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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2011/09/07 (Wed) Comment(0)
初出:Pixiv





リビングにはボーカロイドが六人。洗濯物カゴが四つ。手があるからと、シーツまで洗ってしまったのだ。これから兄弟総出で洗濯物をたたむ作業に入るつもりだっただろうメイコは、こめかみを押さえて立ち尽くしている。
状況の説明を、と求められたのでカイトは箇条書きで解説をした。一つ、カイトは指を立てる。
「一、めーちゃんの証言で俺たちの関係がルカにバレた」
名前を出されたルカが、冴えたターコイズブルーを鋭くする。
「でも姉さまが秘してらっしゃるなら、と私は目をそらしましたわ」
刺さる視線はちくちく痛いが、素知らぬ顔をして二本目の指を立てる。
「二、ルカが俺から目をそらし続ける理由がわからなくて、俺とめーちゃんが口喧嘩になった」
メイコの眉がぴくりと反応した。表情は険しい。
「…あれが口喧嘩だったら、私たちしょっちゅう喧嘩してることになっちゃうじゃない」
喧嘩するほど仲がいい、の範疇であればしょっちゅうしているということなんだろう。カイトは答えず、三本目の指を立てた。
「三、めーちゃんがひどいこと言うから、俺が逃げ出した。手に何持ってるかは気付いてなかった」
メイコが紅茶色の眸を細める。ルカもターコイズを細めた。
「気付きなさいよ」
「気付くべきでしたわ」
気付かなかったんだから不可抗力。心の中で呟いて、耳を塞ぐ。
「四、リビングでルカと鉢合わせ。ルカがキレた」
「当たり前ですわ! ね、姉さまの…」
思い出したか、ルカが激怒し直そうとするのをメイコが止めた。
「うん、ごめんルカ。混乱するから」
「はい…」
やっぱりメイコのいうことは聞くのだな、と思いながらカイトは掌を開くように五本の指を立てた。
「五、めーちゃんが送り込んだミクとリンが俺とルカの会話を聞いてた」
ソプラノが二つ、きん、と響く。
「止めなきゃ、って思ったけど…入りにくくて…」
「だって! すっごい剣幕で喧嘩してるんだもん!」
妹たちの悪行を断罪してきた最高裁も、今回は動かなかった。糾弾される側に入っていることをちゃんと聞き取っている。カイトへの、視線を鋭くする。
「あんたが持ってったものが持ってったものだったから、レンをやるわけにいかなかったんじゃない」
逃げるように、カイトは左手の人差し指を掌に押し当てた。
「六、いまここ」
リビングに家族全員が集まり、互いに互いを窺っている。ほぼ全員に落ち度があり、全員に後ろめたい気持ちがあった。
互いに窺っていたのは、誰が最初にその言葉を口にするか、であり、それはおそらく彼女になるだろう。カイトはそう思っていた。
彼女が告げなければ自分がする。それでも多分、彼女は逃げたりしない。メイコが深く深く息をついた。
すっと顔を上げ、唇を結ぶ。カイトから順にひとつずつ、五対の眸に視線を合わせた。
ぴんと背筋を伸ばしたメイコは、やっぱり綺麗だなあ、とカイトは唇を綻ばせないようにするのが大変だった。
「ごめん!」
メイコがぺこりと頭を下げた。
ミクが、リンが、レンが、ルカが目を丸くした。我が家の最高裁、一つめの玉座、赤い女王が頭を下げたのだ。
メイコよりも背の低いミクやリンレンは言うに及ばず、さほど変わらないルカもそうそう目にすることのないつむじが見えている。カイトが独占して、弟妹たちに譲らなかったものの一つだから少し悔しいけれど、そのくらいは我慢しよう。
「内緒に…と言うか、だましていたのは悪かったわ。謝る。ごめんなさい」
でも。
そう呟いてメイコは少し、押し黙った。黙って、何も言わずただ。
ただ頭を下げたメイコの肩が、震えていた。頬にかかった胡桃色の短い髪の先が揺れる。滅多に見ない姉の姿を、弟妹たちが息を飲んで見守っているのを、カイトは見詰めていた。
やがて。
まるで水泳中に息継ぎをする人みたいに、メイコは勢いよく顔を上げた。その顔は真っ赤だった。
片手でその真っ赤な顔を隠して、ちょっと、待って、ごめん、を繰り返す。胡桃色の髪から覗く耳まで真っ赤で、紅茶色の眸は少し潤んでいた。
「ちょっと待って、ムリ。もうムリ。恥ずかしすぎる」
そして呆然と見詰める弟妹の視線から逃れるように冷蔵庫、ではなくその隣を見た。
「ごめん、酔わせて」
告げると、リビングを大股で横断する。ミクの淡いエメラルドが、リンとレンのスカイブルーが、ルカのターコイズがぽかんと見送った。
コレクションをしまい込んだキャビネットの前に立ち、手をかけ、振り返る。紅茶色の涙目が、カイトを見た。
いいわよね。
