カイメイ中心
*
VOCALOID二次創作小説サイト
*
メイコ愛をこっそり謡う
初出:Pixiv
初めて諍いをしたのはうだるような夏の暑い日だった。夜通し録音をしても芳しい結果を出せず帰宅したメイコの苛立ちと、そんなメイコを待って徹夜をしてしまったカイトの寝不足ゆえの不機嫌がぶつかり合ってしまったのだ。
「連絡しなかったって言ったって、行き先はわかってたじゃない!」
「わかってたって、遅くなるなら遅くなるくらい言えばいいだろ!」
売り言葉に買い言葉。不毛であることは互いに理解していても、激した感情を納められなくて怒鳴り合う。
「そんなヒマなかったの! わかるでしょ、それくらい!」
メイコのその言葉も、本当はわかっていた。彼女の歌にかける情熱は、誰よりも理解しているつもりだ。自分より他の誰かの方が理解している、なんて許せないくらいに。
それなのに。
「わかる訳ないだろ! 俺にはそんな経験ないんだから!」
夜通しで録音するような仕事を、まだ引き受けたことのなかったときだ。今でもメイコほど大きな仕事が来ることは少ないけれど、あのときはそれをまだ、諦められずにいた。
「けどわからないのはメイコだって同じだ! 歌いたいのに歌えないやつの気持ちなんかわからないんだろ!」
顔なんて見ずに言い放ったその言葉が、どれだけメイコを傷付けたのか。
気付くのは下りた沈黙の後。
怒声でも罵声でも何か返ってくるだろうと、視線を背け待っていたのに返る声はない。沈黙ばかりが辺りを包んで、カイトは疑問を感じてそらせた視線をメイコへ返した。
メイコが唇を噛んでいた。歪められた哀しそうな顔。言い過ぎた、と気付かせるには充分だった。
「…ごめん」
カイトよりも先に、かすれた声が謝罪を呟いた。傷付けられた非難ではなく、傷付けた謝罪をしてきたメイコは泣き出しそうだった。
リビングでは昇り始めたばかりの鋭い陽光がじりじりと眩しくて、それなのに二人の立つ廊下は変に底冷えするみたいに冷ややかだった。じわりと首筋に浮かぶ変な汗を感じながら、カイトは呆然とメイコを見詰めていた。
「…これからはちゃんと連絡するわ。ごめんね」
声の終わりは涙を噛み殺して揺らいでいた。
「待っててくれて、ありがとう」
今にも零れそうな涙さえ拭えず、カイトは呟くことしかできなかった。
こっちこそごめん、と。
以来、つまらない言い争いはしたけれど喧嘩らしい喧嘩はせずにきた。メイコのあんな顔は二度と見たくなかったから。
---続
PR
この記事にコメントする