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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2011/08/31 (Wed) Comment(0)
初出:Pixiv





翌日、薬局の開く時間になるのを見て、カイトは家を出た。
人間用の薬が効くものかわからなかったから開発チームに電話をしてみたら、ある程度は効果があると答えが返ってきた。民間療法的なものもいくつか聞けたけれど、後悔もした。
電話口の声が言ったのだ。
「二日酔いするほど呑むなんてねえ」
メイコの評価を下げてしまったかもしれない。カイト自身でも言い訳したけれど、スタジオスタッフに頼んで理由を伝えてもらおうと思った。メイコの様子がただ事でなかったのは明らかだったのだ。その理由さえ伝われば、きっと納得してくれる。
カイトには言いたくない何かでも、開発チームには大丈夫だろう。
濡れた道を踏みしめながら考えていると、心は少し落ち着いてきた。あの居心地のいい距離はなくしてしまっても、あるいはだからこそ、カイトはメイコを守るためだけに傍にいられる。
二日酔い用の薬をいくつか見繕って帰ると、メイコが起きていた。メイコの象徴のような赤いセパレートでなく、ゆったりとした私服でリビングにいた。
らしい。カイトの帰宅した音を聞きつけて、リビングのドアを開けたのだ。
「あ…」
カイトの顔を見て、安堵したように息を吐いて、けれどその表情はすぐに曇った。曇ったまま、困ったみたいな笑顔を作る。
「お帰り、カイト」
無理に作る笑顔が痛々しい。そんな風になら、笑ってくれなくていいのに。
「ただいま」
靴を脱いで上がると、紙袋を差し出した。驚いた顔をしているメイコに押し付けて、その横をすり抜ける。
「今、ご飯出すから。調子悪くても何か少しでも食べた方がいいよ」
招き入れるように、リビングのドアは明けっ放しにする。入ってくる様子のないのがさすがに気になって振り返ると、メイコは一歩も動かずにカイトの渡した紙袋を抱きしめていた。
「カイト」
声は震えていた。
「あの、昨日はごめんね…」
返す言葉が見つからなくて、カイトは押し黙った。
何に。本当はそれを聞きたかった。確かに泥酔は酷かったけれど、そんなことカイトにとって迷惑でもなんでもない。そんな酷い有様で、手助けをさせてくれないことの方が堪えたし、謝るくらいなら泥酔のわけを教えてほしかった。
君は何がそんなにつらかったの。俺はそれを共有することはできないの。
「…いや、俺の方こそ」
尋ねることもできず、それなのに自分の心を一つ軽くしようとする。心底どうしようもないな、とカイトは自嘲した。
「勝手に脱がそうとかして、ごめん」
メイコが目を瞠った。驚きに開かれた紅茶色の眸は、それから二つほど瞬いて、細められた。桜色の唇がきゅ、と結ばれる。
起きてから化粧を落としたんだな、と思った。口紅が乗ってない。
「アレ着たまま寝たらマズい、って思ってくれたんでしょ? ありがとう」
スタジオに向かうときの澄ましたような化粧も、ライブのときの舞台メイクも。ノーメイクだってカイトは知っている。どれが一番なんて選べない。可愛い。見惚れる。
でもそれも花の咲くように笑ってくれたら、だ。そんな困ったような笑顔を向けないで。
「そこ寒いでしょ。早く入んなよ」
呼ぶと、ごめんね、と謝ってメイコは扉を閉めながら入ってきた。暖房を掛けていたリビングに風が入っていることを思い出したらしかった。カイトが寒い思いをする、と思ったんだろう。苦い想いが沸き上がって、カイトは背を向けた。
キッチンへ行って冷めたシチューを温め直さないと。それを言い訳にして。
後ろでメイコがどんな表情をしていたかも知らずに。
 
   ・・・
 
暖め直したシチューを出しながら、昨晩のスタッフの言葉を伝えた。メイコの返答は、知っている、だった。携帯電話にメールが入っていたらしい。
「ゆっくり休むといいよ」
責任感の強い彼女には何の慰めにもならないだろうけれど、少しくらい気持ちを軽くしてもらいたかった。
「うん…」
頷きながら、それでも多分、迷惑をかけたスタッフや、今日の分の仕事に思いを廻らせているんだろう。
「メイコなら取り戻せるよ」
これは、本心。熱意でも能力でも、一日くらいの遅れを取り戻すなんて、メイコにはわけのないことだと思う。心からそう思ってカイトは言った。メイコが、スプーンを口に運ぶ手を止めていた。
紅茶色の眸がじっとカイトを見詰める。
「カイトは優しいね」
眩しそうに細められた眸に、間抜けた顔が映らなかったか不安になる。あんまりにも予想外の言葉だった。
「そんなこと、ないよ」
多分、声は震えた。それに気付かないみたいに、そんなことあるよ、とメイコが笑った。
その笑顔はやっぱり哀しそうで、胸が苦しかった。

 
---続

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