようになれると思い込んでいた節を否定できない。十年の月日の中に、変化があって当たり前と言ったメイコの言葉を今更に痛感する。
彼女には変わりがない。変わったのは自分だ、とカイトは思う。一方的にメイコにばかり求めてやまない幼稚さだけ同じまま。
どうか、変わらないで。願って開かせた扉の向こうを、カイトは最悪と考えるべきか、最悪だけは避けたと捉えるべきか決めあぐねた。
 
   ・・・
 
車停めには馬車から降り立ったばかりらしいルカが、そして庭の散策から帰ってきたばかりらしいメイコが向かい合っていた。二人の間に漂う空気の様相から、自己紹介と自己主張はまだなされていないのだろう。
開かれた玄関扉に二人は振り返る。ルカは貴族然とした高慢さで。メイコは恐れるもののないような鷹揚さで。
ターコイズの眸は視線の棘を隠さず、榛色は見計らうようにカイトを見詰めてくる。状況の判定に迷った一瞬を、気付かれたのだろうかと思いながら、カイトは二人に向け笑顔を作った。
にこやかにスロープを下りていき、カイトは二人の女性に歩み寄る。そしてメイコの隣に立った。
見上げてくる驚いた顔に、笑みを落とす。客をリードするためにルカの隣に立つだろうとでも思ったのだろう。それ以上を考えた、とは思いたくない。そしてメイコに先に、ルカを紹介する。侯爵家の令嬢、それだけだ、と言外に言い含め。
驚きの残るままの榛色がこくりと頷いたのを見、カイトは向き直った。だがふと、伸ばした腕がメイコの背に触れられない。ポーズは取っても、ショールを羽織った細い背に、手を触れられないのだ。
「彼女は、メイコ。私の…大切な人です、フロイライン」
貼り付けた笑顔は完璧だった。だがカイトも動揺していた。言葉に迷い、そして知らしめられる。
自分自身の心の内を。
紹介をされて、礼をせねばと思ったらしいメイコが、手元を見て間を置いた。抱えられた蔓蔦を編んだ籠を見、カイトは思わず微笑んでしまう。ヤマモモの実がいっぱいに入っている。
幼い頃にはよく木に登って取って来てくれた。カイトも一緒に登ったのだが、メイコのようにすいすいと上に行けなくて、いつも下の方にしがみついていた。
『カイトはそこにいて。私が持ってきてあげるから』
淑女の所作にはうるさい女中頭が傍に控えているから、今日もまた登ったとは考えにくい。けれどきっと、カイトのためだから、持ってきてくれたのだろう。
大切な弟のためだから。
自分の口にした言葉。大切なひと、と言う当たり障りのない言葉に、託してしまった意味がじわりとカイトの内側に広がっていく。
メイコが持ち手を持たず、抱えているから安堵して手を伸ばした。触れずに済む。
「持ってるよ」
まだ何をか、思っているらしかったが、メイコは笑みとともに答えを返した。
「ありがとう」
ルカの一礼はさすがに洗練されている。だがメイコの所作には鷹揚さがある、とカイトは思った。榛色の眸でひたと相手を見詰め、指先がなめらかな深紅の生地をつまみ上げる。その指先が欠けていようがまるで問題にしない。平然と、まるで生まれ持ったかのような所作だ。
礼を重んじ名乗ったメイコに、ルカは相変わらず険のある眼差しを向けている。彼女の生まれの背後を考えれば、理由はわかる。メイコが然して気にしている風もないから、今は抛り置くことにした。
「ご来訪をお知らせくだされば少し用意もできたのですが…粗末なものしかありませんが、軽食でもいかがですか?」
そしてメイコを顧み、微笑む。
「良ければ、一緒に」
戸惑うような、もの言いたげな眼差しだったが、喜んで、とメイコは頷き答えた。
 

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