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カイメイ中心 * VOCALOID二次創作小説サイト * メイコ愛をこっそり謡う
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2011/08/31 (Wed) Comment(0)
初出:Pixiv





あれから五日。初音ミクは調整次第で来週か再来週に、という連絡が来た。それを受けたのは今度はカイトだった。
窓の外は雨。メイコは収録に出かけていて、あのときの約束があるから遅くなるなら連絡が入るだろう。夕飯を作っておこうかな、と思ってカイトはキッチンに向かう。
寒いし、雨だし、温かいものにしようと思いながら野菜カゴをのぞく。ニンジンと、じゃがいもと、と確認しながら手に取って、シチューなんかいいかいいかもしれない、と思う。ホワイトシチューならルーから作れる。牛乳もまだあるはずだ。
濡れないで帰ってきてくれるといいな、と思う。ボーカロイドだから、もちろん氷雨に打たれて人間のように風邪を引くなんてことはないけれど、条件によっては不調が起こりやすくなることはある。
何より、つらい思いはしてほしくない。冷たいのも痛いのも、哀しいのもつらいのも感じるのだ。ボーカロイドだって。
それなのに、メイコは自分自身にずさんなときがある。時々。
濡れて帰ってきて、風邪引くわけじゃあるまいし、なんて笑ってみせたり。カイトには必ず傘を持って出かけるよう、言うくせに。
風呂を沸かしておこうかな、と思う。濡れて帰ってきたときのために。
けれど結果として、それらの配慮のすべては無駄になった。メイコが帰ってきたのは夜半。それも泥酔して、知り合いのスタジオスタッフに送られてだった。
一人で歩くこともおぼつかない有様で、男性スタッフに背負われて帰ってきたその姿を出迎えたカイトは、さすがに一声怒鳴りそうになった。どうにか堪えたのは、今この状態の酔っぱらいに何を言っても無駄だという理性と、困るのは彼女を背負っているスタッフだという本来は温厚なカイトの良心ゆえだ。
ただ、彼に対する嫉妬がなかったわけではない。メイコに男性が触れているさまが、面白いはずがない。
「すみません、ご迷惑をおかけして」
早く引き離してしまいたくて、謝りながら背中からくたりと力の抜けた体躯を引き取った。抱き上げるのは憚られて、肩を貸して支えたメイコはそれだけで酒精が香るほどだった。どれだけ呑んだのだろうと思わず顔をしかめる。
「いや、今回は悪いのはコッチの方というか…」
スタッフが濁す言葉が気になって、藍青の眸を向けて首を捻ってみせる。メイコよりも人離れした作りの眼差しに見詰められて怯んだのか、男性スタッフの笑みが少し引き攣った。
「いや、勘弁してよ。止められてんだ、メイコちゃんに」
明日は休みでいいからと言い残し、スタッフは逃げるように帰っていた。腕の中に酔いつぶれたメイコを残され、カイトにはその言葉の意味を考える間も与えられない。介抱して、彼女がまともな意識を取り戻さない限りには、この憤りをぶつけることもできやしない。
取り敢えずベッドに、と踵を返すと鼻にかかった声が、ん、と呟いて薄い瞼が震えた。定まらない紅茶色の眸がかろうじてカイトに焦点を求める。
そこにいるのがカイトだと確かめた途端、メイコは身を捩った。
「…はな、して」
酒の匂いのする呟きに、思い切り顔をしかめて見せる。咎めているんだよと、知らしめたかった。
「歩けるならね」
だがさすがに酔っぱらいに理屈は通じない。
「歩け、るわ」
いかにも歩けなさそうな声音で返ってきた。
「無理だよ」
「や、はなして」
力なんか少しも入らないくせに、カイトが肩にかついだのと反対側の手で距離を取ろうと押してくる。意地っ張り。呟いて、カイトは怒った顔をした。本当に、少し怒っていた。
「だったら、どうしてこんなに呑んだの」
メイコが自分を傷付けるみたいに酒を呑んだことも、その理由を教えてくれないことも。一人で歩けないような状態になってもまだカイトに頼ろうとしないことも、それどころか避けようとさえしていることも。
カイトの視線を受けて、スタッフのように反らしはしなかったメイコは、あのときの顔をした。
哀しそうな顔。
傷付けたことに、傷付いた顔。
「カイトには、関係ないわ…」
そして、離して、ともう一度呟く。力ない拒絶に、カイトは抗しきれなかった。メイコの細い身体を抱きとめていた腕から力が抜ける。支えをなくして、メイコはくたりと床に座り込んだ。
そこから壁に縋って立ち上がる。痛々しい姿にはっとして、伸びかけた手はメイコの声に阻まれた。
「触んないで!」
あと、来ないで。そこまで言われて追うことはできなかった。
風呂場に消えた後ろ姿を見送って、カイトはずるずると床に座り込んだ。ボーカロイドの聡い耳に苦しげな声が聞こえてくる。
嫌われても構わないと彼女の制止を振り切れない、自分自身が一番腹立たしかった。
 
   ・・・
 
物音が、流れる水音ばかりになったのを聞き確かめてのぞくと、メイコは洗面台の下に崩れ落ちていた。蛇口を閉めて水を止め、意識のない身体に手を伸ばす。
触んないで。耳に残る言葉に怯むけれど、彼女をここにこのままにしておくことはできない。背中と膝裏に腕を入れて、抱え上げた。軽かった。
メイコは眉根を寄せ、背けるように顔を傾けた。苦しそうにゆがめられる寝顔を見下ろして、衣服を、せめてコートは脱がせなければならないのだろうと思う。コートを着てくれてたからまだ抱き上げることができたのに。
どうにかメイコの部屋まで抱いていって、ベッドに下ろす。苦しげな寝顔を覗き込むけれど、醒める様子はない。
覚悟を決めて、コートのベルトに手をかけた。息を詰めてベルトを緩め、次にはボタン。指を伸ばしかけたところで、起きる気配もなかったはずのメイコが目を開けた。
「っ!」
声にもならない息を詰める音がして、メイコが口を押さえた。カイトは慌てて指を引きながら三歩は軽く飛び退いた。
「ごごごごめん! でもだってそのままじゃだめだって思ってだから」
慌てて弁解しようとした。けれど、メイコの表情が見えて、カイトは何も言えなくなった。
泣いていた。紅茶色の眸に涙が見えた。
呆然としたカイトに、声をかけてきたのはメイコだった。
「わかってる、ありがと…でも、構わないで」
背を向けられる。当然だと思う。わかっている、とは言ってもそれはきっと、そう言わなければ今後の関係を作れないからだ。
何も言えず、カイトはメイコの部屋を出た。
ドアを閉め、それに寄りかかって崩れる。なくしてしまった。あんなになくすことを恐れてた距離さえ。
涙も出ず、夜半、雨は更に冷えきりみぞれ混じりになった。

 
---続

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