メイコの確認に、カイトは小さく頷いた。ほっとしたような顔に苦笑する。メイコはグラス一つと酒瓶を、左右の手に取り出した。
北の国からやってきた、無色透明の香り高い酒だ。水も氷も入れずに注がれた指三本分。
それを、呷る。
「カイ兄…」
レンが囁いた。視線はメイコに止まったままだ。
「俺、アレに火がつくの見たことあるぞ」
カイトは答えた。
「つくよ、アレ」
カイトには呑めない。料理になら、メイコに黙ってこっそり使ったりする。香りがつくのでもちろんバレるのだけれど。
コン、と小気味良い音を立てて、グラスがテーブルに下ろされた。兄弟が食卓として集うテーブルに片手をつき、メイコはふうっと息を吐いた。その顔はさっきよりもずっと赤いし、上目遣いに上げられた紅茶色の眸は先ほどの比でなく潤んでいて。
「正直、俺は押し倒したい」
誰にも聞こえないように言ったはずなのに、上下にパンチが来た。
「「だだ漏れ」」
それでも、ルカとレンの視線はメイコから離れない。ミクとリンにいたっては、こちらの会話なんてきっと聞いていない。
「ミクが…」
唐突に出た自分の名前に、ミクは驚いたように目を瞠り、瞬いた。メイコが呟く、その声はかすれていた。
「ミクがね、来たときに…私たちが、その、『つきあってる』ってのはダメだと思ったの」
潤んだ眼差しを、それでもしっかりミクに向けている。ミクが両手を胸の前で握り合わせた。
「ミクは妹で…先生たちに、妹ね、って言われたのがすごく嬉しくて…それなのに私たちが、つ、つきあっちゃってたらきっとなりにくい、って。こっ…こ、こいっ、こ恋人どうし…の、間になんて、絶対入りにくいって思って」
「お姉ちゃん…!」
ぎゅうっと力一杯握り合わせ、ミクの声は感動に震えていた。そんなにも気遣ってくれていた、と改めて喜びかみしめているんだろう。
「リンとレンが来て、家族で、きょうだいが当たり前になって、大丈夫かな、とは思ったんだけど…だ、だって、その」
本当だよ!と言いたげな顔でリンは見ている。こくこくと何度も頷いて、ルカだけが眉間にしわを作っていた。
だって、と言い淀み、メイコはきゅっと唇を結んだ。テーブルについた手がぎゅっと握られる。眉根を寄せ、妹たちを見詰めた。
「い、今更、恥ずかしくて!」
メイコの声がこんな風に裏返るのを、弟妹たちは初めて聞いたはずだ。カイトはそっと歩み寄った。
「だから…」
尚も言葉を接ごうとするメイコを後ろから抱き寄せ、少しかがんで囁いた。
「ん、もういいよ。めーちゃん」
酒瓶を握りしめたままのメイコの手に、手を重ねる。カイトが歩み寄っていたことにも気付いていなかったのか、紅茶色の眸が驚いた顔で見上げてきた。
少し緩んだ手の中から酒瓶を抜き、テーブルに置くと、椅子を引いてメイコを座らせる。
見上げてくる紅茶色の眸に笑いかけると、メイコの肩から少し力が抜けたようだった。その肩に手を置いて、向き直る。兄弟たちに。
「そんなわけで俺たちつきあってます。黙ってて、ごめんね」
告げると、ミクとリンが手を取り合って、半径5200cmに届きそうな高く弾んだ声を響かせた。レンはふーっと息をつき、ルカの視線は少し怖かった。
その視線に気付いたのか、気付いていないのか。わからないが酔ったまま、メイコはルカに声をかけた。
「あ、あのね! ルカ!」
メイコに呼ばれれば、ルカは眸の険を、むしろ剣を納めて見詰め返す。ルカの眸をしっかと捉え、メイコは言う。
「私、あなたにカイトの変なことまで、たくさん…本当に変なこと、たくさん言ってしまったみたいで、でもね、だけどっ!」
自分の肩に置かれたカイトの手を、ぎゅっと握り返してメイコは言った。
「でも、本当に、そういうカイトが大好きなの!」
カイトは固まった。ミクとリンからはきゃあっともう一度歓声が上がり、真っ直ぐに見詰めてくる紅茶色の眸に、ルカはにっこりと笑いかける。優しく、子守唄でも歌って聞かせるような声で答えた。
「存じておりますわ、姉さま」
けれどカイトの背には冷や汗が伝い落ちる。メイコさん、酔ってるんですね、知ってます。呟いて、明日の朝日を諦めかけた。
ちらりカイトに向く、ターコイズの眸は赤い道を敷いたスペードの切っ先のように鋭い。恐々とする兄をよそに、ミクは感動に泣き出さんばかり。リンは高く響き渡る声を遺憾なく発揮しながら、片割れであるレンの肩をばしばしと叩いていた。レンは、叩かれながら深い深い溜息をついていた。
 
   ・・・
 
そして夕飯には赤飯が炊かれた。
リンとミクが全力でネギとミカンを振る舞い、レンはバナナケーキを焼いてくれた。テーブルの真ん中には、尾頭付きで鯛の刺身が置かれた。
活け造りではなかったから、脅迫でなく、祝福であったらしかった。


-了-

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